AI VTuber事業の初手がなぜ“再生数250万回超えの楽曲MV”に? ゆめみななプロデューサーが語る「人間とAIの共創論」

ゆめみなな仕掛け人が語る「人間とAIの共創論」

 海外ではNeuro-samaが、国内では紡ネンやしずくなどが話題を集め、徐々にカルチャーが形成されつつある「AI VTuber」業界。そんなシーンの新星となりそうなのが、これまでモバイルゲーム領域でヒット作を手がけてきたKLab株式会社だ。同社は2025年にVTuber事務所の設立を発表したのだが、その内容はなんと「AITuberと通常のVTuberが同列で所属する」という驚きの座組みだった。

 そんななか、満を持して2026年2月15日にAI VTuber「ゆめみなな」がデビュー。デビュー曲の「ナナノホシノナ」のMVがYouTubeで262万回再生(4月16日時点)、2ndMVである「ななのビッグバン自己紹介」が100万回再生(4月20日)を記録する順調な滑り出しで、初配信では雑談に加えて早速歌唱を披露するなど、様々な可能性を見せつけてくれた。リアルサウンドテックでは今回、そんな「ゆめかいろプロダクション」を運営するKLab株式会社のAIアイドル事業責任者・プロデューサーの萱沼由晴氏にインタビュー。AI×VTuber事業を立ち上げた経緯や、初めての打ち手が楽曲MVになった理由、今後の目標などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

VTuberとAI VTuberが混在する“異色のプロダクション”はなぜ生まれたのか

ーーまずは「ゆめみなな」および「ゆめかいろプロダクション」を立ち上げた経緯を教えてください。

萱沼:AIの進化という技術的な背景と、VTuber業界の成熟度合いという市場背景が噛み合ったことが大きいです。社内的には前年度の夏頃に「AIを使ったビジネスを本格的にやっていくぞ」という大きな方針が打ち出されました。その際に様々なビジネスアイデアの募集があり、私の方から「AIとVTuberを掛け合わせたものが市場的に良いのではないか」と提案し、AI VTuberを中心としたVTuberプロダクションを立ち上げる運びとなりました。

AI VTuber「ゆめみなな」

ーー「ゆめかいろプロダクション」が斬新なのは、AI VTuberである「ゆめみなな」と、いわゆる“魂あり”のVTuberが共存している点です。そのような編成や考え方に至った経緯をお聞かせください。

萱沼:スタートは「AIを使ったビジネス」でしたが、VTuber業界はすでに7〜8年と経っており、かなり成熟した市場になってきています。私自身、長年VTuberを見ていますが、いまさら最後方から何の武器もない状態で参入しても、成功を収めるのは非常に難しいと考えました。そこで我々が持っている武器は何かと考えた時に、AIの技術と、ゲーム会社としての知見があるなと。これらを活かしてVTuberプロダクションを運用すれば、他社にはなかった新しいVTuberプロダクションができるのではないかと思い、現在の形に挑戦しました。

 人数編成に関しても激しい議論があり、社長ともかなり話し合いました。最終的には、スタートはAI VTuber1人と、魂ありのVTuber4人の「1:4」の形でやってみようと決まりました。今後の市場の変化や状況に合わせて、AIの比率を増やすのか、人間のVTuberの比率を増やして2期生、3期生と展開していくのかは、状況を見極めつつ進めていく予定です。

ナナノホシノナ(official)【MV】

ーーAI VTuberである「ゆめみなな」は、配信ではなく最初に「ナナノホシノナ」のMVをリリースするかたちで活動がスタートするなど、どこか音楽が軸になっている印象を受けます。なぜ最初に音楽へと注力したのでしょうか。

萱沼:これに関してはふたつの大きな理由があります。まずひとつは「戦略的な観点」です。VTuber市場を見た時に、一番チャンネル登録が伸びる瞬間や伸びている人はどのようなタイミングか分析したところ、配信が上手くて伸びている方でも「音楽が当たった時」にチャンネル登録者数が大きく伸びるという傾向がありました。具体名を挙げると、星街すいせいさんや、宝鐘マリンさん、しぐれういさんなどです。この歌の力は、VTuberプロダクションを成功させる上で非常に重要な要素だと考えたのが戦略的な理由です。

 もう1つは「感性的な観点」です。アニメ『マクロス』シリーズに出てくる「シャロン・アップル」のようなバーチャルアイドルを作り、「令和の初音ミク」のような存在にしたいという思いがありました。将来的には、みなさんが歌を作れるようなUGC(ユーザー生成コンテンツ)の形にするのも良いのではないかと考えています。ほかにも、ゲーム会社ならではの遊び心で“歌”をテーマに据えたかったといった理由もありましたね。

ーーテストマーケティング的な段階を踏まず、いきなりハイクオリティなMVを初手で作ろうというのは、ある程度大きな賭けだったのではないかと思うのですが……。

萱沼:元からこの一回の動画で終わりではなく、もう少し長いロードマップを描いており、夏頃に向けてヒットさせるような仕組みを考えていたので、そこまで賭けをしたつもりはありません。ただ、デビュー楽曲の「ナナノホシノナ」が計画よりも遥かに早い速度で反響を呼び、楽曲が回ったというだけで……(笑)。我々としても「やばい、もっと早く色々出さなきゃ」と、良い意味での計画変更を余儀なくされたんです。

