ロボット格闘技『REK 2』優勝の舞台裏 大曽根宏幸が語る「操縦」の奥深さと日本の可能性

大曽根宏幸が語るロボット格闘技

 人間ほどの大きさの二足歩行ロボットがリング上で対峙し、拳を交えるーー。映画『リアル・スティール』や数々のアニメ作品で描かれてきたSFの世界が、いま現実のエンターテインメントとして立ち上がりつつある。

 8月にサンフランシスコで開催されたヒューマノイド格闘大会『REK 2』。日米のプレイヤーが集い、熾烈なトーナメントを制して見事優勝を果たしたのが大曽根宏幸氏だ。

 中国がハードウェアの量産力、米国がAI開発で存在感を強めるなか、なぜ日本のパイロットが世界の頂点に立つことができたのか?

 大会での劇的な逆転劇の裏側から、日本のロボットカルチャーが切り拓くフィジカルAI時代の勝ち筋まで、じっくりと話を伺った。(中川真知子)

残り1秒からの逆転劇、決勝を分けた“復帰操作”

ーーまずは『REK 2』での優勝、おめでとうございます! 7月の東京大会に続き、8月のサンフランシスコ大会でも優勝されました。配信を観ていましたが、『REK 2』の準決勝・決勝ともに非常に熱いバトルでした。率直な感想をお聞かせください。

大曽根宏幸(以下、大曽根):ありがとうございます。優勝できて本当に良かったです。

 準決勝は本当にギリギリで、ほぼ負けそうな状態からの奇跡的な勝利でした。第1ラウンドが引き分け、第2ラウンドを取られて後がないなか、第3ラウンド終了まで残り1秒のところで相手に尻餅をつかせてポイントを取り、なんとか追いついたんです。

 最後のエクストララウンドも、30秒で終わるルールでなければ自分が倒れて負けていたかもしれないという紙一重の戦いでした。

大曽根宏幸

ーー決勝戦では身長1.8mクラスの大型ロボット「T800」が登場しました。あの終盤はどのような判断をされていたのでしょうか?

大曽根:実は、決勝の「T800」は自分も対戦相手も実機に触ったことがなく、完全にぶっつけ本番の初見プレイだったんです。

 第1ラウンドで相手がうまく機体を立たせることができていなかったので、第2ラウンドは「ダウンさえ奪えれば勝てる」と考え、自分からは無理に攻めず、カウンターを狙う保守的な立ち回りを選びました。

 案の定、打ち合いになって双方がもつれ合って倒れたのですが、そこからの復帰手順を落ち着いて実行できたのが勝敗を分けました。

ーー倒れたロボットを立たせるのにも、高度な操作が必要なんですね。

大曽根:そうなんです。この機体では、コントローラーで非常停止の解除や起動など、4段階ほどのコマンド入力を順番にこなさなければ立ち上がれません。

 決勝という極限状態のなか、相手は焦りからか手順を間違えて立ち上がれませんでしたが、自分はシミュレーターで起き上がりの練習を重ねていたため、冷静にコマンドを入力して復帰させることができました。

 人間の格闘技とは違い、こうしたシステムの操作手順を熟知しているかどうかがダイレクトに勝敗を分けるのが、ロボット格闘技ならではの面白さですね。

日米の会場で感じた、ロボットの戦いに熱狂する理由

ーー秋葉原で開催された東京大会(REK Tokyo)とサンフランシスコ大会(REK 2)の両方を経験されて、観客の反応や熱量に日米の違いは感じましたか?

