自販機3万台がポケストップに 『Pokémon GO』が10年で築いた“街を動かすインフラ”

 日本コカ・コーラは7月10日、『Pokémon GO』とのパートナーシップ締結を発表した。全国約3万台のコカ・コーラ社の自動販売機が、順次ゲーム内の「ポケストップ」として登場する。一部は今後、「ジム」にもなる予定だという。

 3万台という数字だけでも大きい。だが、今回の発表で注目したいのは規模だけではない。昨日まで飲み物を買うだけだった自販機が、ゲーム内のアイテムを補給し、プレイヤーが立ち寄る「目的地」に変わる。

 『Pokémon GO』が10年間で築いた最大の資産は、ポケモンの3DモデルでもAR技術でもないのかもしれない。もっと本質的には、現実の場所に新しい意味を与え、人の移動を生み出せる“もう一枚の地図”なのではないか。

街の意味を一瞬で書き換える

 今回の動きはコカ・コーラだけではない。前日の7月9日には、日本マクドナルドも約6年ぶりに『Pokémon GO』との公式パートナーシップを締結。7月20日から9月1日まで、国内約3,000店舗がポケストップになると発表している。

 マクドナルドは、2016年7月の日本サービス開始時にもローンチパートナーを務めた企業だ。当時も全国の店舗がポケストップやジムになり、多くのプレイヤーが集まった。10周年に再び同じ仕組みが採用されたことは、スポンサーポケストップが一時的なブームではなく、10年を経ても機能するビジネスモデルであることを示している。

 一般的なデジタル広告は、ユーザーが見ているコンテンツの横に表示される。一方、スポンサーポケストップは、企業の店舗や設備そのものをゲームの機能に変える。プレイヤーは広告を見るためではなく、アイテムを入手したり、バトルへ参加したりするために現地を訪れる。

 バナー広告が「視線」を集めるものなら、スポンサーポケストップは企業がゲーム内の「目的地」になる仕組みだ。

なぜ「店舗」ではなく自販機なのか

 なかでも自販機は、『Pokémon GO』との相性がいい。

 コカ・コーラ社の自販機は国内に約75万台あり、そのうち53万台以上が「Coke ON」に対応している。店舗の営業時間や接客に必ずしも依存せず、駅前から住宅地、郊外まで全国に分布する。座標が管理され、アプリと接続し、キャッシュレスで決済できる。自販機はすでに、街中に大量配置された無人のデジタル接点なのだ。

 今回、ポケストップになるのは約3万台だが、9月にはCoke ONの「自販機マップ」に表示される約15万台を対象に、商品購入者へ『Pokémon GO』オリジナルスタンプを付与するキャンペーンも予定されている。

 ゲーム内の地図を見て自販機へ向かい、Coke ONで商品を購入し、別のデジタル報酬を受け取る。ゲームから現実の移動、購買、アプリ利用までがひとつの導線としてつながっている。これは単なるキャラクターコラボというより、現実の販売網とゲームの位置情報基盤を接続する試みに近いといえる。

ポケストップは「歩かせる広告」になった

 Nianticは2019年、スポンサーロケーションについて、企業に認知や来店をもたらす一方、従来型の広告のようにゲーム体験を中断しない収益源になると説明していた。

 2024年に発表された、スポンサーロケーションを活用する35事業者への研究でも、位置情報ゲーム内の広告は、単なる宣伝ではなく、店舗がプレイヤーへ提供する「サービス」として機能することが示されている。広告を見るのではなく、その場所へ行くこと自体が体験になるからだ。

 ただし、ゲーム内の地図が人の移動を左右するなら、誰を地図に載せるのかという判断も大きな意味を持つ。全国約75万台のうち、なぜこの3万台が選ばれたのか。都市部と地方で配置に偏りはないのか。来訪や購買のデータは、どこまで計測され企業へ共有されるのか。

 スポンサーになれる企業がゲーム内で目立つ場所を得られる一方、その外側には表示されない店舗や地域がある。現実の街に重ねられた地図は、同時に街の“可視性”を配分する装置でもある。

『Pokémon GO』はゲームを越えたのか?

 もちろん、『Pokémon GO』は道路や鉄道のような公共インフラではない。運営会社の判断で場所は追加され、削除される。それでも、全国の物理拠点に新しい意味を付け、人の移動や滞在を変えられるという点では、民間の「行動インフラ」と呼べるところまで来ている。

 街がポケモンの世界になったのではない。『Pokémon GO』が、普通の街を動かす方法を10年かけて身につけたのだ。

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