『超かぐや姫!』に登場する「未来の技術」と、“フラット”なインターネットの描き方を見て

希望にあふれた仮想空間「ツクヨミ」

 彩葉とかぐやが暮らす現実と並行して、この作品のメイン舞台になっている「ツクヨミ」は、AIライバー・月見(るなみ)ヤチヨが管理している仮想空間だ。スマコンを使ってログインする形式で、自身のアバターを使って自由に遊ぶことができる、ユーザー数が1億人を突破している超巨大メタバースだ(同時に、それだけスマコンが普及している世界であることも伺い知れる)。日本人がメインユーザー層を占める「ツクヨミ」は、メタバースの比較イメージとしては、VRChatよりはメジャーで認知度も高く、Robloxほど世界規模で普及してはいない……くらいの雰囲気だろうか。

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 アバターは衣装や髪型を選択して作る、ゲームでよく見られるようなキャラクタークリエイト型。登場モブキャラを見た感じだと、プレイヤーは和風の世界観に沿った人間型しか選べない様子。メインキャラたちの「ツクヨミ」での姿と現実の姿が異なっているあたり、キャラクリの自由度はそこそこ高そうだ(身体をスキャンして現実に近い姿に設定される、という世界観の作品もある)。

 人との交流がメインの楽しみ方となる「ツクヨミ」のチュートリアルでは、FUSHIというふわふわしたウミウシキャラクターがこう解説している。

「ツクヨミではみんなが表現者。君もなにかをして人の心を動かしたら運営から『ふじゅ~』がもらえるんだ」「『ふじゅ~』を使って君の好きなクリエイターを応援しにいこう!」

 運営からもらったり、推しを応援する際に使える「ふじゅ~」というのは「ツクヨミ」内で使える通貨のようなものだ。現実世界でも使用できるようで、かぐやが稼いだ「ふじゅ~」で現実の物品を買う様子が見られる。

 この表現活動の代表的なものとして、本作でかぐやたちが目指す「ライバー(配信)」にスポットが当てられている。その他、「ツクヨミ」では数多くのお店が立ち並んでいて、プレイヤーたちが物を売買している様子も見られるが、これもれっきとしたプレイヤーたちの「表現」活動なのだろう。

 「ツクヨミ」内ではゲームを楽しむこともできる。中でも多くの人が注目しているのが「神戦(KASSEN)」というゲーム。自身のアバターを操作して仲間とチームを組んで協力し敵の本拠地を目指すという、『League of Legends』のようなマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナスタイル。ライバーではなかった彩葉も、このゲームで遊ぶことで「小遣い稼ぎ」をしていたという発言があるため、ゲームプレイも「ツクヨミ」では「表現」とみなされているようだ。

 ふじゅ〜にまつわる経済の詳細な仕組みは描かれていないが、老若男女を問わず「人の心を動かす表現者」であれば、メタバースで合法的にお金を稼ぐことができるというのはとても夢のある話だ。

 「ツクヨミ」の数少ない弱点として描かれているのが、味覚や嗅覚が満たされないという部分。スマコンはあくまでも視覚と聴覚で体験するデバイスだからだ。「ツクヨミ」での表現活動をフルに楽しんでいるかぐやだが、普段現実世界では美味しいものを食べたり作ったりするのも大好きなキャラクターでもある。そんな彼女が「ツクヨミ」で味を楽しめないのは、心を満たしきれない重要なポイントとして描かれている。

「ライバー」を推す楽しい日常

 彩葉が推している月見ヤチヨは「AIライバー」。公式サイトでは「歌って踊って分身もできる8000歳(という設定)の、ミステリアスなAI」と解説されており、リスナーはその正体を知らない。実際にAIかどうか、8000歳かどうかはどうでもよくて、眼の前で楽しませてくれるから月見ヤチヨを推す……というファンの姿勢は、現在のVTuberを視聴する際の、お約束を大事にするスタイルによく似ている。

 配信はYouTubeを彷彿とさせる動画配信サイトで行われている。この作品で描かれる「ライバー」の配信形態は主に「Webカメラなどを利用してアバターを動かす2D型」「『ツクヨミ』でアバターをまとって動く3D型」」「実写配信」の3通りだ。

