久石譲、エンタテインメントとクラシックの未来を語る「人に聴いてもらうことは何より大事」

「ウケなければ正義じゃない、というエンタテインメントの鉄則が好きなんです」

――先ほどもお話に出ましたが、久石さんが刺激を受けるクリエイターを何人か挙げていただけますか。

久石:最近だと、アメリカの32歳のニコ・ミューリー。彼はいいですね、完全にポストクラシカルの人間で、ビョークのプロデュースをしたり、メトロポリタンオペラというアメリカで一番大きな歌劇場でも曲を書いています。技術力もある。こういう新しい世代がガンガン出てきています。セルゲイ・プロコフィエフの孫にあたるガブリエル・プロコフィエフも面白いと思います。

また、最近気になっているのは、スウェーデンの『ブリッジ』というテレビドラマの音楽です。ノルウェーとスウェーデンには橋があり、そのど真ん中に死体が出て、どっちの警察が処理すべきかわからないから特別編成チームができる。しかし、お互いに自分の国の進め方があるから喧嘩しながら捜査していくことになる。そこに猟奇的な連続殺人事件が起きて…という物語で、いまちょっとハマっているんですよ(笑)。そして、エンディングに流れている北欧独特の音楽が非常に良い。シンプルに見せておいて、ふとした切り口がすごいんです。「これは俺たちが20分かけてフルオーケストラでやっても表現できないな」という音楽に出会うことがあります。

――久石さんは今後、ポピュラーミュージックの分野でもお仕事をされますか。

久石:そうですね。仕事を選んではいますが、決してエンタテインメントなことをやめたわけではないんです。客観的になることは、自分にとっては大事なこと。作品ばかり書いていると自分のことしか考えなくなります。それに、エンタテインメントの鉄則が、僕は好きなんですよ。それは、「ウケなければ正義じゃない」ということ。自分がいいと思うのが正義ではなく、売れたものが正義。ウケなくなったらまずいので、絶えず自分と時代について考えなければならない。それは続けていこうと思っています。

――日本のエンタテインメント音楽の現状についてはどう思われますか。

久石:そもそもCDが売れていませんからね(苦笑)。音楽という文化的なもので感動する下地を、みんなできちんと考えなければ、先は厳しいなと思う。あとは、情報化の行きすぎが気になりますね。音楽はそれなりの装置やプロセスを経て作品と対峙しないと厳しい。音楽をただの情報として捉えるようになってしまうと、音楽への感動はなくなるのではないかと思うんです。ポップスのアルバムで10曲入れようとすると、コマーシャルの音だけじゃなくて、「今やりたい音」も入れることで、トータルで本人のやりたいことが見える。それを、一曲ごとのダウンロードを主流として考えていたら、単発のコマーシャリズム狙いになってしまいます。すると結果的に自分たちが疲弊していくし、音楽にパワーがなくなっていく。クラシックの話でも同じことを言いましたが、新しいことをやらないと先はないんです。重要なのは、その音楽にオリジナリティがひとつでもあるかないか――CDを買ったら、まずはそれをきっちり聴くという作業をしてほしいですね。

――作り手も、自分のやりたい領域を確保していく必要があると。

久石:そうです。僕もかつて一生懸命にポップスをやっていましたが、ひとつのベースの音をつくるのにシンセサイザーを組み合わせたりして、5時間かかったりするわけです。でも、いまはプリセットでも簡単に作れてしまう。当然ながら、誰でも作れる音にお金を払う価値はなくなります。日本のJ-POPといわれるものを聴いたら、みんな音が同じだもん。歌もみんなピッチを変えて(笑)、修正ばかりでつまんないですよ。

 僕が思うのは、ひとつのものをつくるには手間暇をしっかりかける必要があるということです。「みんな使っている音では嫌だから、自分でつくろう」という気持ちは大切です。たとえばハイハットの音だって、自分でつくれば人に届くんですよ。ポップスの場合は音をわかりやすくするために分厚くできないから、ベースやドラムの音ひとつで世界観をつくる、というレベルまでつくりあげないと、聴く価値には行き着かないと思います。

――ご自身でも、J-POP的な楽曲にチャレンジしようという気持ちは?

久石:いえ、今のところはありません(笑)。ただ、面白いことだったらもちろんやりたいから、アイデアが出れば挑戦したい。可能性はなくはないですね。

――精力的に演奏活動をされていますが、じっくりと作曲する時間はどう確保されているのですか?

久石:難しいですね。まずは来年など、ずいぶん先に委嘱されているものをきちんとつくらなければいけないし、それにはやはり手間暇がすごくかかるんです。自分の作品を書くことと、エンタテインメントの仕事と、そのあたりの時間の配分はかなり考えないといけない。だから、いつも落ち着かないですね。あれもこれもやんないと…と思いながら、深夜にはアメリカのテレビドラマを見ちゃうんですけど。見だすと止まらなくなるから、テレビのない世界に行きたい(笑)。

――最後に、久石さんが常に休まず、クリエイトし続ける理由とは?

久石:僕は走りながら考えるタイプなんです。立ち止まって考えると、逆になにもできなくなってしまう。だから、つくりながら考え、修正を加えていく、というのが性格的に向いていると思います。ただ、今年は依頼をほとんど断って、よく立ち止まるようにしているんです。来年からはもう一度、しっかりやりたいと思っていますよ。

(取材・文=神谷弘一)

■リリース情報
『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』
発売:10月8日(水)
価格:¥3,240(税込)

<CD収録内容>
1.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢中飛行)~菜穂子(出会い)
2.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~カプローニ(設計家の夢)
3.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~隼班~隼
4.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(結婚)
5.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~避難
6.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(会いたくて)~カストルプ(魔の山)
7.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~菜穂子(めぐりあい)
8.バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲~旅路(夢の王国)
9.Kiki’s Delivery Service for Orchestra (2014)
10.ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
11.交響幻想曲「かぐや姫の物語」~はじまり~月の不思議
12.交響幻想曲「かぐや姫の物語」~生きる喜び~春のめぐり
13.交響幻想曲「かぐや姫の物語」~絶望
14.交響幻想曲「かぐや姫の物語」~飛翔
15.交響幻想曲「かぐや姫の物語」~天人の音楽~別離~月
16.小さいおうち

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