カジ ヒデキが語る、80年代UKインディシーン「レーベルもやっていたS・パステルは神様でした」

思い出深いUKインディ・レーベル

ーー当時は小さなレーベルがたくさんありました。とくに印象に残っているものはありますか?

カジ:スティーヴン・パステルの53rd & 3rdは、ザ・ヴァセリンズやグルーヴィー・リトル・ナンバーズとか良いバンドぞろいで大好きでした。先ほども出たサブウェイ・オーガニゼイションはジャケットに統一感があって、アンディ・ウォーホル的なポップアートっぽさがありました。ドリームワールドやレイジー、ピンクやグラス、あと80年代終わりのサラ・レーベルもよかったですね。

ーーレーベルごとにコンピレーションも出て、名盤として評価されるものも多かったですね。

カジ:80年代だったらクリエイション・レコーズ、ラフ・トレード・レコード、もちろんファクトリー・レコードも大きかったですね。クリエイションの初期のコンピなどは廃盤になって買えなかったシングルが聴けたので良かったけど、それもすぐにすごくレアになったりしてね。90年代初め、当時渋谷にあった輸入レコード店ZESTでバイトをしていて、そういうレコードが買いつけで入ってくるのですが、なかなか自分のものにはできなかったです。チェリーレッド・レコードは日本編集盤もあって、そのジャケットがまたよかったですね。4ADの耽美さも好きでしたが、チェリーレッド・レコードやクレプスキュールのさらっとしたオシャレな感じのほうが最高に好きでした。

ーー当時はレーベル買いというか、たとえばラフ・トレード・レコードの新人だから聴いてみよう、というような買い方もしましたか?

カジ:そうですね、もちろんしましたよ(笑)。でも20歳くらいになって、インディ・レーベルを意識するようになってからですね。クリエイションやチェリーレッドは必ず買うとか、ラフ・トレード・レコードとかファクトリーの新人だから買っておこうとかね。あと80年代の終わりから90年代になりますけど、サラ・レーベルはレーベル買いしました。でも、まだ高校生のころは、ラフ・トレード・レコードとかのジャケットのセンスの良さとかに気づかなかったですし、4ADくらいですかね。ポストカード・レーベルとかはマイナーすぎて、実際にオレンジ・ジュースを聴きはじめたのは、ロリポップ・ソニックのみんなに出会ってからなんです。

ーーフリッパーズ・ギターの前身となったロリポップ・ソニックの影響もあったと思いますが、80年代後半にはUKインディーズを日本で再評価する動きがあったように思います。

カジ:実際、そうだと思います。80年代後半になると情報ももっと増え、当時イギリスでおこった『C86』というムーヴメントは大きく日本のシーンに影響はしなかったけど、確実にその流れをくむロリポップ・ソニックのようなバンドが登場したり、80年代初頭のポスト・パンク〜ネオ・アコースティックな音楽の良さを伝える音楽ライターさんが増えたりして、再評価の機運は高まっていたと思います。そんななか、たとえばエル・レコードのレーベル力は衝撃的でした。その当時、LOFT渋谷店の1階にWAVEがあり、そのお店は店舗全体の壁を使ってレコード・ジャケットを面出ししていてとても新鮮でした。あるときそこにエル・レコードの10インチ・シリーズがずらーっと並べられていて、すべてほしくなりました。ジャケットがカッコ良くて、最高だったのです。音楽もポップとアバンギャルドが融合していました。エルと同様にチェリーレッド・レコードから派生したブランコ・イ・ネグロなどもありましたね。ジーザス&メリーチェインやモノクローム・セットもここから出していましたよね。

ーーエル・レコード所属で記憶に残っているアーティストは?

カジ:ルイ・フィリップ、キング・オブ・ルクセンブルグ、アンソニー・アドバース。あとはウッド・ビー・グッズと、バッド・ドリーム・ファンシー・ドレス、マーデン・ヒルなどがインパクトありましたね。とくにバッド・ドリーム・ファンシー・ドレスの1stの10インチ盤に入っている「カレー・クレイジー」は、そのあとにくる瀧見憲司さんのイベント『ラヴ・パレード』などでアンセムでしたね(笑)。エル・レコードは86〜87年くらいがピークだったと思いますが、実際に日本で評価されたのは90年代でちょっとズレがありました。僕がZESTで働いていたのは91年の秋からですが、そのころでもウッド・ビー・グッズの『カメラ・ラブズ・ミー』(88年)とかは、女の子たちにいくらでも売れました。お客さんが女子高生だったというのも、今考えるとすごく不思議な現象です。今、海外のマイナーなバンドを女子高生が買いにくることはまずないという意味でも、良い時代でしたね(笑)。

ーー当時買った10インチレコードはまだ持っていますか。

カジ:もちろん。90年代に入るとCDも買いましたが、80年代、90年代はほとんどアナログで買っていました。今でもエルやクリエイション・レコーズやチェリーレッド・レコードなどのレーベルのものは大切なコレクションです。

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