Grimesが語る「初音ミクとAI時代の“不思議の国のアリス”」 さたぱんPらとの刺激的なコライトを振り返る

世界的なアーティストであり、常に音楽とテクノロジー、そしてアートの境界線を押し広げ続けるGrimes。彼女が今回、日本のボーカロイドプロデューサーであるさたぱんP、そして気鋭のクリエイターであるGrant Boutin、Eliらと共に、初音ミクをフィーチャーしたコラボレーション楽曲「Miku-Maxxing」を完成させた。
サイケデリックなシンセサイザーの幕開けから、突如として牙を剥く重厚なギターソロ、そして神聖なクワイアが交錯するこのジャンルレスな楽曲はいかにして生まれたのか。今回、リアルサウンドテックでは同楽曲を含めて海外プロデューサー×日本のボカロPのコラボ楽曲をふんだんに収録したEP『BEYOND BORDERs ‘EMERGE M♡DE MIKU’』のリリースにあわせ、Grimes本人に独占インタビュー。彼女が日本のアニメやマンガカルチャーに抱く深いリスペクトから、コライトキャンプでの制作秘話、ボーカロイド文化への鋭い考察まで、Grimesならではの哲学的な視点が明かされる貴重なテキストとなった。(編集部/トップ画像撮影=笹原清明)
『The VOCALOID Collection』&
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日本のキッズ向けコンテンツは「ハイ・アート」 ジブリ作品が結ぶ親子の絆

――まずは、あなたがどれだけ日本のカルチャーや音楽に関心を寄せているかを読者に知ってほしいと思っています。その入り口はアニメやマンガカルチャーからだったのでしょうか?
Grimes:アニメやマンガのカルチャーが入り口だったことは間違いないです。でも、今の私にとっては「母親になった」ということが、日本のカルチャーをより一層意味深いものにしていて。というのも、宮崎駿監督の作品やスタジオジブリの作品は、私が自分の子供たちに見せたいと思う最高の作品群だと思っているからなんです。
――お子さんとの時間が日本のカルチャーへの見方を変えるきっかけになった?
Grimes:そう。これは私の考えですけど、アメリカの子ども向けコンテンツの多くは、あえてレベルが下げられているように感じていて、芸術性の高い「ハイ・アート」とは呼べないものが多い。一方、日本にはジブリ作品のように、子ども向けのハイ・アートがより多く存在しているという事実に、私はとても心を動かされているんです。これは日本という国特有の、本当に素晴らしいことだと思う。多くの文化では、子どもに見せるものをある種「薄めて」しまっているから。
親と子が同じメディアを共有し、一緒にそれを愛することができるというのは、実はとても気高く、神聖なことだと私は思っているし、それは今の社会において、より稀有なことになってきている。だから、子どもが生まれてからは特に、日本の文化に対してより強い絆を感じるようになりました。
初音ミクは“デジタルアーティストの先駆者”

――今回は日本のボーカロイドプロデューサーとのコラボが実現しました。オファーを受けたときの心境はいかがでしたか?
Grimes:素晴らしいアイデアだし、絶対にやるべきだと思いました。初音ミクは、人々が実際に深いつながりを持てるようになった、最初のデジタルアーティストの一人だと言える存在で、もしかしたら人々が本当に心を通わせることができる唯一のデジタルアーティストかもしれないと考えていて。私は昔からテクノロジーとアートの境界線というものにとても興味があるから、オファーを受けてとても嬉しかったのを覚えています。
――ボーカロイドという存在は、日本とそれ以外の国とで少し捉え方が違うソフトウェアだと思っています。Grimesさんからはどう見えているのでしょうか?
Grimes:ミクのチームは、これまでも常に本当に素晴らしい仕事をしてきたと思っています。例えば、ソフィー(SOPHIE)とのコラボレーション(安室奈美恵「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」)なんかもそうですよね。あの素晴らしい楽曲を含め、長く続く偉大なレガシーを築き上げているわけですから。
――今回コライトキャンプで楽曲を制作したさたぱんP、Grant Boutin、Eliとの制作はいかがでしたか?
Grimes:私とElijah(Eli)、そしてGrantの3人は、もうずっと長い間一緒に音楽を作ってきた仲なんです。そこへさたぱんPが参加してくれたんですけど、彼が来て、いきなり2〜3時間ぶっ続けでクレイジーなギターソロを弾きまくってくれて! それがもう、最高に楽しかった。制作はとてもスムーズだったし、ギターソロを録り終えてからは、曲の大部分があっという間に出来上がった気がします。

