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新作『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』インタビュー

久石譲、エンタテインメントとクラシックの未来を語る「人に聴いてもらうことは何より大事」

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 日本を代表する映画音楽の作曲家であり、近年はクラシックの指揮者としても活躍する久石譲。これまで多岐にわたる作品を発表してきた彼が、『WORKS』シリーズとしては約9年ぶりとなる新作『WORKS Ⅳ』を完成させた。映画やドラマなどに提供した楽曲を今一度フルオーケストラ作品へと昇華させるというコンセプトを持つ本作では、宮崎駿監督『風立ちぬ』や高畑勲監督『かぐや姫の物語』、山田洋次監督『小さいおうち』などの音楽がより一層格調高く、ドラマチックに演奏されている。クラシック音楽やミニマル・ミュージックを出発点としつつ、エンタテインメント分野で大きな足跡を残してきた久石は今、どんなビジョンを持って音楽を生み出そうとしているのか。今回リアルサウンドで行ったインタビューでは、収録曲のコンセプトから、現代音楽やクラシックへの問題意識、さらには“ポピュラーミュージックの勘所”といったテーマまで、じっくりと語ってもらった。

「宮崎さんとの仕事を、きちんとした形で残していこうという意図はありました」

――久石さんにとって『WORKS』シリーズの位置づけとは?

久石:映画など他の仕事でつくった音楽を「音楽作品」として完成させる、という意図で制作しています。映画の楽曲であれば、台詞が重なったり、尺の問題があったりとさまざまな制約があるので、そうした制約をすべて外し、場合によってはリ・オーケストレーションして音楽作品として聴けるようにする。『WORKS』シリーズはそうした位置づけの作品です。

――映画音楽は、音楽作品としての完成形を描いた上でつくられているのでしょうか。

久石:ものによっては音楽作品にするときのアイデアが浮かぶこともありますが、映画をつくっているときは、全体を見通すほどの余裕はありません。曲づくりが終わったあとに、客観的な視点を持って音楽作品になるかならないかを“点検”することが多いですね。

――『WORKS IV』では、冒頭に宮崎駿監督の『風立ちぬ』の音楽を組曲化した作品が収録されています。

久石:この曲の特徴としては、バラライカなどロシア系の民族楽器を使っていることが挙げられます。その民族楽器と、小編成のオーケストラとの協奏曲スタイルをとれば成立するのではないかと思ってつくりました。

――映画バージョンとはまた違う作品性があり、これは色々な場所で演奏されそうですね。

久石:そうなってほしいですね。一度こうして作品として形にすれば、きちんとした譜面を出すことになりますので、「もし演奏したい人がいればどうぞ」という思いです(笑)。手にしづらい民族楽器を使ってはいますが、バラライカはマンドリンで、バヤンはアコーディオン系で代用できます。アマチュアのオーケストラでも再現できる可能性はありますね。

――こうして作品化された背景には、ひとつの芸術作品として長く聴き継がれていくものを、というお考えもあるのでは?

久石:そうですね。たとえば宮崎さんとの担当作は数えて10作、30年間に及びます。それを多くの方が聴き、それぞれに評価してくれました。そして『風立ちぬ』が最後の(長編)作品になるということですから、きちんとした形で残していこうという意図はありました。

―― 一方、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』の音楽は、アニメーションと連動した躍動的でドラマチックな展開が印象的でした。再構成するにあたっては、どのような点を特に重視されましたか。

久石:これはかなり苦しみました。何度もトライして、うまくいかないからやめたりもして(笑)。でも、しばらく経つと、挫折したような感覚が嫌になり、再びチャレンジするんです。その繰り返しで、最終的にはコンサートの一ヶ月くらい前に完成しました。

――特に苦労された点とは?

久石:まず、本作の音楽としては「わらべ唄」という高畑さんご自身が作られた本当にシンプルな歌が基本にあるんです。それが重要なシーンに使われているから、僕の書く音楽にも五音音階を取り入れないとバランスが取れない。つまり、「ドミソラドレ」とか「ドレミソラド」というものですね。さらにこれをひとつ間違えると、すごく陳腐になり、不出来な日本昔話のようになってしまう(笑)。それをなんとか高畑さんのイメージに合うように工夫するのですが、高畑さん自身が音楽に詳しい方なので、細かい要求がたくさん出てくるんです。そのひとつひとつに応えていったことで、いろいろなスタイルの音楽が混在してしまうことになり、まとめるのが難しくなりました。

 『風立ちぬ』でロシアの民族楽器を使ったように、「『かぐや姫の物語』は日本を題材とした映画だから、和製楽器の琴とオーケストラでやろう」というアイデアも出ました。ところが、そうすると逆にトリッキーになってしまう。一度聴く分には面白いんだけれど、きれいにはまとまらないんです。それで他の楽器を足すなど試行錯誤しましたが、オーケストラだけのシンプルな構成のほうが統一感がある、というところに行き着いて。そこに至るまでにけっこうな時間がかかりました。

 また「天人の音楽」(天人が天から降りてくるときの音楽)は、もともとサンプリングのボイスなどを入れていたので、オーケストラとの整合性がうまくとれずに苦戦しましたね。ただ、それが現代的にかっこよく響いてくれれば成功するだろうという狙いが根底にありましたし、高畑さんも実験精神旺盛な方ですから、とがったアプローチをしても快く受け入れてくれました。「五音音階を使っているのに何故こんなに斬新なの?」と思わせるラインまではすごく時間がかかりましたが、結果として納得いくものができました。

――今作には山田洋次監督の『小さいおうち』をベースにした楽曲もあり、全体を通して昭和モダン的な雰囲気が伝わってきます。

久石:『風立ちぬ』や『小さいおうち』は戦時中、昭和の時代の話なので、その雰囲気は出てくればいいなと思います。ただ、僕は昭和25年生まれなので、戦争のことはもちろん、こうした作品の時代性や雰囲気はまったく知らない。知っているのは、高度成長期以後の昭和の雰囲気や、当時のポップスや歌謡曲なので、その雰囲気を出そうとは意識しました。

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