動画を写真でプレゼント! 話題の富士フイルム『instax mini Evo Cinema』が見せる“懐かしい未来”

1989年の発売以来、インスタントフィルムによるコミュニケーションという独自の魅力でユーザーを増やし続けているのが富士フイルムの「instax(インスタックス)」、日本での愛称「チェキ」だ。事実、現在世界100か国で発売、2024年度末には累計販売台数が1億台を突破と景気がいい。そんな 「instax」から縦長の『instax mini Evo Cinema』なるニューフェイスが登場。「3in1」がキーワードのこのムービーカメラの正体に迫るべく、生みの親2名に直撃!
縦型フォルムでムービーのチェキ? と話題の3in1カメラ『instax mini Evo Cinema』(以下、 Evo Cinema)はなぜ、どういった経緯で生まれたのか? それを確かめるべくリアルサウンドテック編集部は富士フイルムを訪問。製品企画担当の嶋泰寿氏、プロダクトデザイン担当の髙橋慶一郎氏に裏の裏まで伺った。
「いかにしてムービーをチェキにするか?」

ーーこのような特徴ある商品をラインナップに加えた経緯を教えてください。
嶋:「チェキ=写真」が定着していますが、2019年に新機軸として【静止画+QRコード】で音も聞ける「LiPlayシリーズ」を出しています。「では、その次のコミュニケーションのきっかけになるものは?」と考えた時、自然に出てきたアイデアが「+ムービー」でした。新製品『 Evo Cinema』はQRコードからクラウドにアップした動画にアクセスできるので、写真をプレゼントする=動画をプレゼントするという体験価値は、おそらく唯一無二のものだと思います。

ーー「LiPlay」での「+音声」という取り組みが活かされたのですね。
嶋:はい。 みなさん「チェキ」と「写真」は強く結びついているので、 そこに「音」が加わるだけでもまずかなりの驚きがあり、 昨年「LiPlay」の上位機として「LiPlay+」を出したのですが、この時にも「チェキってQRで音まで遊べるんですね!」といった反響がありましたので、ムービーリンクに関してQRを用いるのは自然な流れでしたね。

髙橋:次は動画だ! と、ステップアップとしては自然だったと思います。昨今、クラウドの普及によって、データを手軽に、大量にストックできる環境が整っています。しかしそうなると残しておけるが故に、一枚一枚の写真だったり動画の価値が薄くなっているのではと感じています。 もともとチェキも一枚の写真を大切にしたい想いをもっていたので、便利な時代だからこそ一枚の重みというものを、静止画なり動画なりで再認識してもらえるのではないか? というちょうどいい時代の巡り合わせもあったと思います。
ーープリントの意味や価値、つまり手に取るモノであり、唯一無二の一枚である点がとても注目されています。
嶋:最近だとスマホ本体とスマホケースの間にチェキフィルムを挟むのが定位置になっていて、電車の中でもよく見かけますね。誰かに見られる外側に唯一無二の一枚を飾る。これって、チェキならではの楽しみ方だと思います。
ーーブランドとしてのロードマップや、世の流れといった面でもいいタイミングで投入されたと思いますが、一方で気になるのが、富士フイルムが1965年に発売した8㎜ムービーカメラ『フジカ シングル-8』を連想させるスタイリングです。

髙橋:「ムービーをいかにチェキにするか?」というところも開発のスタートにあったので、ムービーを撮るチェキとしてどんなデザイン、佇まいが相応しいのかをゼロベースで検討しました。実際の使われ方や提供価値を突き詰めた結果、「これまで出してきたようなチェキスタイルとは別のムービーカメラ」として、縦に構えて撮影するスタイルとなりました。ですから『シングル-8』は直接的なデザインモチーフでこそありませんが、「シングル-8」シリーズ自体とても普及したこともあり、その縦型フォルムとムービーとの親和性については、ある面で正解だと思います。
嶋:作業的にムービーを撮影するだけではなく、自分の中で「ムービーを操っている」という感覚にハマれるフォルムでもあると思います。また両手でホールドして一枚一枚撮影するカメラと異なり、機動的に撮影するムービーには片手で持って操作できる方が理に適っている面もあります。さらにチェキフィルム目線で見ますと、「縦フォーマットを縦で撮影する」方がより直感的だろうという判断もあります。

