映画『ジョーカー』やドラマ『チェルノブイリ』で知られるサム・スレイターは、なぜ『SAROS』で“ドローン・メタル”を鳴らしたのか
初期のPlayStation 5を代表する傑作として名高い『Returnal』を手掛けたHousemarqueが送る、新たなアクションシューティングゲーム『SAROS』。本作では、不吉な日蝕が空を覆い、常にその姿を変え続ける「カルコサ」という未知の星を舞台に、企業の護衛官としてこの地に足を踏み入れた主人公アルジュン・デヴラジの物語が描かれる。クルーと行動をともにする彼には、星の探索に加えて、先行してカルコサに向かうも消息を絶ってしまったパートナー、ニティアを見つけるという目的があった。
あえて言えば、『SAROS』は奇妙なゲームである。(『Returnal』を除けば)似ている作品が思いつかないし、遊びやすい工夫が数多く盛り込まれているとはいえ、視界全体を大量の弾幕が覆う光景は「高難易度」の称号を掲げるに相応しい。人類の叡智を圧倒するカルコサの文明や、異様にも程がある「日蝕」の景色は、形容しがたい脅威に満ちている。だからこそ、一度ハマれば、二度と脱げ出せなくなってしまう。
本作のサウンドトラックを手掛けたのは、グラミー賞を授賞した映画『ジョーカー』やドラマ『チェルノブイリ』(ともにHildur Guðnadóttirとの共作)の劇伴などで知られ、自身の名義によるアーティスト活動も行っているベルリン在住のサム・スレイター。自作の楽器や壊れた電子機器などを活用したユニークな音色や、地を揺るがすような強烈な低音を取り入れた彼の実験的な作風は、一見するとゲーム音楽とは距離があるように感じられるかもしれないが、これ以上ないほどに『SAROS』の奇妙で重々しいムードを引き立てている。
人気シリーズの新作や続編、あるいはユニークなインディーズタイトルがひしめく中でも、特異な存在感を放つ『SAROS』。今回のインタビューで浮かび上がってきたのは、「奇妙で、有機的で、異質」な魅力を持つ両者のコラボレーションが、恐らくは必然だったのだろうということだ。まだプレイしていない方はもちろん、既にプレイ済みの方も、これを読めばきっと新たな発見があるはずだ。
「ゲームというメディアでドローン・メタルをうまく機能させるのは容易ではない」
ーーサムさんは、これまで数多くの映画やテレビシリーズのサウンドトラックを手掛けてきたことでも知られていますが、ビデオゲームの音楽を担当されたのは、2021年の『Battlefield 2042』(Hildur Guðnadóttirとの共作)に続いて二度目になりますよね。今回のオファーを引き受けた決め手は何だったのでしょうか?
サム:私にとって、映画やゲームなどのメディアに関わる時も、個人での制作やライブなどの活動についても、大きな違いはありません。一人の作曲家として、その一つひとつを「音の世界を構築する機会」だと捉えるようにしています。つまり、興味深く、ユニークで、奇妙な世界を作り上げ、まるで誰かがそこで生きているような感覚を与えるということ。それぞれのプロジェクトは、そうした挑戦をするチャンスだと考えています。
その視点で見れば、いかに『SAROS』が絶好の機会だったのかが分かりますよね。ここには本当に素晴らしい、美しくて奇妙な世界が築き上げられています。もし、仮にこれがゲームではなく舞台劇だったとしても、きっと私は同じように胸を躍らせていたでしょう。作曲家としてその内側へと入り込み、命を吹き込む手助けができる機会が訪れたのですから、とてもワクワクしました。
ーー世界観やストーリー、ゲームプレイなど、特に『SAROS』のどういった部分に強く魅了されたのでしょうか?
サム:ゲームの舞台となる「カルコサ」は、一見するとよくあるSFの世界に見えるかもしれませんが、実はとても有機的で、それも極めて異質な形で存在しています。私はいつも、物理的な、あるいは有機的な音を起点にして、録音技術や音源処理を駆使することによって、元より遥かに異質で奇妙なものに変貌させることに強い興味を持っています。『SAROS』のデザインに触れた時、私が追求しているこうしたサウンドの技法が非常に近い形で呼応しているように感じました。だからこそ、私もその一員となって、この世界に命を吹き込むことができると思ったのです。
実際、シンセサイザーのみを使って「まあ、SFってこうだよね」という感じでアプローチするだけでは、その世界に十分な個性を与えられないことがすぐに分かりました。そこで、Housemarqueのクリエイティブ・ディレクターのGregory Loudenが「ドローン・メタルを試してみたい」と言ったんです。
ーー重厚でゆったりとした、一定の音が持続して響くサウンドが特徴のドローン・メタルは、ゲーム音楽全般においても珍しいチョイスですよね。
サム:私は大のメタルファンで、クレイジーなメタルやたくさんのクラシック音楽を聴きながら育ちました。なので、楽曲を作ること自体はできるのですが、ゲームというメディアでドローン・メタルをうまく機能させるのは容易ではありませんし、実際、かなり異色な選択だったと思います。ですが、これらのアイディアが組み合わさった時、とても大きな可能性が見えました。
ーー実際の制作においては、どのようにアイデアを具現化していったのでしょうか?
