「リファービッシュ」という第三の選択肢 Back Market日本法人代表が語る、独自の戦略とビジョン

Back Market日本法人代表インタビュー

 円安や物価高騰を背景に、スマートフォンの新品価格が年々上昇している。日々の生活に欠かせないデジタルデバイスは、ガジェット好きを除けば、新たに発売される度に買い替えるようなものではなくなりつつある、そんななか、財布にも地球にも優しい「第三の選択肢」として急速に支持を集めているのが「リファービッシュ品(整備済製品)」だ。

 「リファービッシュ品」は単なる中古品とは異なり、回収された端末をクリーニングやデータ消去をした上で、専門家が厳格な動作検査を行い、必要に応じて部品交換や修理を施して新品同様の品質に仕上げているのが特徴。さらに、新品の製造段階と比べて二酸化炭素排出量を92%、水利用量を86%、原材料などの資源を91%、電子廃棄物を89%削減できるという極めて高い環境貢献度も備えている。

 今回、リアルサウンドテックでは、フランス発の世界最大級のリファービッシュ電子機器マーケットプレイス「Back Market(バックマーケット)」の日本法人代表である山口亮氏にインタビュー。「リファービッシュ」という新しい選択肢が日本の消費者の価値観をどう変えていくのか、その独自の戦略と、常識をハックするビジョンについて詳しく話を聞いた。(編集部)

「環境善意」だけでは動かない日本市場に対しての打ち手とは?

Back Market日本法人代表・山口亮氏

ーー現在、円安や半導体高騰、さらには世界的な物価高もあって「スマートフォンを新品で気軽に買いづらい」という悩みを抱える方が増えています。だからといって中古スマホを買うのは、端末の状態の当たり外れが怖い。そこで、品質がプロによって保証され、なおかつ新品よりも安い「リファービッシュ品」が、日本でも中古の不安感を払拭した「第三の選択肢」として選ばれ始めているように感じます。最前線にいる山口さんは、実際どのように感じますか?

山口:リファービッシュ品は専門家によって品質が厳格に保証され、新品よりも安く手に入るため、非常に現実的で魅力的な選択肢として受け入れられ始めています。それを強く感じているのはここ1~2年の間ですね。

ーー山口さんが2022年10月に代表に就任された当時、まだ「リファービッシュ」という言葉は、今よりもはるかに浸透していなかったと思います。当時の状況はいかがでしたか。

山口:私もこの会社に入る前は「リファービッシュ品」というものを知りませんでした。当時は誰に聞いてもほぼ100%の人が知らないという、極めてゼロに近い状況からスタートしたのを覚えています。

 ただ、この2~3年で状況は少しずつ変わり始めました。大きな転機となったのは、大手家電メーカー様がリファービッシュ事業を始められたことです。ほかの大手企業様やメーカー様がこの言葉を使う機会が増えたことで、徐々に一般的な言葉として認知され始めているように感じます。それでも、今100人に聞いたら95人くらいはまだ知らないレベルかもしれない、という認識もあります。まだまだ私たちが伝えるべき伸びしろはたくさんありますね。

ーー山口さんは楽天やAgodaなどの企業を経て、なぜこの会社への転職を決めたのでしょうか。

山口:最初のきっかけは、本社の人間から「日本市場を一緒に開拓しないか」と声をかけられたことでした。自分としては話を聞いてみて、日本は未開拓の市場ですが、どう考えても今後絶対に伸びるはずだという確信がありました。

 決定的な動機となったのは、ビジネスそのものが持つ利他性です。通常のECだと、競合他社と比べて「他より1円安い」とか「注文画面が少し使いやすい」といった、極めて微細な差での消耗戦になりがちでした。それに対してリファービッシュというビジネスは、新品をさらに過剰に生産して売るよりも、明らかにより良いこと、つまり世の中や地球環境に対して確実にポジティブな貢献をしています。私もキャリアを重ねるなかで、世の中に本当に良いことをしている、社会に直接貢献できるビジネスに強く惹かれたのが最大の理由です。

ーーBack Marketはフランス発の企業で、本国では「環境保護」に関するメッセージも積極的に発信されています。データを見ると、海外のユーザーの一定数はその理念をもとに製品を購入しているようでした。ただ、日本の利用者の大多数は「価格の安さ」で選んでいるようで……。日本で展開するにあたっては、アプローチに独特の難しさもあるのではないでしょうか。

