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地下アイドルの求道者が最新シーンに切り込む(前編)

批評家・濱野智史がアイドルプロデューサー宣言! 新グループのコンセプトを明かす

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濱野智史

 気鋭の批評家/情報環境研究者でありながら、重度のアイドルヲタクとしても知られる濱野智史氏が、新規結成アイドルグループの総合プロデュースをすることを発表し、その第一期生を募っている。情報環境に関する研究を専門としている濱野氏がプロデュースするというだけに、IT機器やWEBメディアを駆使した、これまでにないアイドルグループの結成が期待されているが、実際のところ、どのような構想が練られているのだろう。インタビュー前編では、アイドルグループを作ろうと考えたきっかけから、現在抱いている計画まで、大いに語ってもらった。

——濱野さんはこれまでAKB48や地下アイドルの熱心なファンであることを公言し、『前田敦子はキリストを超えた』などの評論も発表してきました。それが今度、新規結成アイドルグループの総合プロデューサーをつとめることになった経緯とは?

濱野智史(以下、濱野):僕はこれまで評論家をやってきて、アイドルについての文章もちらほらと書いてきたわけなんですけど、この一年現場に通いつめるうちに、ある種の「言葉の無力感」を感じてしまったんです。アイドルについての評論って、果たして意味があるのだろうか、と。もちろん、まったく意味がないわけではありません。ヲタの「レポ」はすごく大事ですしね。でも、そういうレポよりも距離をおいた、より客観性の高い「評論」を書くことの意味がどんどんわからなくなってしまって。どれだけ評論を書いても、アイドルの世界に興味のない人は全く読んでもくれない。読んだとしてもハナから理解する気もない。だったら、とにかくそういう人を現場に連れていく方が、僕が伝えたいと思っているいまの日本社会におけるアイドル現場の面白さ・異様さに気づいてくれる。だから、「評論」なんかより「現場」に行くことのほうがずっと意味があることに気づいてしまった。

 そんなとき、ちょうど昨年末頃、僕の知り合いの知り合いで音楽の制作をしている方に「いっしょにアイドルを作りませんか」と声をかけていただく機会があって、あれこれ話をしているうちに、自分でもアイドルプロデュースをやってみることにしたんです。

——総合プロデューサーというのは、具体的にどんなことをするのですか。

濱野:僕は音楽については完全に素人です。作曲も作詞もしたことはない。だから、当初「総合プロデューサー」という肩書きにはかなり抵抗感がありました。だから、はじめは「物販だけは設計したい」なんて生ぬるいことも言っていました(笑)。もともとAKB48も、「握手会」や「劇場」っていう環境が面白いと思ってハマったので、そういったアーキテクチャの設計には当初から関心があったんですよね。ただ、コンセプトを考えたり、衣装を選定したりしているうちに、一緒にやっているスタッフが「そこまでやってくれるなら完全に総合プロデューサーだよ」って言ってくれたので、じゃあその肩書きでやってもいいのかな、と。少人数のスタッフでやるからというのもあるけど、基本的にはアイドルの運営に関わるすべてを見る感じですね。

——現在、多様なアイドルグループが活躍していますが、今回のグループではどういった方向性を目指しますか。

濱野:そうですね。明確な指針として「地上を目指す」「脱地下」といった形で、「地下アイドル」であると呼ばれることを嫌がるアイドルって多いんですが、僕はちょっとそれとは違う方向性を目指したいですね。将来の夢は芸能界デビューとか、女優とか、武道館でやりたいとか、そういう夢を追うだけがアイドルのあり方ではないんじゃないか。いや、もちろんそういう目標がだめというわけじゃないですが……。というのも、僕自身このわずか一年のあいだだけでも、アイドル達の「夢の行き詰まり」と呼ぶべき何かをたくさん見てきたんですね。限られた人しか掴めない夢を提示して、非常に厳しい労働条件で働かせる。それは一種の「やりがい搾取」ではないか、という批判も当然ある。もちろん、ごく一握りの人だけが得られる夢を目指すのもいい。今度、労働問題を扱う雑誌『POSSE』編集長の坂倉昇平さんと、「AKB48は宗教なのか、ブラック企業なのか」というタイトルのトークイベントに出るんですが、まさにアイドルもブラック企業的要素をはらんでしまっている。そこは完璧には否定できない。

 でも、もっと違う夢を追うこともできるんじゃないかと僕は思うんです。何よりアイドルの「コミュニケーション・システム」としての素晴らしさや可能性は、何も歌って踊るという「芸能」の世界に留まらないんじゃないか。僕はこのグループで、いわば「アイドルたちの夢の新しい設計」みたいなことをしてみたいと考えているんですね。大げさな話になっちゃいますけど、結局、それはアイドルに限らない話で、この先行きの見えない日本社会にとっても必要なことだと思うので。

——メジャーになって、いわゆる“売れる”アイドルグループだけを目指すわけではないと。

濱野:もちろんアイドルグループなので、CDの販売やライブにも力をいれますし、「メジャー」になることを目指しますが、決してそれだけではないです。たとえば地上に出かかっているアイドルで1万枚とか売れたとしても、結局毎回来ている常連の100人くらいが100枚ずつ買っているだけだったりして、これではどうしても発展性がない。ヲタ同士がぐるぐる現場を回しあっても先がないと思うんです。ヲタの財布にも限界があるし、音楽産業の中でもそろそろパイが足りない。だから他のところから新しい顧客を得なければいけない。これまではそれのわかりやすい手法として、洋楽っぽい楽曲にしたり、テクノっぽい楽曲にしたり、従来の音楽ジャンルからお客さんになってもらう、と。これは割と成功していて、ほかの音楽ジャンルやサブカル文脈から新規の顧客を得ることができている。でも僕の場合はそうじゃなくて、たとえば評論とか政治、ITといった、芸能や音楽とは違うサブシステムと接続できるアイドルを構想しています。また、ただいたずらな拡大戦略を取るのではなく、ある種の「適切な規模」もまた設計することで、ちゃんと持続できるようなアイドルグループにしたいと思っています。

     
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