 ヤチヨはAIライバーなので、配信方法に関して序盤では謎が多い。一方、かぐやの普段の配信は、Webカメラを用いてノートPCでLive2Dモデルを動かす、いわばVTuber型にあたる。最初は自分で描いたぎこちない絵を使って動かすところからスタートし、途中からは「ツクヨミ」のモデルを2D化した、クオリティの高いモデルで配信を行うようになっている。

 また同作ではこのシーンのためにわざわざ本当にLive2Dアバターモデルを制作しており、現実のVTuber配信がまとう「楽しい空気感」を再現しようというスタッフの意欲が感じられる。なお一部、ノートPCからの配信でもLive2Dモデルではなくアニメーションで描かれているカットもあるが、このあたりはあまり厳密に再現にこだわるのではなく、アニメ演出としてノリで切り替えているように見受けられた。

 かぐやが「ツクヨミ」で全身(言い換えるならば3Dモデルアバター)を動かし、路上ライブを行ったり、「踊ってみた」動画を配信するシーンも度々描かれる。VRChatやclusterなどのメタバースを利用している人にとっては、見覚えのある光景だろう。人気の「KASSEN」の配信を行っているゲーム実況配信者などは、主にこのメタバースからの配信スタイルを用いているようだ。

 ヤチヨは、自身とのコラボライブをかけてツクヨミの全ライバーが参加できる「Yachiyo Cup!!」で、最も多く新規ファンを獲得した人が優勝というイベントを開催している。そこでヤチヨとかぐや以外にも多数のライバーが活動する様子が見られるが、ほとんどは「ツクヨミ」のアバターを用いた配信活動者のようだ。

 その中でかぐやは、アバターを用いない実写の顔出し配信も行っている。現実のVTuberファンが見たら「身バレでは!?」とちょっとドキッとさせられるシーンもあるのだが、作中の世界では視聴者にすんなり受け入れられていて、深くは触れられていない。一応とあるキャラはこのやり方について「ぶっ壊れてんな」と発言しているので、イレギュラーではある様子。

 『超かぐや姫!』では、アバターを利用して配信しているか否かは、あまり区別されずに描かれている。それよりも、バーチャルであろうとなかろうと「どのくらい人の心を動かしたか」という点だけが物語的に重要になっている。おそらく多様なライバー表現の形の中で、VTuber的な見せ方の方が人気がある、くらいのバランス感なのだろう。

 「ツクヨミ」ライバーとしての活動の枠に入るかどうかは明示されていないが、かぐやの「ツクヨミ」でのアバターダンス動画を真似て「踊ってみた」をアップする女の子が登場するシーンもある。彩葉の友達が顔出しをしているインフルエンサーとして活躍している設定があるなど、ネットで発信することに関しては全体的に「自身の好きを発信するのは楽しい」というポジティブな表現がされている。

 一瞬しか映らないが「ツクヨミ」ライバーの中にはアートや歴史を中心に活動する知識系ライバーもいるようで、それぞれみんな人気がある様子。自由に好きなものを表現でき、おまけに「ふじゅ~」も入手できるこの世界のライバー活動は、希望に満ち溢れている。

 作中でかぐやが他のライバーとコラボをするシーンでは、YouTubeの編集動画的なテロップが入る描写があったり、かと思えばヤチヨの配信ではニコニコ動画のような右から左に流れるコメントが再現されていたりと、配信文化の色々なエッセンスが随所に盛り込まれている。ネット文化に触れてきた人ならニヤリとできるポイントだろう。YouTubeのスーパーチャット的な「投げ銭」で、『竹取物語』の“とあるネタ”を再現しているのもユニークだ。

【歌ってみた】トリノコシティ – 40mP / covered by 月見ヤチヨ(cv.早見沙織) from 超かぐや姫!

 作中では歌でのパフォーマンスを行って、新規ファンを獲得していたかぐや。公式チャンネルでは作品公開前に、ライバーとしてのヤチヨとかぐやによる有名ボカロP作品の「歌ってみた」動画が続々とあがり、作品外での広報として、話題作りがなされていた。平成期に無名だったボカロPが、ネットで曲を発表してどんどん人気になっていった、あの当時の「誰でも表現者になれる」ワクワク感が、「ツクヨミ」の「みんなが表現者」というモットーとぴったり重なるかのようだ。

【歌ってみた】竹取オーバーナイトセンセーション – HoneyWorks / covered by かぐや(cv.夏吉ゆうこ) from 超かぐや姫!

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