山口:そこは今でも毎日試行錯誤していますし、いまだに明確な答えは分かっていません(笑)。シビアに考えると、どんなに素晴らしい理念であっても、「環境にいいから」という善意だけを理由に、消費者が自分の購買行動を変えることは極めて難しいのが現実です。なぜなら環境問題は、明日すぐに個人の生活が劇的に変わるわけではない「遠い課題」だからです。レジ袋の有料化のような、直接的な強制ルールがない限り、人間はこれまでの便利な生活をなかなか変えようとはしません。ですから、環境にいいことだというメッセージは、日本の消費者にとっては「後からじわじわと付いてくる付加価値」だと私たちは割り切っています。

ーーでは、日本のユーザーに対しては、どのようなアプローチで訴求していく方針でしょうか。

山口:私たちが今最もフォーカスすべきなのは、シンプルに「品質が良く、圧倒的に経済合理性がある」という点です。「新品は高いけれど、中古は不安。でも、Back Marketのリファービッシュなら徹底した検査と1年の動作保証がついて安心」というストーリーが、一番受け入れられやすい。使い始めてから、「実はこれを使うことで地球環境にもすごく良いことなんだ」と気付いてもらう。その順番が日本においては正しいのかなと思っています。

「長く使うことが、実はカッコいい」世界を目指して

ーー日本独自の言葉に無理にローカライズせず、あえて茨の道である「リファービッシュ」という外来語を貫いたのも面白いと思っています。これにはどのような背景があったのでしょうか。

山口:その点については、チーム内でも初期に激しい議論が巻き起こりました。パッと聞いて意味が通じない言葉ですから、「再生品」や「整備品」といった日本語に言い換えてプロモーションを打つ方が、短期的にははるかに効率的ではないかと。私自身も最初は本当に不安だったことを覚えています。

 ですが、最終的にはあえて「リファービッシュ」を使い続けるという道を選びました。なぜなら、中長期的なビジョンで見れば、それが浸透したときに決定的なメリットがあるからです。「リファービッシュといえばBack Market」という強い第一想起のブランドイメージを今から時間をかけて構築しておけば、将来的に巨大企業が「リファービッシュ」という言葉をアピールして世の中の認知を底上げしてくれた際、その全ての恩恵がダイレクトに私たちへと流れ込んでくるパスが完成します。短期的な売上を我慢し、中長期的な市場の主導権を握るために「リファービッシュ」を貫いた。この辛抱強いブランディング戦略は、今実を結びつつあります。

ーー新品へのこだわりが強い日本において、このアプローチは「ものを大切に、長く使う」という伝統的な思想を呼び覚ます契機になるかもしれませんね。

山口:もちろん、最先端のテクノロジー機器が好きな方は、今まで通り新品を買い続けてもらえればいいと思っています。新品が売れて流通しないと、私たちの二次流通市場も先細ってしまいます。ただ問題なのは、そこまでの最先端機能を必要としていない方、例えばシニアの方や子供たち、さらには多くのユーザーまでが、選択肢を知らないがために高い新品を買ってしまっているのかもしれない、という現状です。この情報格差や歪みは絶対に変えていきたいと思っています。

ーー自分の意志で、賢く「自分に合っているものはこれだ」と選択できる社会ですね。

山口:はい。「新品を買い続けるしかない人」を減らし、「リファービッシュ品という選択肢を並べて、自分で選んでもらう」。私たちのスローガンである「もうひとつの選択肢」の通り、消費者の小さな選択の積み重ねが、社会をサーキュラーエコノミー(循環型経済)へと押し進める大きな力になります。

 使い捨ての「ファストテック」に終止符を打ち、「長く使うこと、直して使うこと、それをまた誰かに受け継ぐこと。それが実はスマートでカッコいいよね」と、そんな新しい常識を、ここ日本でもみなさんと一緒に作っていけたら本当に嬉しいですね。

「日本の高品質なモデルが海外に流出している」

ーー日本独自のスマートフォン市場の構造として、大手キャリアの存在感が非常に強いことも、リファービッシュ品の普及に向けた障壁だと感じます。

山口:そこは欧米と比べて決定的に異なる部分ですね。ヨーロッパでは端末の購入と通信契約は切り離されていて、キャリアの店舗で端末を同時購入する割合はフランスで約30%、スペインで約23%に過ぎません。

 一方、日本では未だに6~7割の方がキャリアの店舗に行き、2年後に端末を返却する分割プラン(2年縛り)で購入しています。この仕組みがあるため、状態の良い端末が国内で循環せず、最新機種が中古やリファービッシュ市場に安く出回るまでに時間がかかってしまう構造的な課題があります。

ーーなるほど。だとすると、日本で使われていた端末たちはどこへ……?