大曽根:日本大会の方が意外とお客さんも多く、会場の熱気がありましたね。背景には、昔からガンダムやエヴァンゲリオンなどのロボットアニメに親しんできた文化もあり、「ロボットが戦う」というカルチャーを受け入れやすい土壌があるのではないかと感じました。

 一方、サンフランシスコの会場では、テック界隈のエンジニアや投資家、Web3系のビジネスパーソンが目立ちました。彼らはUFCやF1、メジャーリーグのように、「このヒューマノイド格闘技をいかに巨大なエンターテインメント興行・ビジネスに育て上げるか」という視点で熱狂していましたね。

ーー日本のロボット文化というお話でいうと、大曽根さんは当日、『攻殻機動隊』のジャケットを着て試合に臨まれたそうですね。

大曽根:はい(笑)。特別オタクというわけではないのですが、ヒューマノイドロボットを遠隔操作して戦う感覚は、まさに『攻殻機動隊』の“義体”に通じる世界観だなと思い、会場の雰囲気に合わせて着ていきました。

 アニメやSFで親しんできたイマジネーションが、現実のテクノロジーとシームレスに繋がり始めているのを感じます。

ハードの中国とソフトの米国......日本が勝負できる「ロボットを使いこなす技術」

ーー『REK』では中国メーカーの機体が使われていますが、大曽根さん自身は国産ロボットの開発にも取り組んでいます。米中が圧倒的な資金力で先行する世界のヒューマノイド開発の動向を踏まえて、日本が強みを発揮できるのは、どのような領域だと考えていますか?

大曽根:ハードウェアの部品調達や量産スピードでは中国が圧倒的ですね。中国は、モーターや減速機、バッテリー、加工部品などロボットに必要なサプライチェーンが非常に厚く、試作から改良、量産までのサイクルを高速に回せることが大きな強みだと感じています。一方でアメリカは、基盤モデルやAIソフトウェア、計算基盤が強いことが特徴です。

 しかし、今回の大会を通じて強く実感したのは、ハードウェアそのものだけでなく、「ロボットをどう使いこなすか」という運用・操縦技術にも大きな価値があるということです。少なくともこの領域は、日本が強みを作れる余地が大きいと思っています。

ーー日本の漫画やアニメでは、古くからロボットと意思を通わせたり、一体となって戦う感覚が描かれてきたので親和性がありそうです。

大曽根:そうですね。日本には、漫画やアニメを含め、人とロボットが共存したり、操縦者と一体化したりするイメージを長く描いてきた文化があります。そうした想像力は、ロボットを単なる産業機械ではなく、人が使いこなす身体の延長として考えるうえで、一つの強みになるかもしれません。

ーー操縦や運用の技術に加えて、ロボットそのものの設計や用途を考えるうえでは、日本ならではの環境を生かせる余地はあるのでしょうか?

大曽根:日本では住宅だけでなく、店舗、ホテル、病院、工場のバックヤードなど、限られた空間で人間と同じ設備を使いながら動くことを求められる場所が多いです。そうした環境に最適化したロボットを作ることは、日本発の一つの強みになり得ると思います。

大曽根宏幸

AI BunChoからロボット開発へ、新たな事業に踏み出した背景

ーー大曽根さんは2019年から小説の執筆を支援するAIの開発に取り組み、現在の「AI BunCho」へと育ててこられました。一方、2024年に設立したEmplifAIでは、ヒューマノイドの遠隔操作技術や国産ロボットの開発を進めています。文章生成AIを手がけてきたなかで、新たな事業としてロボット開発に踏み出した背景には、どのような考えがあったのでしょうか?

大曽根:ChatGPTをはじめとするLLMによってデジタル空間のAIが急速に進歩したことで、次はAIが現実世界を認識し、判断し、身体を使って働く「フィジカルAI」の領域に大きな価値が生まれると考えたからです。

 身体を持たないAIと違い、実機はバランスを崩せば壊れますし、安全性への配慮も不可欠です。ですが、人の形をしたものが自律的にバランスを取り、現実空間で動く姿には、言葉にしがたい強い魅力があります。

開発中の双腕モバイルマニピュレーターのアーム部分(Enactic社の「OpenArm」をベースに開発)
開発中の双腕モバイルマニピュレーターのアーム部分(Enactic社の「OpenArm」をベースに開発)

ーー大曽根さんのお話を聞いて、ロボットを動かしてみたいと思った読者もいると思います。ただ、実機を手に入れるとなると、費用や専門知識の面でハードルを感じます。これから挑戦する人にとって、操縦を学ぶ場合と、AIで動かす仕組みをつくる場合には、それぞれどのような入り口があるのでしょうか?

