いのうつはSA×奏が語る“お散歩MV”と音割れの美学 聖地巡礼や定義を拒むカルチャーの行方

“お散歩MV”と「聖地巡礼」を拒む精神性
――音楽以外の重要なトピックとしておふたりにお聞きしたいのですが、なぜMVに実写を採用しているのでしょうか?
奏:僕はやっぱりKabanaguさんの影響が大きくて。KabanaguさんはMVをあまり出されていないんですけど、「想像上のスピード」という曲のMVが、大量の素材を組み合わせて作られていて。その影響が大きいです。現実と2次元・3次元が交差する感覚が好きで、自分のMVにも実写を取り入れています。
いのうつはSA:俺はもともとVlogでYouTubeをやろうとしていて、それで結構動画を撮り溜めていたんです。「まだいきてるいめーじ」のMVの映像は、2019年くらいからずっと溜めていた映像を、あそこで全部大放出したという感じです。なので、MVの始まりで言うとVlog制作用の資産が活かされたというところですね。本当にただ旅行に行って、ぶわーっと撮ってるだけなんですけど。終末感のあるSFっぽさを出すために、人があまり映らないようにというのは、撮影時から意識していました。
――実写MV……“お散歩MV”と言われたりもしていますが、渋谷や新宿のようなわかりやすいランドマークを採用していないのはなぜですか?
奏:実は僕の場合、舞台設定をあまり考えていなくて。いろんな用事で外出した先で見つけた面白い看板やアートの像とか、全然有名じゃないけど面白いものを撮ったり、3Dスキャンしたりして使っています。
いのうつはSA:俺は本当に、聖地巡礼をさせたくない派なんですよ。だから絶対見つからないであろう変な場所を探して、そこで撮ったりしています。この前の「忘れものセンターにまたね! 」のMVも、駅から30分くらい歩かないといけないところまで行って、「絶対に聖地巡礼なんてさせないぞ」という気持ちで撮っていました(笑)。
――奏さんは天乃おつげとDJ Raiseiによる「Remember Maze」のMVも手掛けていますよね。映像作家としてどう考えて撮ったんですか?
奏:あの実写映像は、依頼をくださった方が大体撮っているので、なぜあの場所なのかは僕もあまりわからないんですが、「Remember」というタイトルの通り、懐かしさが欲しかったのかなと思って。それに沿うような素材の選び方をしましたね。
――ノスタルジックなアプローチは、奏さんが参加するプロジェクト「ギャルヶ丘団地」にも通じるような気もします。
奏:所属している僕自身も結構謎な団体なんですけど(笑)。実際そういった側面はあるかもしれないですね。ギャルヶ丘団地は元々、仲間内の飲み会があって、そのメンバーから始まったプロジェクトです。それぞれが自分の曲調、スタイルを持っているんですけど、それを全部取っ払って、その時やりたいことを好きにふざけながらやれるプロジェクトがあったらいいなという感じで成り立ちました。だから、“規模のデカいおふざけ”という感じもあって……(笑)。懐かしさとか、少年心みたいなものをずっと持っていたいという思いがあって、歌詞に昔のゲーム機の名前を入れたり、「ニンテンドー3DS」で動画を撮ったりしています。
――海外でミーム的な広がりを見せる「Dariacore/Hyperflip」と、限りなくパーソナルで土着的なおふたりの音楽は対照的な印象も受けます。「Hyperpop」や「Dariacore/Hyperflip」は音色として同じ枠組みに入れられることもありますが、おふたりのやっていることの違いをどう捉えていますか?
