>  >  > 一青窈、話題の新曲に込めた”激情“

青木優の『他人の関係 feat. SOIL&“PIMP”SESSIONS』レビュー

一青窈が『昼顔』主題歌に込めた“激情”とは? シンガーとしての新境地を分析

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 すさまじくアグレッシヴな、そしてディープな歌だ。一青窈がこのタイミングでこうした曲をリリースしてくるとは予想していなかった。ニューシングル『他人の関係 feat. SOIL&“PIMP”SESSIONS』のことである。

 一青は今までに、数多くの昭和歌謡を歌ってきた。2005年にはライブのセットリストに歌謡曲のメドレーを取り入れていたし(ライブDVD『夢街バンスキング ~はいらんせ~』に収録)、2012年には昭和歌謡に焦点を当てたカバー集『歌窈曲』を発表している。「他人の関係」はそのアルバムでも歌われていたのでファンにはすでにおなじみではあるのだが、今回はまったくのニューバージョンとなってのシングルリリースである。

 そもそも「他人の関係」は、1973年に金井克子が歌って大ヒットした曲。大人の男女間の秘めごとめいた愛情を綴った歌なのだが、実はこの曲は、現在O.A中のフジテレビ系連続ドラマ 木曜劇場『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(出演:上戸彩、吉瀬美智子、斉藤工 他)の主題歌になることが最初から決まっていたという。というのも、このドラマのテーマは、不倫をしてしまう大人たちの心理にあるからだ。そして同番組の制作サイドはこの楽曲を前提にしてシンガーを選定する過程で、一青が過去にカバーした際の楽曲を耳にしオファーをした、という流れだったようだ。

 これを受けた彼女は新たな「他人の関係」を作り上げるべく、コラボの相手役として、かのSOIL&“PIMP”SESSIONSを指名。ジャンルや国境を超えた活動を続け、「デスジャズ」の異名をとるSOILのパンクでワイルドな魂と、一青の歌とはこうして邂逅することとなり、この曲の仕上がりをじつに深い領域にまで持っていくことになったわけだ。

 まず耳を惹かれるのは音、そして歌である。なにしろオリジナルの「他人の関係」はイントロや間奏でくり返される♪パッパッパヤッパ~、というコーラスが大きなイメージを形成していることで有名だが、このテイクでの一青+SOILは、あの箇所を声ではなく、ホーンセクションのリフレインで表現してしまっているのだ。そこに激しいビートも相まって、アレンジ自体は非常にシャープな印象を受ける。なのに、これが歌に入ると一転してサウンドの主導がピアノに移り、ぐっと抑えめのトーンの中で一青の声がクローズアップされるのだ。それがまた徐々に盛り上がり……と、この静と動のコントラストが鮮やかなのだ。

 そしてここでの一青のボーカルは、主人公の内面を見事なまでに表現している。ほてる心を抑制しようとしながらも、どうしてももてあましてしまう激情そのもののようなブレス。その歌唱は、歌詞にない声やスキャットをところどころで入れるような微細な表現によって、濃厚なエモーションと大人の味わいを強く感じさせる。かつての彼女は、「歌謡曲のカバーにはどこか他人の心を演じるような感覚がある」と語っていたが、この曲ではそうした距離感とリアルな感情が絶妙の場所に着地していると感じる。これは、過去にさまざまなことを経験し、体感し、くぐり抜けてきた一青だからこそ歌える歌だろう。彼女については「もらい泣き」や「ハナミズキ」の歌のような清廉なイメージが強く、この3月に発表した前作シングル「蛍」もあたたかく切実な思いやりの気持ちが込められたバラードだった。それだけに、この「他人の関係 feat. SOIL&“PIMP”SESSIONS」のインパクトはよけいに大きい……わけなのだが、間違いなく、このどちらとも、一青窈の歌の世界である。優しさも、慈悲も、欲望も、衝動も、だ。どちらも人間くさい感情であり、今の彼女はそれを遜色なく歌いきるシンガーとしての境地にきている。

 また、この「他人の関係」は、別の角度からも興味深い点がいくつかある。音楽シーンという観点からは、EDMに代表される打ち込みのサウンドが全盛のメインストリームで、こうした純粋な生演奏とともにニュアンスに富んだ歌を聴かせるという点で、たいへんに挑戦的であると言える。また、ここ数年は由紀さおり八代亜紀が往年の歌謡曲をジャズ・アレンジによってこの21世紀に蘇らせるという歌のアプローチをしてきているが、一青のこの曲はそうした流れへの下の世代の歌い手からの返答とも解釈できる。また、「歌謡曲のカバーブームも落ち着いた今、どうしてこの曲を?」という声も聞こえてきそうだが、そもそも一青は音楽のルーツに歌謡曲があると公言しているアーティストであり、これはそのことをあらためて指し示した1曲でもあるだろう。

 なお、ジャケットのイラストは、痴漢撲滅ポスターなど、昭和時代の劇画的なタッチで知られる師岡とおる氏による描き下ろし。さらにSOILも登場するMVは、いま注目の春山 DAVID 祥一氏が監督しており、それが欲望をヴィジュアル化した強烈な出来になっていて……と、何もかもがアグレッシヴなのだ。今年後半の一青窈は、今までとはひと味違う、かなりヤバい展開を期待できそうである。


■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT's IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。
ブログ:子育てロック


■リリース情報
『他人の関係 feat. SOIL&“PIMP”SESSIONS』
発売:8月27日(水)
〈収録曲〉
1.他人の関係 feat.SOIL&“PIMP”SESSIONS
2.GOKAI feat.トランスパランス
3.他人の関係 feat.SOIL&“PIMP”SESSIONS (instrumental)

※初回限定盤【CD+DVD】
¥1,700(税抜)
※通常盤【CD】
¥1,300(税抜)

■Music Video
http://youtu.be/GxZMscM3dwo

■iTunes、レコチョク他、各配信サイトにて先行配信中
ダウンロードはこちら
iTunes:http://po.st/ithitoto
レコチョク:http://po.st/recohitoto

イラストレーター:師岡とおる
武蔵野美術大学卒業。more rock art all名義でグラフィック、マンガ、刺繍、コラムなど、様々な表現方法で活動。
イラストのタッチは変幻自在で多種多様。www.more-rock.jp

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