作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」第2回(前編)
SMAP、NEWS、Sexy Zoneの歌詞に隠れる“引喩”とは? 表現を豊かにするテクニック
修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家やコトバライター、小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。連載第一回では、中田ヤスタカと秋元康という2人のプロデューサーが紡ぐ歌詞に着目したが、第二回では“比喩表現”に着目し、作詞家目線から歌詞の表現技法を解説してもらった。(参考:きゃりーぱみゅぱみゅと小泉今日子の歌詞の共通点とは? 作詞家・zoppがヒット曲を読み解く)
「修二と彰の『青春アミーゴ』は10代や20代向けを狙うため、歌詞に『携帯電話』を使った」
――今回のテーマは“比喩表現”ですが、種類が多いのでどれか一つに絞ってお話いただこうと思います。
zopp:そうですね。今回は“引喩法”をメインにお話しましょう。先に他の比喩表現について説明したいのですが、例えば“直喩”。これは「彼女の肌はシルクのようだ」とか、例えていることを明らかにしているもので、派生形として擬人法や擬態法などがあります。一方、暗喩というものもあり、「彼女の肌はシルクだ」と断言する形です。「比喩表現」という単語自体を辞書で調べると、「例えられる何かを伝える人にいかにリアルに伝えるか」という意味合いということで、たとえば、海を見たことがない子供に海の広さや色を説明するときに「海は青いよ」って言われても理解できないじゃないですか。そこで「君の部屋にある青い絨毯をふわふわと波打たせたようなものが海だよ」と教えると、その少年が人生で初めて海を見て「言ってた通りだ!」となるわけです。
ーー音楽とは違いますが、「さまぁ~ず・三村マサカズさんやフットボールアワー・後藤輝基さんなどがテレビでよく使うツッコミの手法」というと分かりやすいのかもしれないですね。
zopp:彼らのツッコミが個性的なものとして捉えられてる背景って、比喩表現自体は一昔前の人から見たら普通なのに、近年の若い子からすると新鮮に思えるというフィルターがあるのかもしれません。今はなんでも検索すれば出てくる時代で、携帯電話一つあれば例えなくても探せてしまう。先に挙げた彼らのツッコミを例えられる面白さって言うのを改めてああやってまた実感し始めてるんだろうなって。ただ、知らない間に実感していってるんです。作詞って時代が変わっても本質は変わらないものだと思っていて、恋愛にしても「想いを伝えて付き合う」という部分や、親の反対、身分の違いなど、それが成立するまでに生まれる障害は同じ。ただ、比喩表現やアイテムに時代感が如実に表れるので、電報が黒電話になり、ポケベルになって携帯電話になったり、娯楽施設が増えたことで「ヒルズ」とか「ジェットコースター」みたいな新しいアイテムも増えた。
ーー物語の骨格ってのは変わらないけど、上物が変わっていった。
zopp:そう。短歌を詠んで恋心を間接的に伝えてた昔の人と、やってることはずっと変わらないわけです。修二と彰の「青春アミーゴ」は、幅広い世代の方が聴いてくださっていて、40代や50代の方にも評価していただいたのですが、僕が作詞をした段階では、10代や20代を狙いたくて、冒頭の歌詞に「携帯電話」を使ったんです。でも、それ以外の時代背景はマフィア映画的な世界観にしたので、おそらくそこに共感してくれたとは思うのですが。そういうタイムスリップ感もまた面白かったのかもしれませんね。
――なるほど。さて、数ある比喩表現のなかで「引喩法」はどんな効果を生むのでしょうか。
zopp: 僕は作詞を教える際、生徒に「感覚的に書ける人は天才タイプだけど、そこにお金と人材が集まっていた昔とは違い、今はそこまで天才が出てこない。だから感覚的に全てを捉えるんじゃなくて、論理的に物事を捉える秀才になれるように努力してほしい」と伝えています。また、比喩表現についても「思い付きだけでずっと書けるのは天才だけだし、普段から比喩表現がスラスラと出てきづらい世の中だから、しっかり比喩表現を学んで引き出しからアウトプットして欲しい」と教え、大体8個~10個くらいの表現技法を教えています。そこで教えているなかで、僕が好きなのが今回のテーマである「引喩法」。誰かの言葉や過去の出来事を引っ張ってくるというもので、有名な文学作品や芸術、歴史的事実、詩、歌、ことわざ、名言などをそれとなく言及してそれらを新しい文脈に融合させ表現の内容を豊かにさせる修辞的方法です。