いのうつはSA:Dariacoreについては、俺あんまりわかっていなくて。自分としても割と別物で捉えてますね。
——たとえば、奏さんの「Synth8se」はイントロのサイレンなど、「Hyperflipだ」と言われることも多い印象です。
奏:あの曲を作った時、実は「Hyperflip」という言葉も知らなかったんです。僕の中では「音割れといえばlilbesh ramkoさん」って感じで、あんな曲を作りたいなと思ってあの曲を作り始めた感じなので。先ほどもお話したように、ジャンルの意識は全然していなかったですね。サイレンの音も、lilbesh ramkoさんの曲でそういう音が鳴っているのを聴いて入れたもので、いわゆる「Car Crash And Siren」というサンプルも知らなくて、フリー素材のサイレンを自分で加工して作ったものでした。
いのうつはSA:そういう意味では、俺も“気付いたらこうなってた”って感覚が近いですね。そもそもHyperpopやHyperflipの曲を作っている感覚も自分では持っていなくて、ジャンルでくくられたくない思いがあります。
――ロンドンにtwstというアーティストがいるんですが、彼女は「エレクトロニック・ミュージックで前衛的なことをやっている人が全員Hyperpopという“レッテル”を貼られているような気がする」と言っていました。それに対して「イライラする人もいるだろうね」と語っていたのですが、それを思い出しました。ラベリングやジャンルは解像度を上げるために役立ちますが、作り手側としては窮屈にも感じることもあると。
いのうつはSA:その感覚はめちゃくちゃ分かりますね。
奏:僕も共感します。サウンド的にはHyperpop、Hyperflipと近いものではありますが、それを作ろうと思って作っているかと言われるとそうではないので...音楽ジャンルの難しい部分ですね。
――DJのスタイルとしてもその態度は反映されているように感じます。たとえばテクノやハウスのパーティーならば、それに準ずるトラックが夜通しかかりますけども、おふたりのDJはまさに予測不能というか。どんなことを意識されているんでしょうか?
いのうつはSA:俺はDJをやる前に、結構準備をしていきますね。この間、盛り上がりと盛り下がりのグラフが書いてある記事を読んで、どうやらシステマチックにセットを考えるのが良いらしいということを学びまして。最初は盛り下がってて、どんどん上がっていって、途中で下がってまた上がるという波が結構盛り上がりやすいというのを知って、割とその通りにやっています。曲選びについては、自分の好きな曲のリミックスや人気曲のリミックスをかけたりして、万人受けを狙う部分もありますね。ニコニコ超会議の『超ボカニコ』でもDJをやらせてもらったんですけど、そのときもそれを意識していました。
奏:僕はもう、その時に自分が好きな曲を選んで流している感じで、DJ全体を通しての盛り上がりはそんなに考えていないですね。もちろん最初はゆっくりなニュアンスから始めて、後半にかけて速くなる、といった大枠のセットは作りますが、知名度に関係なく、その時自分が好きな曲を、お客さんにも聴いてもらって、あわよくば好きになってほしいなという思いが強いです。
――おふたりともKabanaguさんの楽曲を入口にしながら、アウトプットやDJ観が異なるというのが興味深いですね。最後に、今後のボカロシーンについてどう思いますか?
奏:あんまり周りが見えていないというか、ボカロ界隈が今後どうなっていくかは正直あまり考えたことがなくて。ただ、もっといろんなジャンルや曲調の音楽が評価されるようになったらいいなと思っています。もちろん今評価されているものも成長を止めずに、まだ見ぬ様々な音楽やアーティストも共に高め合って成長していけるようなシーンが作られていったら嬉しいです。
いのうつはSA:俺は、どこまでも行ってほしいですね。もう本当に、ボカロがさらに流行ってほしいなというのがあって。特にバラードがめっちゃ注目されてほしいんですよ。今、中国のApple Musicのランキングを見るとほぼバラード楽曲なんです。世界的にもバラードが来ていると思うので、そこにHyperpop的なアレンジやロックの要素を掛け合わせたものがあったらすごくいいなと思ってます。たとえば、アニメ『五等分の花嫁』のエンディングテーマの「はつこい」。コード進行もちゃんと聞こえるし、楽器ひとつひとつの温かみにもすごく感動したんですよ。“人がそこにいる”っていう感覚を得られたというか、存在を感じられるのが本当に素晴らしいんです。また『少女終末旅行』に繋がるんですけど、やはり“存在する”って凄いことなんですよ。俺は音楽にもそういう要素が絶対あると思っていて……だから、“存在”こそが自分の表現したいものなのかもしれないです。
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