連載「Create with AI」第3回:電電猫猫

次なる構想は「サボるとAIが電撃を流すシステム」? 公開初日で50万PVを記録したツールの開発者・電電猫猫が語る、人間とAIの現在地

 生成AIとクリエイティブ。その可能性をめぐる議論が日々更新されていく時代に、クリエイターたちは何を思い、どう距離を取りながら、創作と向き合っているのか。

 連載『Create with AI』第3回は、インディー開発者・ソフトウェアエンジニアの電電猫猫(高橋直希)氏にインタビュー。猫など動物の写真から「閃いた!」画像をつくれるWebツール「InspirationCat」が公開初日に50万アクセスを記録するなど、大きな反響を呼んだ同氏に生成AIを使い始めたきっかけや創作に活用する上でのスタンスについて聞いた。

電電猫猫(高橋直希)

インディー開発者/ソフトウェアエンジニア。CoeFont共同創業者。macOS・iOS向けのユーティリティアプリ開発、Webサービス開発を行う。大学で数学を専攻。高校時代から趣味でiOSアプリ開発を始め、過去には「アプリ甲子園」での入賞や、未踏ITスーパークリエータに認定されている。2026年には「Swift Student Challenge」で入賞してApple Parkに招待されるなど、Apple製品を中心とした開発に取り組む。現在は会社経営や営業に携わる一方で、完全に個人の趣味として、日常の不便を解消したり遊び心を取り入れたりしたタイトなツールの開発・公開を行っている。

まずは自分の生活や環境を豊かにするために作る

ーー猫など動物の写真から「閃いた!」画像をつくれるWebツール「InspirationCat」を公開され、大きな反響があったことを拝見しております。こうしたAIを取り入れたものづくりに関心を持つようになったきっかけや、当時の心境について教えてください。

電電猫猫:きっかけは、SNSで目が「キュピーン」と光っている猫のミームを見かけ、「自分でも作ってみたい」と純粋に思ったことです。ただ、周囲を見ていると、画像を1枚作るためにわざわざ編集アプリを立ち上げたり、慣れない作業に手間取っている方が多い印象でした。「もっと誰もが一発で簡単に作れる専用のツールがあればいいのに、ないなら自分で作ってしまおう」と考えたのが始まりです。

ーー「InspirationCat」開発の経緯と公開後に届いた反応のなかで印象に残っているものがあれば教えてください。

電電猫猫:仕事の帰りにSNSでアイデアを思い立ち、帰宅後、お風呂に入る前に「Claude Code」に設計の指示を出しました。お風呂から上がって5分ほど待つとベースとなるシステムが完成していたため、そのまますぐに公開しました。

 公開後は初日で50万アクセス、累計で90万アクセスを超え、海外からも多くの反響をいただいています。何より、タイムライン上で皆さんが我が家のペットなど可愛い動物の「閃いた!」画像を次々とシェアしてくれるのが見ていて本当に楽しく、開発者として非常に満足しています。

ーーAIを活用したものづくりで特に意識されていることや、ご自身のなかで大切にしているこだわりがあれば教えてください。

電電猫猫:「まずは自分の生活や環境を豊かにするために作る。そのおまけとして、使ってくれた他の方もハッピーになってくれたら嬉しい」というスタンスを大切にしています。

 技術的なこだわりとしては、極力「バックエンドのサーバーを持たない」設計にすることです。私がiOSアプリ開発を好むのも、処理を端末内で完結させればサーバー維持費を気にせず気楽に運用できるからです。今回のWebツールでも、どれだけアクセスが集中しても個人開発者がコスト面でノーダメージでいられるよう、サーバーレスとローカル処理の両立を最優先に意識しました。

ーーAIを開発・制作の補助に使う一方で、ご自身の手で必ず担う部分などAIに任せないと決めている領域があれば教えてください。

電電猫猫:開発のスタート時点で「どういうアーキテクチャ(システム構造)にするか」を組み立てるグランドデザインのフェーズは、必ず自分の手で行います。

 AIの出力をブラックボックスにせず、自分自身が「手書きするならどう組むか」の明確なビジョンを持っているからこそ、AIに対して「ローカル動作」「軽量化」「エラー時のフォールバック処理」といった的確な技術的制約を指示できます。主導権となる思想の部分と、ものづくりの一番の醍醐味である「問いを立てるプロセス」はAIに任せません。

ーー「InspirationCat」をはじめ、これまで作ってこられたツールを開発される過程で、思い通りにいかなかった部分や、独自の工夫で乗り越えた経験があれば教えてください。

電電猫猫:過去に公開した「ひろゆきメーカー」というサービスでは、想定以上のアクセス集中によってサーバーの維持費が膨らみ、システムが落ちないかヒヤヒヤした苦い経験がありました。また、画像をアップロードして処理するタイプのサービスはプライバシーや位置情報データの扱いなど、個人開発においては避けたいリスクが付きまといます。

 そこで今回は、WebAssembly(Wasm)という技術を使い、ユーザーのブラウザ側で画像処理をすべて完結させる仕組みにしました。サーバー側に画像を一切送信しないため、セキュリティリスクを完全にゼロにしつつ、サーバーコスト0円での運用を実現させてこの課題をクリアしました。