山口:実はヨーロッパのBack Marketで流通しているリファービッシュ品の「iPhone 12」から「iPhone 14」の主要モデルのうち、約3割が日本で使われていた端末なんです。日本人はカバーをつけて本当に大切に使うため品質が非常に高く、それが国内で循環せず、海外に流出してしまっている。これは日本の消費者から見れば非常にもったいない歪みであり、もっと国内で循環させるべきだと感じています。

ーー日本においては、実際に商品に触ることができる店舗が重要視されている気がします。

山口:それは間違いありません。実際にグローバルの調査データでも「電子機器を買うときに実機を見て確認したいか」という問いに対して、ヨーロッパでは約2割、アメリカでは約4割しか「YES」と答えないのに対し、日本ではなんと7割の方が「実機を見たい」と回答していました。日本は全国に家電量販店や携帯ショップがあり、丁寧な接客サービスを受けて買う文化が根付いているので、オンライン完結型のビジネスモデル以外の道も検討する必要がある、と考えています。

ーーその「オフライン文化」に対しては、具体的にどうアプローチしていくのでしょうか。

山口:今年3月と4月に原宿で開催したポップアップストアでは、店頭でお客様と直接お話しし、実機を触っていただきながら品質を説明すると、オンライン広告を打つよりも一瞬で深い信頼が生まれる手応えを得ました。ですので、この文化を避けては通れないかなと……。参考にしたいのは、全国の津々浦々にある旧レンタルビデオ店を中古スマホの窓口へ転換し、対面サポートで大躍進しているゲオモバイルさんのようなプレイヤーですね。

 ただ、私たちが全国に何百店舗も展開するのは今すぐは物理的に不可能なので……。今後は楽天モバイル様との提携強化に加え、本国フランスでナンバー2キャリアの「ブイグ(Bouygues Telecom)」が全国500ほどの店舗にBack Marketコーナーを設置しているように、日本でもリアル店舗を持つパートナー企業と手を組み、オンラインとオフラインを融合させた温かみのあるサポートネットワークを構築していくことが、私たちの次なる大きな目標です。

ーーパートナーといえば、楽天モバイルとの提携などもスタートしていますが、反響はいかがでしょうか?

山口:日本でのサービス開始当初は「聞いたこともない外資系の会社で怪しい」というマイナスの評価を受けることが多かったのですが、楽天モバイル様のような大手キャリアとパートナーシップを組むことで、認知いただけることも増えましたし、会社としての信頼感も醸成されていると感じます。

常識をハックする「サボタージュ」精神と、カニバリを恐れない「利他主義」

ーーBack Marketの活動を見ていると、アグレッシブなマーケティング手法が目立ちます。フランス本国の経営陣とやり取りする中で、印象に残っている言葉や組織の価値観はありますか。

山口:私たちの会社には、フランス語で「サボタージュ(Sabotage)」という極めて象徴的なコアポリシーがあります。日本語の「サボる」とは全く意味が違って、「既存の枠組みや常識をぶっ壊してでも、どうにかして成果を成し遂げる」というハック精神を意味します。

 一つの例が昨年展開した「Let’s end fast tech(ファストテックに終止符を)」と題したキャンペーンになります。スイスのローヌ氷河という同じ場所、同じ画角で15年の時を隔てて撮影を行った画像があるのですが、かつては氷に覆われていた場所が、今やすっかり溶けてしまっていたのです。他にも時を経て干上がった湖や、日本では富士山の冠雪の時期の遅れなど、同じ場所を撮影した写真を並べることで環境問題への問いかけを行い、また同時に新旧のスマートフォンによる写真の差異も見せる、非常に示唆深いキャンペーンでした。