ーープロダクトデザインのディテールにも相当なこだわりが伺えます。
髙橋:今回の『Evo Cinema』が3機種目となる「Evoシリーズ」自体そうなのですが、ただ撮影するアウトプットが欲しいというよりは、写真を撮る体験そのものを楽しみたい方の期待に応えるアナログなディテールを盛り込んでいます。たとえば1台目の『instax mini Evo』ではプリントレバー等を、2台目の『instax mini WIDE Evo』ならクランクレバー等を“敢えて”採用しています。ですので『Evo Cinema』で『シングル-8』のぜんまいレバーをモチーフにプリントレバーとしたり、レンズリング、ダイヤル、さらには筐体への金属素材の採用など、触感も含めモノづくりとしてこだわりました。

新しくも懐かしい、唯一無二の一台
嶋:メインユーザー想定は20代後半~30代男性ですので、若年女性層がメインのチェキとは違うところに設定しています。またチェキは「友人知人へのプレゼントニーズ」がけっこうあるのに対して 『Evo Cinema』は、やはり自分のためのこの一台という位置づけになるかと思います。
ーーそこに『シングル-8』に響く方々が乗っかるとすると、ベテランから若年まで、想定以上に広い層へアプローチできているのでは?
嶋:おっしゃる通り、ややレトロテイストなデザインや「ジダイヤル」といった機能もあり、ベテラン世代からの反応もかなりあります。
髙橋:『シングル-8』を知らない世代には新鮮に、知っている方々からは「なんだか懐かしいな!」と、世代によりそれぞれに好意的に、新鮮に感じていただいています。
嶋:面白いのは、見比べると『 Evo Cinema』と『シングル-8』ってそれほど似ていないんです。けれども記憶の中で「縦型ムービー=シングル-8」とつながるようなのです。

髙橋:『シングル-8』を参考にしているポイントを言うなら、シャッターボタンを押していると録画、離せば止まるというとても合理的な撮影方法です。また簡単簡潔に最終的なアウトプットにもっていきたかったので、撮影しながら編集を意識することで後の作業を極力省いた点もポイントです。
ーーPCでの編集が必要だったらぜんぜん手軽ではないし、キリがありません! そこで敢えての「1ファイルの撮影時間15秒!」。この長さ(短さ)の理由はどこにありますか?
嶋:商品企画の過程で世界の販売地域でユーザーヒアリングを実施しました。「今スマートフォンで撮っている動画の長さはどれくらい?」というものですね。すると、数秒、数十秒という方が非常に多かったんですよ。動画を観るなら何十分、何時間でも観られますが、撮影する側に回ると数秒~数十秒がちょうどいい。そう考えると短く限られる方が使いやすいし、撮影する側、される側にとってストレスがない。もともとコミュニケーションのきっかけとしての“一枚の動画”がコンセプトですので、写真を渡された側がさっとスマホを出してムービーを楽しむにも、長くて15秒という時間はバランスがいいと考えています。
(広瀬すずさん)
https://instax.jp/evo_series/movie_02.html
(横浜流星さん)
https://instax.jp/evo_series/movie_03.html
髙橋:気合を入れたロングムービーって、実態として誰も観てくれなかったりしますよね。ショートムービーなら気軽に観られるし記憶にも残りやすい。「ああ、この時こうだったよね」って、盛り上がりにも一役買うと思いますよ。
ーー今回テストしてみて、15秒が自分の撮りたい気持ちにいい具合の長さだと感じました。テレビCMと同じで、人が飽きずに見られる長さであり、記憶に残りやすい長さ。見せて回った(自慢して回った・笑)友人知人の中には「15秒しか撮影できないの?」という人もいましたが、試しに録ってみてと手渡すと「15秒って意外に長い。これで充分」と笑っていました。
嶋&髙橋:好意的なご評価をありがとうございます(笑)。
髙橋:アプリ上では最大30秒まで編集できますが、シャッターを押す時点で「何を、どう録るか」考えるようにすれば、15秒のストーリーを楽しめるようになると思います。

