広がり続ける“バーチャル写真家たちの営み”を見て 『VR PHOTO EXHIBITION VOL.4』内覧レポート

5月16日から6月4日にかけて、東京・表参道のFUJIFILM直営店「WONDER PHOTO SHOP」で『VR PHOTO EXHIBITION VOL.4 Supported by FUJIFILM』が開催中だ。本イベントはバーチャル空間で撮影された作品をリアル空間で展示する写真展で、2023年の初開催以来、のべ3回にわたって開催されてきた。
第4回となる本展では、『VRChat』などのメタバース空間で活躍する気鋭のフォトグラファー5名(mo4ca/グロウ/なの/此花ゆうな/mon_d)による選りすぐりの作品を展示。これまでの3回では招待作家による展示が中心となっていたが、今回は公募を実施し、審査を経て選出された。
5月17日には、展示作家が在廊し、今回の作品の見どころについて語るメディア向けのレセプションが行われ、それぞれの作家から使用したカメラ機材(VRにおいてはカメラギミック)、コンセプトなどが語られた。
十人十色の作風 単なるスクリーンショットとは異なる表現を持つ世界
今回が初の展示となるフォトグラファー・此花(このはな)ゆうなは、すべての展示作品に魚眼レンズ風のカメラギミック『Flex FishEye Lens』(Goat-Cannery)を使用。『VRChat』の世界に魅了され、それをより多くの人に広めたいと考えていることから、『VRChat』の魅力を余すことなく伝えるために魚眼レンズの湾曲効果を活用していると、作品の狙いを語った。
- Photo by 此花ゆうな
- Photo by 此花ゆうな
「写真」というよりも、アート作品のような作風が目を惹くのは、前回の「VOL.3」にも作品を出展したmo4ca(もしか)だ。カメラ機材には『全天球カメラシステム』(ねこのいる工房)を主に採用。それとVR上で利用できる万華鏡のアセットを組み合わせ、この特徴的な画を生み出している。
- Photo by mo4ca
- Photo by mo4ca
バーチャル写真ならではの特徴のひとつとして挙げられるのが、「現実空間では撮れないような画」が作れること。たとえばmo4caの展示作品のひとつでは、万華鏡アセットの内部に全天球カメラを“めり込ませる”ことで、まるでイラストソフトや3Dソフトでいちから作ったかのような不思議な像を捉えている。
此花ゆうなやmo4caのように「バーチャルでしか撮れない画」を意識する作家もいれば、写実的で実在感のある作品を目指す作家もいる。男性アバターの「格好良さ」にフォーカスした作品を展示したグロウはそのひとりだ。「VRフォトの世界には、美しさだけではなく、カッコいい表現もあるんだ、ということを伝えるのが、最初の行動指針でした」と話し、クールな立ち姿、ダークな世界観を表現している。

今回の展示作品はすべて富士フイルムのフォトパネル『WALL DECOR(ウォールデコ)』のクリスタルタイプに印刷されており、発色の良さによってコントラストを強めた作品はもちろん、VR空間における色彩を豊かに見せてくれる。ともすれば沈んでしまいそうな黒の階調表現に力が注がれたグロウの作品とも相性がよい。展示作品は実際に購入も可能ということなので、気に入った作品があれば注文してみてはいかがだろうか。

続いて話を聞かせてくれたフォトグラファーは、なの。なのは長時間露光やボケ表現で高い評価を受けるカメラギミック『Integral』(スズ製作所)を主に活用して作品を撮影したという。粒子感のある淡いボケ味や、長時間露光による独特の画作りは『Integral』ならでは。ピーキーなギミックでもあるため、使いこなすには一定の慣れが必要となるが、習熟すればさまざまな写真を撮れるのが魅力だ。

また なの は今回の作品ではすべてを「日の丸構図」に統一したうえで、展示としてのまとまりを意識しているという。販売されているフォトブック(『PhotoZINE』)でも、レイアウトにこだわりを感じられた。

最後に紹介されたもんでぃーは、空間を水晶に閉じ込めたような「宙玉(そらたま)」レンズをVRで再現する作家だ。自由度の高いバーチャルフォトにおいて、“自分らしさ”を見つめ直したと話し、これまで取り組んできた「宙玉」風の写真や、音楽を写真にする、という独自のスタイルを前面に押し出した作品を展示している。

一方でもんでぃーは、自身のシグネチャーとも呼べる“VR版・宙玉”の制作手法について「水晶シェーダーをカメラギミックに搭載することで再現している」と明かすなど、ノウハウを惜しみなく共有。こうした技法、ギミックの解説は『VRChat』のフォトグラファー界隈においてよく見られる光景で、技術を独占するのではなく、横に展開してみんなで写真を楽しもうという風土が根付いているようだ。
バーチャルの住人は、すべからく「写真家予備軍」である
『VRChat』などメタバースにおけるバーチャルフォトの人気は、元より高い。そもそも『VRChat』などのバーチャル空間では、自身の好きなアバターを着飾ってポートレートを撮ったり、個性豊かなワールドを巡って記念撮影をしたりと、バーチャルの営みにおけるさまざまな瞬間で「撮影」という行為が当たり前に行われている。
そのため必然的に“フォトグラファー予備軍”が多いのだ。たとえば先に紹介したグロウなどはVRフォトの活動を本格化させてから約半年で公募に選ばれている。店内に設置された「みんなのVR PHOTO WALL」には、来場者が店内のプリントサービスで好きな写真を印刷、貼り付けできるのだが、これも開催二日目にして数十枚も貼られるほどに盛況であった。
またリアルフォトと比べて機材のハードルが高くない点も、「写真家デビュー」を後押ししている。本稿で紹介したカメラギミックはいずれも千円から数千円ほど。もちろんゲーミングPCやVRHMDなど、イチから揃えようとすればそれなりの金額がかかるものの、既存のVRユーザーが「ちょっと手の込んだ写真を撮りたい」と思った時の出費はそれほどでもない。さらに、『VRChat』自体は無料でプレイ可能だ。

実際、本展示の公募にも多数の応募があったそうで、招待作家の作品展示の横には応募フォトグラファーたちの写真が飾られていた。次回の開催時には、この中から新たなフォトグラファーが作品を展示するのだろうか。それもまた楽しみにしたい。
- 公募に応募された作品たちの一部
- 公募に応募された作品たちの一部
最後に、本展示がおこなわれた「WONDER PHOTO SHOP」ではVRフォトの専門コーナーが常設されているのでそれも紹介しておこう。
これらのコーナーには『CP+2025』のFUJIFILMブースでおこなわれたトークセッションに登壇したVRフォトグラファー・えこちん、BIS(ビス)を筆頭に、さまざまなフォトグラファーの作品が展示&グッズが販売されている。
またグッズの購入はもちろん、同店舗では自身のお気に入りの写真を持ち込んでグッズを作ることも可能だ。もし興味があれば、ぜひ展示とあわせて足を運んでみてほしい。
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