宇多田ヒカルの歴史的名盤はこうして生まれた 関係者が語る15年目の『First Love』

 リアルサウンドで連載を始めさせていただくことになりましたYANATAKEです。記念すべき第一回目は、デビュー当時から大ファンで、ずっと追いかけてきている宇多田ヒカルさんのデビュー・アルバム『First Love』15周年記念盤『First Love -15th Anniversary Deluxe Edition-』について書こうと思います。

 大事な初回ということで、常日頃からお世話になり、『First Love』がリリースされたときから東芝EMI(当時)で宇多田ヒカルのプロモーターとして働かれている(現・ユニバーサルミュージック合同会社勤務)梶望さんに当時の状況も聞きつつ、連載を進めていきたいと思います。

本人は人間活動中でも、ファンの方が待ってくれている

梶:連載スタートおめでとうございます。YANATAKEさんとはレコード・ショップ「CISCO」のバイヤー時代からの長い付き合いになりますね。

――あれから15年も経ってるのか! と思うと感慨深いです。その当時の話や、今回のリリースについていろいろとお話を聞きたいですが、まず今回の15周年記念盤をリリースすることになったのは、どのような経緯だったのでしょうか?

梶:EMI MUSICとユニバーサルミュージックが合併したことで、棚上げになっていたUtada名義の全米ライブハウス・ツアー『In The Flesh 2010』の映像作品を、iTunesストアで配信する目処がついたことがきっかけでした。(リリースを)待ってくれているファンの方が本当にたくさんいたので、これを宇多田のデビュー記念日である12月9日にリリースしようと決めたんですね。

 デビュー10周年のときは『点-ten-』と『線-sen-』というオフィシャル・ブックをリリースをして、15周年を迎えるにあたっては、人間活動という名のもと、一時活動休止中ということもあってどうしようかな? と思っていたんですが、制作担当の沖田が、改めて“15周年記念盤”というのはどうでしょう? と発案したら、すぐにOKをもらえたんです。それからトントン拍子に話が進んだ感じですね。

――リリースが発表されたとき、15,750円の限定生産品が話題になりましたよね。まさかの未発表音源収録と聞いて、真夜中でしたが迷わず予約して、その後、ビヨンセの新作「BEYONCE」のサプライズ・リリースもありましたが、正直そのときより驚きました。

梶:当初は5,000セット限定の販売予定だったんですが、一晩も経たない間に予約で完売してしまったので、10,000セットに増やすことにしました。それでもあっという間に予約で埋まってしまったので、増産することにしたんです。アーティスト本人は人間活動中でも、これだけファンの方が待ってくれているんだな、と実感することができました。

――(実際に現物を見ながら)ブックレットはかなり凝った仕上がりで豪華ですよね。秘蔵写真だけじゃなく、マニアックなファンでも初めて見るような内容が盛りだくさん。一時活動休止後初となる2万字超インタビューなんて、ファンにとってはたまりませんよ。

クラブDJのような流行アンテナの高い方々が認めてくれた

梶:当時、「15歳の女の子がこんな歌詞を書けるわけがないだろ」という、“宇多田ヒカル、ゴーストライター疑惑”があったんですね。でも、今回のデラックス盤には、(当時の)彼女の手書きの歌詞が生々しく掲載されている他、デモトラックなども聴けるので、ようやくゴーストライター疑惑を払拭することができます(笑)。その頃から彼女はNYと日本をいったりきたりだったので、FAXでやりとりすることも多かったんですが、そうした状況だったからこそ、こういった証明を残せた、ということもあります。ちなみに2万字超のインタビューは、リアルサウンドにも寄稿されているライターの宇野維正氏にお願いしたんですが、宇野さん自身、宇多田ファンを公言してくださっていることもあり、すごくいいものが出来上がったと思います。

――ちなみに梶さん自身、デビュー前から社会現象とまでいわれるまでに盛り上がっていった“宇多田ヒカル・デビュー”の現象をどのような感じていたのでしょうか?

梶:僕が当時、東芝EMIに入社したての頃、BOØWY(のベスト盤)や、布袋さん、THE ALFEEの宣伝アシスタントを担当していたんですが、ある日、上司から「新人の担当をやってみないか?」と言われたアーティストこそ、宇多田ヒカルだったんです。右も左もわからない状態だったので、とにかくがむしゃらに仕事をこなす日々だったんですが、とにかく人脈もネットワークも持っていなかったので、シングル候補として挙がっていた「time will tell」のCD-Rを100枚持って、全国のFMラジオ局を中心に飛び回ることから始めました。

 そのプロモーションで感じたことは、年齢の若さとか帰国子女とか、そういった情報的なことではなく、楽曲そのものに反応してくれる人が多かったことです。それが音楽業界の重鎮の方だったり、クラブDJのような流行アンテナの高いインフルエンサーの方々に率直に褒めていただくことができた。それはプロモーション活動を続ける大きな自信と活力になりました。そうしていくうちに、地方のFM局チャートを駆け上がり始め、新人では異例の問い合わせが鳴り止まないくらいにまでになって。

 口コミから話題が連鎖していくことを実感することができましたが、いざデビュー曲が「time will tell」ではなく、「Automatic」に決定したときは、「5カ月も『time will tell』のプロモーションで全国を練り歩いたのに!」と内心思いましたけどね(笑)。結果としては三宅さんの推した「Automatic」で正解でした。

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