2つのアレンジアルバムにみる『UNDERTALE』のアナザーストーリー 10年を経ても新たに生み出される“救い”と“発見”

2015年9月にリリースされたロールプレイングゲーム『UNDERTALE』。ゲームクリエイターおよび音楽家として活動するトビー・フォックスが手掛けた本作は、ポップカルチャー全般にとって重要な作品となった。発売から10年が経ったいまも愛され続けており、今もなおメディアミックスや関連プロジェクトが発案され、間欠的にその物語は語り継がれている。
そして2026年に入り、10周年を記念してスクウェア・エニックスとのコラボレーションが実現。『UNDERTALE』の楽曲をアレンジしたアルバム、『UNDERTALE Piano Arrangement Album - Echoes Beneath』と『UNDERTALE: CHITEI DE CHILL』が絶賛リリース中だ。アパレルも目下5種類展開し、3月18日から発売されている。
本稿では、このアルバム2枚を中心に語り、このアレンジがいかにメルクマールな意味を持つのかを探る。『UNDERTALE』のオリジナル楽曲はほぼすべてトビー・フォックス自身の手によって作られているが、音楽のプロフェッショナルたちによって再構築されたマスターピースは、どのような音像に生まれ変わったのか。
まずは、『キングダム ハーツ』シリーズなどで知られる下村陽子をプロデューサーに迎えた『UNDERTALE Piano Arrangement Album - Echoes Beneath』から語りたい。
『UNDERTALE Piano Arrangement Album - Echoes Beneath』にみる物語の“完結”
『LIVE A LIVE HD-2D Remake Original Soundtrack』(2022年7月)のリリースを記念し、スクウェア・エニックスの公式サイトで下村とトビーの両氏による特別対談が公開された。この対談の中で、『UNDERTALE』の作者は下村氏を認識したきっかけとして『キングダム ハーツ』をあげた。
もはやゲーム音楽の枠を超えてアンセム化した「MEGALOVANIA」も、『ライブアライブ』屈指の人気曲「MEGALOMANIA」へのリスペクトを表明した曲として広く知られている。こちらの作曲者も他ならぬ下村陽子であり、その影響の大きさは推して知ることができよう。
そして今回の『UNDERTALE Piano Arrangement Album - Echoes Beneath』にも「MEGALOVANIA」は収録されており、そのアレンジャーには下村氏(および森下唯)の名前が刻まれている。
これまでにコンサートやライブなどで何度も演奏されてきた曲だが、リスペクト元が満を持して登板ということもあって、終始ただならぬ緊張感が漂っている。「MEGALOMANIA」と同じく最初から最後までサビのような曲だが、アレンジ版はその流れを引き継ぎつつ緩急がある。
なお、森下氏はかつて「MEGALOMANIA」のソロピアノを披露しており、今回のアレンジはまさに集大成のような趣がある。10年越し(厳密にはさらに年季が入っているだろうが)のリスペクトがひとつ実を結んだ瞬間だったのではないだろうか。
森下氏を含め、今作には下村陽子のほかに3人のアレンジャーが起用されている。下村氏のサポートメンバーにしてYouTubeの活躍も著しい菊池亮太、sasakure.UKプロデュースのバンド・有形ランペイジのメンバーであり、様々なアーティストに楽曲提供を行う岸田勇気がクレジットされている。
いずれもクラシックへの造詣がありつつ、インターネットの“何でもアリ”なカオスを経由しているミュージシャンである。J-POPにおいて定型化した「Aメロ→Bメロ→サビ」のような構造をいとも容易く打破し、今作でも“守破離”を体現する。
菊池氏が担当したアルバムのオープニングを飾る「むかしむかし…」では主旋律の横でアルペジオが鳴っており、「夢と希望」ではそれぞれの楽曲のモチーフがサンプリング的に挿入されている。彼がブレイクしたきっかけのひとつに「バーでバレずに弾く方法」があるが、当時から“大ネタサンプリング”的な手法は使われており、本作にもその個性が出ているように思われる。
アルバムの最初と最後(「おやすみなさい」)を同氏が務めることにより、組曲的な構造へさらに収まりの良さをもたらした。ゲーム音楽は物語と共にあるが、アレンジアルバムでありながらその本質を損なっていないのも本作の凄みだろう。
そしてそのストーリーを大きく補完しているのが、岸田氏の存在だ。「ゴースト・ファイト」では原曲にあったジャズの要素を強調し、「彼のテーマ」ではペンタトニックスケールが際立っているように聴こえ、原曲よりも子供っぽさに重きが置かれているように感じられる。それがアズリエル(すなわち「彼」)の悲しみをさらに明確にし、このキャラクターが背負うタイム感(アズリエル~フラウィ)を改めて具体的にした。
何より見事なのは「UNDERTALE」。原曲では拍と拍の間を埋めるように楽器が足されてゆき、それ自体がグルーヴを生み出しているのだが、今作ではピアノだけでそれを表現し切らなければならない。彼はその難題をこなしてみせ、ミニマルな展開からダイナミックなクライマックスまで再現した。
このアレンジによって原曲の完成度を再度認識するリスナーもいるだろう。楽器のテクスチャーをはぎ取っても、楽曲の美しさは少しも揺るぎなかった。
そういった“再発見”は本作の至るところに見受けられ、アレンジ版として素晴らしいクオリティを示している。今から聴くファンにも大いに期待してほしい。
『UNDERTALE: CHITEI DE CHILL』の圧倒的“現場感”
スクウェア・エニックスの音楽レーベル・SQUARE ENIX MUSICは、これまでにも異なるジャンルの橋渡し的役割を担ってきた。
