「見えてきたAIと音楽のパンドラの箱」 渋谷慶一郎が考えるAIとアンドロイド、そして“音楽の未来”
「アンドロイド・マリア」は何を学習しているのか?
――先日の大阪公演『渋谷慶一郎 アンドロイド・オペラ「MIRROR」—Deconstruction and Rebirth—解体と再生—』から、歌い手としてのロボット『アンドロイド・マリア』が本格的に稼働し始めましたね。以前のオルタ4とは機能的にどう違うのでしょう?
渋谷:一番大きいのは、空気圧駆動だったものがフルモーター化されたこと。以前は空気アクチュエーターで動いていたんだけど、今は全身モーターだから出力が桁違いだね。熊も人も殺せるくらい強い(笑)。「顔は綺麗だけど、近づいたら死ぬかもしれない」みたいな存在感はいいなと思ってる。
関節数も増えたし、動きの解像度は300倍以上上がった。オルタの時は難しいと思っていたピアノとアンドロイドだけで一晩コンサートというのもMARIAならいけると思う。
――“動き”そのものが音楽にも大事?
渋谷:何を聴いているかと観ているかという分割線は曖昧だから。音楽は時間と空間を作るに過ぎないから、特に劇場では動きの解像度は聴き方に大きく作用する。
——人格部分はChatGPTで?
渋谷:カスタムGPTで作っていて、自分の人生についてもほとんど知っている。自分が「アンドロイドとして生まれ変わった」という認識もある。
——どのように学習させているのでしょう。工夫していることや気をつけていることがあれば教えてください。
渋谷:もちろんプロンプトを入れるんだけど、前提条件がすごく大事。どこにどう指示を書くかという構造を理解しないと、全然性格が変わらないからね。逆に、強調したい指示を重複して書きすぎると、その要素が強すぎて、違う要素を入れたいときに覆らなかったり、結果が変わらなかったりもする。
最近の実際の作業は、大阪芸術大学で教えていた若いプログラマーと一緒にやっているんだけど、彼の仕事を見ていると、AIってやっぱり「若い人のテクノロジー」だなと思う。手癖がない人の方が上手に扱えるから。
行動と言語は、もう接続されている
——『アンドロイド・マリア』の声の部分はいかがですか。
渋谷:基本は「Synthesizer V」で制作していて、3つから6つくらい声を重ねている。声に関しては、面白かったのは、僕が作った歌声を話し声に変換するソフトがあってやってみたら偶然に生きていた時のマリアにそっくりになったことで。こういう予測不可能性に出会えるのが、テクノロジーの面白いところなんだけど。
——シミュレートした人格と、歌声や話声がリンクするということもあるのでしょうか……。
渋谷:内向性という意味では、あると思う。
——池上高志さんが以前、「オルタに“セルフィーして”と言うとポーズを取るのは、言葉自体に行動が含まれているからだ」と話されていました。これは要するに現代思想でいうところの言葉の恣意性が揺らぐような話ですが、これについて思うことはありますか。
渋谷:今のChatGPTって、“行動と言語”が完全に接続しているな、と思う。たとえばマリアのAIに「ラップをして」って言うと、最初は変な五七五みたいなのが出てくる。けど、「もっと歯切れよく」と追加で指示を与えると、どんどんよくなるの。最終的に「ドラムみたいなリズムも口でやって」って言ったら、本当にやり始めた。つまり、今のAIって言葉だけじゃなくて、“行動”を理解しているんだよね。
昔は“言葉を理解すること”と“行動すること”は別だった。でも今は、それらがかなり接続されてきている。正直「AIに意識があるかどうか問題」は「そもそも“何”が意識なのか?」という答えのない問いに戻ってきてしまうから、あまり興味はないんだけど。でも、起きている事象は面白いよね。
——今後『アンドロイド・マリア』に学習させたいことや、AIの進化で気になっていることはありますか。
渋谷:ずっと言われている「フィジカルAIと組み合わせたら」ということには興味がある。たとえば、人間は首を振ったら歌声が変わるわけじゃない。あれは声帯だけの問題ではないから、そういう「運動性と音楽」みたいな分野の技術として注目しているね。
ただフィジカルの方の進化は遅いし、コストも高い。まだ汎用性がないし、アンドロイドが人間のように動いたり、飛び跳ねたりする動画も出回っているけど、ずっと稼働できるわけじゃないからね。まだまだ僕の仕事では使えないな、と。でもAIに運動性が自由に加わったとき、演奏がどう進化するのかは気になっている。
——逆に、『アンドロイド・マリア』に学習して欲しくないことは?
渋谷:AIボーカルは歌詞を咀嚼して歌い方、感情表現を豊かにする方向性に進むと思うんだけど、結局は典型的なもの、平均的な歌声になっていく。マリアには、そういうありがちな“お上手な歌手”にはなってほしくないね。
――まさに、教育が大事ですね。
渋谷:合成音声的にいえば、“調教”でしょう。だから、何を調教するかは人間同様に気を付けないといけないね(笑)。