大曽根:ロボットの操縦に関して言えば、Steamでテスト提供されているシミュレーターを使えば、PC1台で練習を始められます。実際、準決勝で対戦した14歳のアメリカの少年は、実機を持たずにシミュレーターを徹底的にやり込んで勝ち上がってきていました。

 ハードウェア開発に触れてみたいなら、オープンソースのロボットアーム「SO-101」がおすすめです。キットは構成によって数万円台から導入でき、組み立てからデータ収集、AIでの動作制御までの一連の開発プロセスを体感できます。

※編集部注:SO-101:The Robot StudioがHugging Faceと共同開発した、SO-100の後継となるオープンソースの低価格ロボットアーム。3Dプリントパーツと市販サーボモーターで構成され、Hugging Faceのロボティクス向けライブラリ「LeRobot」で公式にサポートされている代表的なロボットアームの一つ。構成によって数万円台から導入でき、ロボットの模倣学習(データ収集からAI自律制御まで)を実践できる。

開発と興行の両輪で、日本のロボット産業を育てたい

ーー開発者として、そして実際に大会で戦うパイロットとして、今後、日本のロボット産業やロボット格闘技をどのように育てていきたいですか?

大曽根:現在は、国産の双腕モバイルマニピュレーターの開発を進めています。アームにはEnactic社の「OpenArm」をベースとした構成を採用しています。

EmplifAIが開発中の双腕モバイルマニピュレーターの顔部分に取り付ける予定のパーツ
EmplifAIが開発中の双腕モバイルマニピュレーターの顔部分に取り付ける予定のパーツ

 日本のロボット開発を前進させるには、研究開発やB2B導入だけでなく、一般の人が実際にロボットを見たり、触れたり、熱狂したりする機会を増やすことも重要だと思っています。その入口の一つとして、ロボット格闘技には大きな可能性があります。

 ロボット格闘技には、エンターテインメントとしてだけでなく、実際に機体を動かし、故障や破損も含む実環境の負荷から課題を見つけ、改善していく開発サイクルを作れるという価値もあります。例えばEngineAIの「URKL」は、格闘リーグという明確なユースケースを作ることで、ロボットを実際に戦わせ、そこで見つかった故障や弱点を次の設計や制御の改善につなげるループを回そうとしています。

 REKでも、大会やテストを重ねるなかで実際に多くのロボットが壊れ、その都度修理してきたことで、どこが壊れやすいのか、どう直せば短時間で復帰できるのかといった修理・運用の技術が蓄積されています。こうした「使う→壊れる→直す→改善する」のサイクルは、ロボットの信頼性や保守性を高めるうえでも重要だと思います。

 日本は、一品物として非常に高度なハードウェアを作り込むことは得意だと思います。一方で、実際に大量に作り、使い、壊し、直し、そこで得た知見を次の設計に反映して、また大量に出すという循環はまだ弱い。だからこそ、格闘リーグのように実機を継続的に使い倒し、故障や修理のデータを次の改善につなげられる仕組みが必要だと考えています。

 世界チャンピオンが言うのも少し矛盾して聞こえるかもしれませんが、最終的には熟練したパイロットだけが扱えるロボットではなく、誰でも直感的に、簡単に扱える方向へ進化させていくことが重要だと思っています。操縦技術を競うこと自体は面白い一方で、産業として普及させるには、人の熟練度に依存する部分をできるだけ減らし、機体やソフトウェア側が人を支援する設計にしていく必要があります。

 日本が長年アニメやSFの中で描いてきたロボットへの想像力を、現実の産業やエンターテインメントにつなげていきたいですね。

大曽根宏幸

執筆AIの発展が開発者と作家にもたらした変化 『AI BunCho』大曽根宏幸と作家・葦沢かもめが語り合う"AI創作論"

あなたはなぜAIを使って小説を書かないのだろうか? もしあなたが日常的にAI執筆支援サービスを使って小説を書いていないのだとした…

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