――ビートやトップラインなどの役割分担はどうだったのですか?
Grimes:実は、私とGrantがこの曲のビートを作ったのは、私が彼の家に遊びに行った時のことで。その時、彼は任天堂のゲームをしながらアニメを見ていたのよ。彼は世界一のアニメファンだから(笑)。実際に曲を作ろうとなったとき、彼は『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う(I'm reincarnated as a vending machine)』というアニメを見せてくれて。私たちはそのアニメにインスパイアされて、このビートを作ったの。
ーー意外なアニメがインスピレーション源だったんですね……!
Grimes:そうなんです(笑)。そして、さたぱんPに「このボーカルの英語の歌詞はどういう意味?」って聞いたら、彼は「ただ適当に作っただけで、本当の日本語じゃないよ」って答えてくれて。本当かどうかわからないけど……彼は「作り話の言葉(made up words)だ」と言っていました。
――アレンジメントに関してはどのように進行したのでしょうか?
Grimes:実はこのビート、私とGrantがただ楽しむためだけに作ったもので、最初はリリースするような曲にするつもりはなかったんです。私は「いや、こんな曲、速すぎるわ!」って言ったくらいで。Grantも「そうだね、曲にするにはクレイジーすぎるね」と。でも、今回のEPの制作チームが私のスタジオに来た時に、「とにかく速い曲がいい。クレイジーなくらい速い曲が欲しい」って言い出して。「6つくらい違うパートがあるような曲が必要だ」と言われたので、私たちは「実は、ちょうどそういうクレイジーな曲があるんだ」とこの曲を聴かせたら、見事にマッチしたんです。さたぱんPに聴かせた時の彼の反応もすごく良くて、「じゃあ、これを仕上げていこう」と。
アレンジ自体もすごくシンプルで。私がコーラス部分でジャムセッションを始めて、メインの作業は「ギターをどこに入れるか」を決めた瞬間から、みんながそれぞれの役割をシームレスにこなして、あっという間に完成しました。
「アンチ・ギター」だったGrimesを変えた“ボカロPとの制作”

――「Miku-Maxxing」はサイケデリックなシンセサイザーの音に始まり、中盤ではクワイアや重いギターの音が入るなど、かなりジャンルがミックスされた楽曲になっています。さたぱんPさんの制作・作業したパートにおいて、Grimesさんが感心したところや面白いと感じた工夫はありましたか?
Grimes:最初に彼が入れたギターを聴いた時は「これはちょっとやりすぎじゃない? 私は好きじゃないかも」って抵抗したくらいだったんですけど、みんなは「いや、これがいいんだ!」と言っていて。でも、結果的に私が一番気に入っているのは、まさにさたぱんPが作ったそのパートなんです。とても実験的でクールに聴こえる。
――こうした様々なジャンルのミクスチャーに調和をもたらすことができるのも、ボーカロイドというソフトウェアの特異性なのだと思っているのですが、どうでしょうか?
Grimes:その通りですね。すべてを許容し、非常にオープンマインドなジャンルだと思います。実は私、今年は個人的に「アンチ・ギター」の年だったんです。でも、さたぱんPが私の心を変えてしまった。
というのも、最近のアメリカのオルタナティブ・ミュージック、例えばHyperPopのような音楽は、私にとって少し刺激的で……。私自身に少しへそ曲がりなところがあるから、そうした過激な音楽への反発として、今年は究極にリラックスできる「エレベーターミュージック」みたいなものばかり聴いていたんです。逆張りとして、テイラー・スウィフトのような一番ベーシックな音楽を聴こうとしていたくらい(笑)。
でも、本質的には私自身、色々なジャンルをミックスするのは大好きなんです。歌詞にせよプロダクションにせよ、何か革新的なことが起きていないと、音楽を作ること自体にあまり興味が持てないので。
――そういう意味で、今回の曲はまさに革新的ですね。
Grimes:はい。オペラからギターソロ、そしてドラムンベースまで、ありとあらゆる要素が詰め込まれているのが最高に気に入っています。アメリカだったら、こういう曲はすぐに「失敗作」の烙印を押されてしまうかもしれない。自由さがあまりないの。でも、日本のカルチャーには、こういう実験的で、過激で刺激的な音楽を受け入れる余地が大きく存在しているのがとても好き。だからこそ、そういう過激な要素をポップなフックとミックスしていく作業は、最高に楽しい時間でした。



















