ORIGINAL LOVE田島貴男が見出した“今やるべきポップス”とは?「Negiccoの仕事はいい経験だった」

「渋谷系はスリー・コードでやらないでしょ?」

――田島さんが「ORIGINAL LOVEは渋谷系ではない」と言ってきたのはなぜでしょうか?

田島:僕はスリー・コードでも良かったんですよ。アーティスト性や物語性もポップスには重要だと思っています。渋谷系はスリー・コードでやらないでしょ? でも僕はチャック・ベリーが好きで、戦前ブルースも大好きです。楽曲の構造は単純でも歌い手が素晴らしいなにものかを表現していればいいんです。僕には楽曲主義的な考え方とアーティスト主義的な考え方の両方がある。だからヴォーカリストとしてもお仕事をいただけるようになった。両方をがんばってやってきて出来上がったのが「ラヴァーマン」というアルバムなんです。個性的なアルバムだから、パッと聴いてわからないかもしれない。でも楽曲も歌もポップです。今は「いいね!」の時代で、SNSがあるから即効性がないと置いていかれる。価値観が拡散性にシフトしていて、そこへのアンチテーゼなのかもしれないですね。作品性にあえて重きを置いたのが「ラヴァーマン」ですね。作ってるときはわからなかったけど(笑)。

――「今夜はおやすみ」ではブラジルのトロピカリア、「きりきり舞いのジャズ」ではカエターノ・ヴェローゾを聴いているような感覚になりました。

田島:でも、「今夜はおやすみ」も「きりきり舞いのジャズ」もブラジルは全く意識せずに作りました。そう聴こえるかもしれないけど、最近はそういう風には音楽は作ってないです。ブラジルよりライ・クーダーに近いかもしれない。昔なら「きりきり舞いのジャズ」をカエターノ・ヴェローゾを意識して作るような作り方をしていたかもしれないけど、今はジャズの理論を勉強しながら、自分の曲に学んだことを当てはめるような作り方をしています。

――「きりきり舞いのジャズ」の「ジャズ」も、一般的なジャズのイメージとは異なりますね。

田島:ジャズ的なスケールやコードを使っているけれども、ジャズじゃないんです。でも、ジャズを勉強してそれを意識しながら曲を作っているところが「風の歌を聴け」の頃との違いかもしれない。ジャズを勉強したことでアメリカン・ミュージックの懐の深さがよりわかってきたんです。ライ・クーダーやマイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダーにもジャズの要素が入っていることが分かって、また新鮮に聴けるようになった。「今夜はおやすみ」もジャズのコードを所々に使ってます。そこにハワイアンっぽいスライド・ギターを入れました。エキゾティックなポップ・ミュージックに仕上がったと思います。

――「きりきり舞いのジャズ」がひとりで演奏されていることにも驚きました。田島貴男名義で、ギターとハーモニカ、ループマシーンを使った弾き語りツアーをされた経験が反映されている部分はありますか?

田島:4年前から「ひとりソウルショウ」や弾き語りをやって芸の幅が広がったんです。バンド芸とひとり芸は芸としてまったく違うジャンルなんです。だからギターの演奏や歌をもう一回見つけ直さないといけなかった。ひとりソウルショウのコンセプトは「ひとりでダンス・ミュージックをやる」。YouTubeを見たら、ブルース・マンがひとりでダンス・ミュージックをやっていたんですよ。ブルースはロックンロールの原型で、ダンス・ミュージックで、ギターを叩いたりして独創的なことをしてるわけです。デルタブルースのギタースタイルは、ひとりで歌いながらギターを弾くために考え抜かれていて、一時期そればかり聴いてました。ハワイアンのスライド・ギターにも興味をもって少し勉強しました。

――「フランケンシュタイン」の複雑なリズムにも変化球を感じます。

田島:今思えば、あの曲でやりたかったのはカーティス・メイフィールドだったのかとしれない。カーティスは大好きですけれど、彼の影響を受けて作ったような曲はあまり書いてこなかったんですよね。だからここでカーティスをガツンとやってみました。

――ボーナス・トラックとして「ウイスキーが、お好きでしょ」が収録されています。これを入れたのは、新しい歌い方が見つかったからでしょうか?

田島:「ウイスキーが、お好きでしょ」の仕事が、今回のアルバムの前哨戦みたいになって巡り巡ってフィットしていて、まったく違和感がないんです。全部つながったんですよ。いろんな歌い方でたくさん歌わされて、完成テイクがあれになって、時間が経ってからあの歌のテイクのチョイスが正しかったとわかったんですよ。「こんなに良くなるんだ」って教えていただいた気がして。だからアルバムにピッタリとハマったんです。

――ORIGINAL LOVEは前身のThe Red Curtainから数えると結成30年です。振り返っていかがですか?

田島:ポップ・ミュージックは常に「今」なんですよ。いかに自分のキャリアを背負わずに、今の音楽としてゼロから始めるか。その連続でしたね。ポップスはしんどいんですよ。

――そのキャリアの中で、新作の位置付けはどんなものでしょうか?

田島:ORIGINAL LOVEとして今やるべき一番正しいポップスを作ることができたんじゃないかな。ジャケットも今までと違うぞ、と。前作や「ひとりソウルショウ」、「ウイスキーが、お好きでしょ」やNegiccoの仕事を経て今回のアルバムがある。聴いてすぐわかる作品じゃないかもしれない。この間、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』という映画を見てすごく共感したんですよ。SNSの即効的な価値観もあるけど、本当の感動は情報の手がおよばない人間の丸裸の「おバカさん」な部分なんです。その悲しみや喜びの深さを芸術作品が描いて残していくのは大事なことです。

 ポップスも、スタンダードとして残るのは、曲の裏に謎があるものなんですよね。「ダサい」「カッコイイ」を超えた魅力がある。それが作品の強さなんですよね。たとえば、松任谷由実さんや桑田佳祐さんが作られてきたポップスもそうなんじゃないかな。「接吻」(1993年のシングル)もそういう要素が含まれていたと思います。そういう意味で「接吻」は渋谷系の曲ではないと思うんです。だって、渋谷系はひたすらかっこいいだけの音楽でしたから。それと、流行り言葉で消費されるのは嫌だったから、「渋谷系とは違う」と言ったりもしました。僕も小西さん(小西康陽。田島貴男が1990年まで在籍したピチカート・ファイヴのメンバー)もスタンダードを作りたかったんです。ピチカートも渋谷系と言われるけど、小西さんだって実は昔から真っ当なポップスを作りたかったんだと思うんです。ピチカートで、僕と小西さんと敬太郎さん(高浪敬太郎。ピチカート・ファイヴのメンバー、現在の表記は高浪慶太郎)はスタンダードはどうやって書くことができるのか、過去の音楽をいっぱい聴いて学んでいたんです。

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ORIGINAL LOVE『ラヴァーマン』(WONDERFUL WORLD RECORDS)

■リリース情報
『ラヴァーマン』
発売:2015年6月10日(水)
価格:¥3,240(税込)

<収録内容>
1.ラヴァーマン
2.ビッグサンキュー
3.サンシャイン日本海 
4.今夜はおやすみ
5.フランケンシュタイン
6.クレイジアバウチュ 
7.きりきり舞いのジャズ
8.四季と歌
9.99粒の涙
10.希望のバネ

BONUS TRACK
ウイスキーが、お好きでしょ/田島貴男
(田島貴男 サントリー角ハイボール CMソング)

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