サム:それぞれのステージにおける主要なテーマの多くは人間の声を素材にしていて、さまざまな手法によって汚染(corrupted)されたような質感へと変貌させています。これは、主人公たちのクルーが日蝕を通して少しずつ正気を奪われていくという『SAROS』のストーリーとも結びついています。また、プレイヤーが日蝕を見つめると、カメラがズームして、さまざまな人間の声が聞こえてくるのですが、唯一、ニティアの声だけが純粋な人間の声のままで残っています。サウンドトラック全体を通して、彼女だけが人間性を残した存在なのです。
また、ゲーム全体を通して、輝くような金属音が鳴っているのですが、ゲーム内でアルジュンが着用しているネックレスを真鍮で再現して、楽器として使用しています。このネックレスは、かつてニティアがアルジュンに贈ったものですが、彼女の声が聞こえる場面では、実はその音も聞こえるようになっているんです。
他にも新しい楽器をいくつか作りました。例えばある声については、非常に薄くて大きな金属板を用意して、上部にスピーカー、下部にマイクを設置して録音しています。これに向かって叫ぶとフィードバックが起きて、金属の連鎖を通じてその声が崩れていくんです。
ーーゲームプレイの面でも特徴的な「日蝕」後の世界では、さらに異様な音が広がり、圧倒されてしまうような感覚に襲われます。
サム:日蝕後については、強度が増すような気がして、つい人工的な感じにしたくなってしまったのですが、実際には馴染み深い楽器であるギターを使用しています。ドローン・メタルこそが日蝕後の世界であり、どっしりとしていて、恐ろしく、ヘヴィネスに満ちています。ここでは三本の異なるギターの音を、頭の周りから聴こえるように配置しています。言わば、(前述のような)自作楽器のサウンドに、没入型のドローン・メタルが対峙しているような感じですね。音作りの話だけでも、インタビューの時間をすべて使ってしまうくらい話せると思います(笑)。
「自分で楽器を作ることの素晴らしい点は、 楽器を良い音にするのがいかに難しいのかを学べること」
ーー『SAROS』に限らず、サムさんの作品ではご自身で開発された楽器や、特殊な録音・制作手法を採用することが多いですよね。 どのような背景からそういった制作スタイルを採用しているのでしょうか?
サム:私はDIY精神が非常に強いミュージシャンたちが集まるシーンの出身で、そこでは何よりも好奇心を信条としていました。きっと、それが大きかったんでしょうね。音楽は遊びであり、アイディアの最も小さな部分から巨大な構想に至るまで、一貫してそうあるべきだと考えています。自分で楽器を作ることの素晴らしい点は、 楽器を良い音にするのがいかに難しいのかを学べることです。本当に、本当に難しいんですよ。大抵の場合は、そもそも機能しないか、ある一点では面白くても別のことがひどく苦手だったりします。
そうすることで、楽器が生まれた過程に対する敬意が育まれていきます。例えば、ヴァイオリンだって、最初からあの形で生まれたわけではなく、多くの異なる文化を横断しながら、1000年を超える試行錯誤の末に今の形となって存在しています。完成形だと思われているかもしれませんが、実際にはまだそうではありません。私たちは、常に遊びと発展のプロセスの中にいるのです。
それと、私がプロジェクトに取り組む時は、サンプルライブラリのようなものではなく、自分の手による、このためだけに作られたような、確かな手触りのあるものを作ることを大切にしています。自分が作ったものに個人的なつながりを感じたいと思っていて、それは作曲に限らず、楽器の制作や実験にも及んでいます。そこにあるすべてが、大きく奇妙であると同時に、手作りのように感じられるべきなんです。
ーー『SAROS』の制作に際して、ご自身も予想していなかったような新たな発見はありましたか?
サム:良い質問ですね。『SAROS』における最大の挑戦は、ドローン・メタルという音楽をどのように扱うべきかを理解することでした。音程が変わらない音楽に対して、プレイヤーが退屈することのないように充分な動きを与えるためにはどうすれば良いのかということですね。通常のゲーム音楽であれば、プレイヤーを楽しませるため、物事が常に変化しているように感じられるような多くの動きやバリエーションが必要となりますから。
最初にGreg氏に「ドローン・メタルで行きたい」と言われた時は、非常に大きな挑戦であるように感じました。ですが、その答えはとても単純でした。このシンプルな物体に対する見方を常に変え続けることで、まるで動いていたり、異なる物体へと変容しているように感じることができるのです。
ーー最後に、もしサムさんが他の方に『SAROS』という作品を勧めるのであれば、どのように紹介しますか?
サム:もし、あなたが挑戦を好む人であれば、きっと気に入ると思いますよ。ストーリーも、世界観も非常に挑戦的ですからね。ですが、優れた本がそうであるように、そこには美しさがあり、挑戦があり、たくさんの感情が詰まっています。
それと、『SAROS』はプレイヤーを心の底から尊重しているゲームだと思います。決して単純ではなく、プレイヤーを馬鹿にするようなことはありません。こういったゲームをプレイする人は賢いということを分かっています。ストーリーも、音楽も、ゲームプレイも挑戦的で、プレイヤーは本気で立ち向かわなければなりません。それって人々に対する、とても美しい向き合い方ではないでしょうか。