嶋:15秒ってスペック表で見ると「短くない?」って思われそうですが、実は使ってみると「確かにこれで十分」って思ってくださる方が多いでしょうね。
これが最注目装備 「ジダイヤル」とは?
ーー特徴的な機能のひとつ「ジダイヤル」誕生のきっかけは?
嶋:「Evoシリーズ」がディテールにもこだわっている点は先程もお話ししましたが、いずれの機種も特長的なエフェクトを備えています。「この画像エフェクトの文脈をムービーに持ち込んだらどうなるか?」といろいろ調べてみたところ、ムービーは時代による変遷があり、そのひとつひとつが特長をもっていることが判りました。「ジダイヤル」誕生につながる大きなきっかけですね。

髙橋:懐かしさとかエモさなどを考えてみると、実はその要因として時代の技術みたいなものを知らずのうちに感じ取っている。今回ムービーカメラとしてどう表現するかを掘り下げていった時に「時代感」というのがすごく相性がいいと感じたと同時に、これぞチェキならではの遊び心というところにもうまく結びつくと気づきました。
ーー「1930」~「2020」という10の時代をエフェクト効果として楽しめますが、特に難しかった年代などはありますか?
髙橋:白黒とカラーの違いなどは誰もが認識しやすいので共感しやすいと思うのですが、カラーの中の区分はみなさん自身がどんな記憶や経験をもつかによって引き出されるものが違うので、難しかったと言えるかもしれません。
ーーところでデジタルカメラ「Xシリーズ」では「フィルムシミュレーション」が機能として定着していますが、コンセプトは異なりますよね?

嶋:はい。フィルムシミュレーションは、弊社が過去に販売していたフィルムの再現を狙っていますが、「ジダイヤル」は、例えば自社製品だけとか、固有の映像機器・ジャンルにこだわることをせず、あえて時代を切り取る軸を統一していません。チェキらしい遊び心だったり、分かりやすさだったりという面も含めて作ったエフェクトなので、設計思想としても異なるものだと思います。
ーーそうか! フィルムの場合は最後出力としてプリントなりポジなりまで、全部富士フイルムで完結できますが、映像についてはラストワンマイル、つまり「その映像を誰がどんな機材で、どのような状況で観ているか」それぞれ違いますもんね。
髙橋:「ジダイヤル」は皆さんの記憶に寄せている感覚のエフェクトですね。例えばブラウン管時代のテレビ映像だとすると、当然、歪んだ画面を見ていたはずなので、少しだけ歪曲させています。「なぜかそう見えるね、感じるね」という足し算引き算を重ねて構築しました。
ーー先日浅草駅で東武特急を被写体に「ジダイヤル」のエフェクトの違いを撮ったんですよ。すると「1970」で特急がポコっと樽型に膨らんで!
髙橋:「1970」がまさにブラウン管時代の空気感なんですよ!
- 左から、ジダイヤル「1970」
- 「2020」
嶋:極論、「この表現は〇〇社の〇〇という機器の表現です」と書くことも可能だとは思うんです。でもそうではなく「時代の空気感」が僕たちの中心軸だったので、そういう部分に気づいていただけて嬉しいです。
ーーそれから失礼ながら、昭和の駄洒落のような「ジダイヤル」という名称はどんな瞬間に降りてきたのですか?
髙橋:実は開発時にチームで使っていた愛称そのままなんです。キャッチーで誰にでも伝わりやすい名称を、との検討から誰ともなしに言いだして、そこから愛称となり結局、正式採用されてしまいました(笑)。
嶋:この名前に、結局勝てなかったですね(笑)。「ジダイヤル」って日本語だけで成立するものなので、海外だと直訳で「Eras Dial」。とすると日本でも「時代ダイヤル」とすべきなのか? でも「時代ダイヤル」は面白くない! と堂々巡りの末に、カタカナ5文字の「ジダイヤル」に落ち着きました。
髙橋:やっていることは大真面目なんですけど、名前はポップでキャッチー。たぶん「Xシリーズ」だったらもっとオシャレな名称、というか……
嶋:「〇〇シミュレーション」などになるかもしれません(笑)。「ジダイヤル」とするところに、コミュニケーションブランド、エンタメブランドとしてのチェキらしさが強く出ていると思います。
- 左から、ジダイヤル「1950」
- 「1960」
- 「2010」
実は「ジダイヤル」に……ここだけの裏話
ーーフードやグリップなどがアタッチメントとして付属するのも物欲をそそりますね。
髙橋:持ちやすさは手の大きさによって違いますから、全ての人にフィットさせるのは難しい。それでもできるだけ多くの人に持ちやすく感じてほしいので、グリップ着脱式としました。もちろんできるだけ小型軽量化して気軽に持ち出してもらいたいという気持ちもあります。フードは屋外での見やすさや没入するのに役立ちますが、プリント操作時の利便や本体サイズが大きくなってしまうこともあり、こちらもマグネットによる着脱式としています。