(参考:なぜ「ファストテック」との決別が、地球の未来にとって重要なのか

ーー短期的な売上重視ではなく、サステナビリティに対する極めて強固な信念があるからこそ、そこまで尖った活動ができるのですね。

山口:はい。社内には「It's not green enough(まだ十分にグリーンではない)」というマントラ(行動指針)があり、重要な意思決定において「本当に環境に貢献するか」が徹底的に問い直されます。

 それを最も体現しているのが、昨年、創業者や経営陣全員でアフリカ・ケニアの「ダンドーラ最終処分場」という巨大な電子ゴミ集積場へ行き、そこでドキュメンタリームービーを制作したことです。それを世界最大級のテクノロジーイベントであるCESのブースのすぐ隣で上映しました。直接的な売上には1円も繋がらない活動ですが、こうした取り組みを通じて「何のために戦っているのか」を全社員が誇りに思えるDNAが根付いています。

(全編・日本語字幕)Dandora: A Fast Tech story

ーーそのビジョンへの姿勢は、自社の利益と相反するような選択肢をも厭わない姿勢にも現れていますよね。

山口:まさにそこがヨーロッパのスタートアップらしい思想です。私たちは欧米で「iFixit」という、消費者が自分でデバイスを修理するためのパーツや工具のキットを安価で販売しています。それを消費者が自分で直して使い続ければ、私たちのリファービッシュ品が売れなくなってしまいますよね。完全に自社競合を起こす取り組みです。

 ですが、私たちの究極のビジョンは「リファービッシュ品を売ること」ではなく、「今あるものをより長く活用できる世界をつくること」です。だからこそ、時間がかかっても「直して使う文化」を広める。そのための利他的な選択を恐れないのが、私たちの共通の思想です。

ーーそうした利他的なビジョンの延長線上として、日本市場でも新たにGoogleと提携した画期的なプロジェクトがローンチされましたね。

山口:Googleさんとパートナーシップを組み、日本国内で「ChromeOS Flex インストールUSB」というプロダクトを発表いたしました。これは、来年Windows 10のサポート期限が一斉に切れることに伴い、世界中で動作自体には問題がないパソコンが最大で約4億台も一度に廃棄されてしまう危険性に対する、私たちの回答です。

 この課題に歯止めをかけるため、私たちはGoogleさんの軽量で安全な「Chrome OS Flex」を搭載した特別なUSBキーを共同で制作しました。使わなくなった古いパソコンのUSBポートにこのキーを挿すだけで、簡単かつ安全に最新のセキュリティに対応したOSへと切り替え、延命させることができます。

ーーまだ十分に使えるパソコンを、無駄に捨てさせない素晴らしいプロジェクトです。

山口:この「ChromeOS Flex インストールUSB」を、欧米では3ドルで試験的に提供していて、日本でも安価で提供予定です。ビジネス面のみで考えれば自社でリファービッシュPCを売る方がはるかに会社の利益には繋がるのですが、何億台ものパソコンを救うことの方が、私たちのビジョンにとって圧倒的に価値があります。つい先日も日本で先行キャンペーンを行ったのですが、開始1日で想定を大幅に超えるポジティブな応募が集まっており、非常に手応えを感じています。

ーーほかにも日本市場向けの新たな施策はあるのでしょうか?

山口:今後は「Ugly MacBook」という新しい販売カテゴリーを日本でも本格展開する予定です。これは天板や筐体にステッカーの剥がし跡や消えない傷が残っているだけの、動作性能やバッテリー自体は完璧な高品質MacBookを、あえて「Ugly(醜い)」というカテゴリーに分類し、通常のリファービッシュ価格からさらに安く提供する試みです。

ーーどうせ自分でステッカーを貼るクリエイターや、最初からカバーをつけて使うユーザーからすれば、最高の選択肢ですね。

山口:おっしゃる通りです。日本の事業者さんとお話ししていても、「傷はないけれどステッカーの跡だけが消えない」という理由で、売り方が分からず在庫として埋もれている端末がたくさんあります。

 通常のリファービッシュ価格からさらに値引いた価格で提供できれば、消費者、国内の事業者、そして地球環境にとっても完璧な「三方よし」の循環が生まれます。日本にはMacBookを愛用するクリエイターが多いので、今後のローンチには大いに期待しています。

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