AIを使いこなす上で最も重要なのは、人間側の言語化能力

ーーAIをめぐっては「すごい新技術」「何でもできる」「過剰評価」「危険だ」など、さまざまな声が交わされる状況です。SNSや業界で見かける声のなかで、「これは違うな」と感じるものや、「これは共感する」というものがあれば、率直な所感をお聞かせください。

電電猫猫:AIをまるで魔法のように過剰に神格化する意見には少し距離を置いています。AIはあくまで非常に優秀な「道具」であり、最高に高精度な「思考の壁打ち相手」です。

 私は日頃から、優れたデザインやUIのアプリを見たときに「この画面を一発でAIに出力させるには、どんなプロンプト(言葉)で説明すればいいか」を自分で考え、実際にLLM(大規模言語モデル)に投げて再現性を試すといった訓練を日常的に行っています。過去にプログラミングスクールで子供たちに教えていた経験もそうですが、AIを使いこなす上で最も重要なのは、人間側の「言語化能力」や「的確に伝える力」だと感じています。

ーー規制や著作権、産業構造の変化など、AIをめぐる業界全体の動きについて、実装に携わるエンジニアの立場からどのように捉えていらっしゃいますか。

電電猫猫:変化のスピードが非常に速い領域だからこそ、動向を不安視して手を止めるよりも、オープンソースの精神で「まずは作って、コードをオープンにする」ことが大切だと考えています。私自身、自作のスクリーンショットツールや翻訳ユーティリティ、今回のツールのコードも基本的にはすべてGitHubに公開しています。リバースエンジニアリングされても問題のない透明性の高い設計を前提とし、コミュニティ全体で知見を共有していくことが、結果的に最も健全な技術発展に繋がると捉えています。

未踏ITで取り組んだニューラルかな漢字変換を積んだ日本語IME(日本語入力ソフト)azooKey on macOSのGitHubページのスクリーンショット

ーーAIをプロダクト開発や作品制作に取り入れ始めた当初と現在とで、AIに対するご自身のスタンスや距離感は変わってきましたか。もしあれば、どのような変化なのか教えてください。

電電猫猫:単なる「指示を出してコードを書いてもらうツール」から、日常のワークフローや意思決定にシームレスに溶け込む「自律的なパートナー(相棒)」へと進化しました。

 現在はAIエージェントを活用し、Notionデータベースの管理や定期タスクの実行、メールの監視から優先タスクの抽出までを自動化しています。さらに、自分が詳しくない資産管理(積立NISAのファンド選定など)の領域についても、一部の管理をAIに任せて自分は最終的な成果だけをチェックするなど、信頼して手放せる部分が増えたと感じています。

ーーAIスマートグラスへの関心も継続的に発信されていますが、その分野も含め、これから先、AIを活用してどんなプロダクトや作品を作っていきたいか、現時点で構想されていることや、興味を持たれているテーマがあれば教えてください。

電電猫猫:現在、個人的に構想しているのは、AIエージェントと物理的な「電撃リストバンド(Pavlok)」を連携させた、少し過激でユーモラスなタスク強制システムです。

 AIにタスク管理をさせているのですが、自分の中に先延ばし癖があり、AIがどれだけ理想的な正論を語ってくれても行動できないことがあります。そこで、AIエージェントにリストバンドの制御権を渡し、「指示されたタスクを放置していたら、容赦なく人間に電撃を流して実行させる」という仕組みを作りたいと考えています。

 過去にも「全力で握らないとEnterが入力できない60kgの握力計キーボード」を作って面白がられたりしたのですが、画面の中だけで完結せず、ウェアラブルや物理インターフェースをLLMと結びつけ、人間のリアルな行動動線をハックするプロダクトには非常に興味があります。

ーー最後に、日々のAIとの付き合い方や制作環境について、今後アップデートしていきたい・変えていきたい点があれば教えてください。

電電猫猫:AIが自律的に動いてくれる時代だからこそ、人間が作業する物理的なデスク環境やハードウェア環境を、よりハッカー精神が刺激される形へアップデートしていきたいです。

 高校時代から一貫している「面白そうだと思ったら、まず最速で形にする」というスタンスを大切にしながら、自作のガジェットとAIエージェントが心地よく噛み合い、自分の思考の解像度が最も高まるような没入感のある開発環境を追求していきたいと考えています。

■ 関連リンク

X:https://x.com/nya3_neko2
Website:https://nya3neko2.dev/

■ 告知

azooKey on macOS
https://github.com/azooKey/azooKey-Desktop

未踏ITで取り組んだニューラルかな漢字変換を積んだ日本語IME(日本語入力ソフト)。随時GitHub等にてオープンソース公開・アップデート中。

「『自分が欲しいから作ったものが、結果として誰かを少しだけハッピーにできたら最高』というスタンスで開発しています。実用的なミニマリズムと、猫要素のようなちょっとした遊び心を詰め込んだツールをGitHubに置いていますので、面白い道具やハッカー精神が好きな方は、ぜひ気軽に触ってみてください」

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