ーー価格は実勢5万5000円前後ですね。
嶋:『Evo Cinema』は、動画、静止画、プリンターの3in1機として、最上位に相応しい機能性をもたせています。

髙橋:最上位モデルにふさわしく、ガジェット好きの心をくすぐり、所有感、満足感が得られるデザインを目指しました。フォルムとしても『シングル-8』をなぞってオマージュするのではなく、いろいろな時代の懐かしさを感じさせながらタイムレスなモノとして、「ジダイヤル」等の機能と共に、全体として“懐かしいけど新しい”存在として響くよう心がけています。

ーーレコードプレーヤーで音楽を鳴らしているところを「1970」で撮ったんですよ。好きな音楽も収録されていて、ちょっとCMのように感じました。
髙橋:実は映像に加え、音の表現も時代によって変えています。例えばフィルムの回る「カタカタ」という音を少し忍ばせたり、時代をさかのぼって音質がこもったり劣化するといった隠し味を入れているので、たぶん聴いていただいたレコードもレトロサウンドに感じませんでしたか?
ーーええ、まさしく「あの頃」を感じました! では最後にとっておきの開発裏話をぜひ!
嶋:「ジダイヤル」の「未来」ですね! 実は「ジダイヤル」の「2020」の次に「20XX」があったんですよ。どのくらいの未来なのか、どんな未来がいいのか幅をもたせてかなり検討しました。
ーー実際、絵作りも考えたんですか?
髙橋:はい、考えました。でも難しいんですよ。未来って何だろう? 映画に出てくるみんなが空想する未来が未来なのか? 機器がどんどん進化するとしたらどれくらい高画質で、やっぱり3Dなのか等、検討は無限にできるので。また空想だとしても、富士フイルムとして「未来の映像はこれだ!」と言っていいのかという葛藤もありましたし。それよりも10の時代をそれぞれ深掘りして納得のいくエフェクトを作り上げられたことが、「20XX」を見送った最大の理由です。
ーー無理して空想を盛らなくて大正解ですよ!
嶋&髙橋:そう言っていただけると、開発者冥利に尽きます。『instax mini Evo Cinema』をぜひよろしくお願いします!

◯商品情報
富士フイルム
【Instax mini Evo Cinema】価格オープン(税込実勢5万5000円前後)
https://instax.jp/mini_evo_cinema/
