『UNDERTALE: CHITEI DE CHILL』も例に漏れず、国内ビートミュージックシーンから精鋭が集結している。MURO、tofubeats、VaVa、DJ Mitsu the Beats、grooveman Spot、doooo、DJ JIN、熊井吾郎、G.RINA、DJ HASEBE……。少し前の例で言えば渋谷にあったSOUND MUSEUM VISION、いまで言うLIQUIDROOMなどで行われるパーティで見られるラインナップだ。
名を連ねるアーティストにはそれぞれ個性やカラーがあるが、全員同じイベントに出ても全く違和感がない。というか、このラインナップが実現した暁にはぜひ行きたい。そういった現場感に裏打ちされているのが、今回のアレンジアルバムだ。
“CHILL”と銘打たれるように、相応に涼しいビートに仕上がっているが、同時にしっかり躍れる内容でもあると感じる。たとえば熊井吾郎アレンジの「正義の槍」は戦闘曲であるオリジナル版の迫力をそのままに、ジャジーでグルーヴィーなニュアンスに変貌。G.RINAは持ち前の浮遊感のあるテクスチャーと4つ打ちで「イッツ・ショータイム!」にハウシーなニュアンスを加えた。
DJ HASEBEによる「今日もどこかで雨が降る」のリミックスはローファイな質感とズレ感のあるビート、サンプリング風アレンジで90年代のR&Bのよう。やはりデイタイムのLIQUIDROOMのような空気感だ。
自身の作品の中でゲームを扱うこともあるVaVaが、アンセム「MEGALOVANIA」と「スノーフルのまち」のリミックスを手掛けている。特に「スノーフルのまち」が素晴らしく、ザラザラとしたローファイ感は原曲とは異なるノスタルジーに浸らせてくれる。
多くのファンがアレンジやリミックスに期待するものとして、お手本のような仕上がりといっても過言ではない気がする。くぐもったビートはスタッカートと明るいメロディと相性が良く、まさに「チルな」感触だ。
曲の並ぶ順番も重要に感じられ、「彼のテーマ Remixed by DJ JIN」と「夢と希望 Remixed by tofubeats」の終盤2曲はDJのミックスのようにも聞こえた。それもふつうのミックスではなく、「夢と希望」は“ワンモアソング”のような位置付けなのではないかと思う。
個人的にはここが本作の白眉だとも考えており、 tofubeatsによる同楽曲はアンコール的な役割を担いつつ、『UNDERTALE』本編で悲惨な人生を送ったアズリエルにも向けられている。「テーマ曲なのだからそれはそうだろう」という声が聞こえてきそうなのだが、先述したようにDJはある意味で恣意的に曲順を変更できるのだ。その恣意性がときに猛烈な物語を生むこともあり、今作はその好例と見られよう。
「MEGALOVANIA」から「Good Night」で終わる『UNDERTALE』のオリジナルサウンドトラックが正道とするならば、本作『UNDERTALE: CHITEI DE CHILL』はアズリエルに対して新たな救いを用意しているように感じられやしないか。
それこそまさに「CHILL」。最高のラスボスに金色の花束を。「スペシャルサンクス」はもちろんこのアルバムを聴くリスナーに捧げられているが、その前段に「さいしょのニンゲン」の親友の姿が見える。
アパレルコラボも
冒頭でも触れた、今回のコラボ企画の一環として5種類のアパレルが展開される。

本稿で紹介した『UNDERTALE Piano Arrangement Album - Echoes Beneath』のジャケットがプリントされているのが『UNDERTALE x SQUARE ENIX - Echoes Beneath Tee』。さらにスクウェア・エニックス発のアパレルブランド『Lit Bāff Apt.』も4種類展開されており、同じく本稿に登場した『UNDERTALE: CHITEI DE CHILL』のアートワークがプリントされた『UNDERTALE x SQUARE ENIX - CHITEI DE CHILL Tee』が対を成している。
- 『UNDERTALE x SQUARE ENIX – CHITEI DE CHILL Tee』
- 『UNDERTALE x SQUARE ENIX – Sans and Chocobo Tee』
- 『UNDERTALE x SQUARE ENIX – Human and Tonberry Tee』
- 『UNDERTALE x SQUARE ENIX – Annoying Dog and Emil Tee』
残りの3つはスクウェア・エニックスの著名IPとのコラボで、『UNDERTALE』の公式イラストレーターであるTemmie Chang氏がサンズと「ファイナルファンタジー」シリーズのチョコボを描き下ろした『UNDERTALE x SQUARE ENIX - Sans and Chocobo Tee』、イラストレーター・LAZY PIZZA DELIVERYが『UNDERTALE』のニンゲンと「ファイナルファンタジー」シリーズのトンベリを描き下ろした『UNDERTALE x SQUARE ENIX - Human and Tonberry Tee』や、同氏が『UNDERTALE』のうざいイヌと「NieR」シリーズのエミールをカレッジロゴ風にアレンジした『UNDERTALE x SQUARE ENIX - Annoying Dog and Emil Tee』と、バラエティ豊かなラインナップとなっている。
それらのグッズについては『UNDERTALE×SQUARE ENIX Music&Merchandising Collaboration』特設サイトを参照してほしい。
■関連リンク
『UNDERTALE×SQUARE ENIX Music&Merchandising Collaboration』特設サイト:https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/UNDERTALE
■権利表記
© SQUARE ENIX
UNDERTALE © Toby Fox 2015-2026. All rights reserved. Licensed by Royal Sciences LLC.




