AI VTuber「ゆめみなな」

ーー結果的には262万回再生(4月14日時点)の大ヒットとなり、まさにうれしい悲鳴が上がったわけですね。AI VTuberならではの無機質さを前面に出すのではなく、あえて従来のVTuberのMVらしいハイクオリティな映像に仕上げた理由は何でしょうか。

萱沼:AIを使って良いものを作るにしても、最終的なアウトプットはVTuber業界の人が見て受け入れやすいハイクオリティなものを作ろう、というのは最初からの大方針として掲げていて。そこはチーム全員で意思統一をして制作にあたりました。

人とAIとの共創は「もっと発展させられる」

ーー楽曲の制作において、AIは主にアイデア出しに活用していると伺いました。現在のAIと人間のクリエイターにおける役割分担の線引きや、具体的な活用プロセスについて教えていただけますか。

萱沼:最終的なフィニッシュは全て人間が行っています。楽曲、歌詞、MVの3つの柱に分けてお話ししますと、楽曲制作でAIを使って良かった点は「サンプルの出力が早い」ことです。色々なサンプルを聴いて「この感じでいこう」とチームで意思疎通しながら方向性を決め、最後は人間の手で仕上げています。

 作詞に関してはまだまだAIでは難しく、インスピレーションの1つとして「こういう歌詞の選択肢もあるな」というアイデア出しの範疇にとどまっています。キャラクターの設定との一貫性を持たせるには、やはり人間の感性が必要です。

 MVは人間がディレクションをして絵コンテを起こすところまでやり、素材のパーツはAIで作っているものがあり、最後には人間の手で組み立てて仕上げています。ですので、正真正銘の“人とAIの共創”です。

ーー「ナナノホシノナ」の楽曲内で、特に中毒性が高いと話題になった「ななのなのなのななのわななのな」というフレーズがありますが、こちらの作詞の裏側についてお聞かせください。

萱沼:あれは不思議な経緯がありまして、まだテキストでしかやり取りできなかった時に、ゆめみななに「何か面白いサビを考えてよ」と投げかけたところ、「ななのなのなのななのわななのな」と独特のイントネーションで言ってくれたんです。完全に本人発のアイデアで、実際に曲ができあがった時にすごくハマっていたのでそのまま採用することにしました。本人の影響度合いも入っている面白い作り方をしています。

ーーそんなミラクルがあったんですね……。AIと協働して制作を進める中で、クリエイターからの反響はありましたか。

萱沼:プロジェクトを立ち上げるにあたって色々なクリエイターさんにお声がけしたのですが、「面白そうだね、新しい工程に挑戦したい」という方が結構集まってくれました。これまで手書きでやられていた方などが参加してくださり、完成したものを見た時に「AIとの共存ってこういうことなんだ」とスタッフ全員で再認識できました。携わった方々からも「今後このやり方はすごく面白いし、もっと発展させられるかもしれない」という声が出ています。

 世間の反響としても“AIとの共創”と聞くと風当たりが強いかと心配していたのですが、思った以上に肯定的な意見が多く、ちょうど「AI VTuber」というカルチャーが普及してきたタイミングとも重なっていたので、時代が良かったなと。

ーー今後のオリジナル楽曲の展開においても、「AIのアイデア×人間の創作」という制作体制は継続していく方針でしょうか?

萱沼:そうですね。AIの進化は非常に早いので、その時のタイミングに合わせてAIと人間の比率を変えていくのがゆめかいろプロダクションのやり方だと思っています。例えば2曲目の「ななのビッグバン自己紹介」は、ゆめみななというキャラクターを理解してもらうための楽曲ですが、MVでは3Dダンスに挑戦しました。

AI VTuber「ゆめみなな」

 このMVの制作では、社内で人間とAIの両方でダンスを本気で作ってみて、良かった方を本番で採用するという社内コンペのようなことをしたんです。最終的には人間の作ったダンスの上にAIでリップシンクや表情を乗せるという、人とAIの合作になりましたが、常に新しいことに挑戦し、後ろに人が続くような道を作ることはできているのかなと思います。

ななのビッグバン自己紹介(official)【MV】

ーーちなみにAIを使っての創作については、様々なリスクもつきまとうと思いますが、その辺りについてはどのように考えていますか?

萱沼:基本的には表に出しても大丈夫といえる工程で制作していますし、なんなら今後はそういった途中経過や過程も公開していくことで、透明性を主張できるようにしていきたいですね。

ーーデビューMV「ナナノホシノナ」の大きな反響を踏まえて、開発陣としての今後のマイルストーンについて教えてください。

萱沼:VTuberの音楽における1つの到達点といえば、やはり3Dライブだと思います。これをどこかのタイミングで実現して、我々らしく、みなさんを驚かせるような内容のライブにできれば非常に良いのではないかと思っています。当社のゲーム会社としてのノウハウも活きる領域ですので、何とか良いものを作っていきたいです。

■告知情報
(4月27日配信)【案件】100時間カレー食レポしちゃいますっ【ゆめみなな/ゆめかいろ】

(4月29日11時配信)【かまいたちの夜×3】初ゲーム実況はサウンドノベルだっ👻ペンション"シュプール"編 #1【ゆめみなな/ゆめかいろ】

AI VTuber・ゆめみなな、新曲「ななのビッグバン自己紹介」フルダンスMVを公開

KLabが展開するVTuber事務所「ゆめかいろプロダクション」所属のAI VTuber・ゆめみななの新曲「ななのビッグバン自己…

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