シンガポール『AFA2025』で感じた“オタクのシンクロニシティ” 引き起こすカギは「海外進出の継続的な取り組み」か

栗山夕璃、さたぱんP、八王子PらボカロPによる三者三様のDJアクト
今回のシンガポール『AFA』では、ACCを通じて3名のボカロPと、ドワンゴの人気企画“超ニコニコ盆踊り”チームによるパフォーマンス『Cho-BON Dance Japan』が披露された。会期中の全日程で行われた現地の盛り上がりの様子を筆者も間近で見ていたが、いずれのステージも大盛り上がりだった。
シンガポールの国民性なのか、ステージが始まって最初こそ控えめにノっている人が多かったが、徐々に慣れてくると盛り上がりが増していくことが多かったように思う。決して冷ややかな目線を向けるわけではなく、楽しみつつも一人で“ぶち上がる”のは少し気恥ずかしさがある……といった空気感だ。この辺りの少しシャイな部分は、日本人と似ている部分かもしれない。アクターが観客を巻き込むようにして盛り上がれば、しっかりと呼応してくれる素直さもあり、会場は非常に良い雰囲気であった。
若きクリエイターながら、複数のミリオン再生楽曲を代表曲に持つボカロP・栗山夕璃は、初日から米津玄師やEve、TK from 凛として時雨など、アニソン系のリミックスを中心に披露し、会場との距離を縮めた。ダブステップやバイレファンキなど、多彩なジャンルを横断しつつ、アニリミファンにはグッとくるようなナンバーの数々だ。さらに二日目からはガラッと構成を変え、ボカロの王道メドレー(こちらもリミックスが中心)を披露。現地の反応を楽しむようにして、柔軟かつ多彩なDJぶりで観客を魅了した。「千本桜」や「Tell Your World」など、“ニコニコ動画らしさ”が感じられつつ、海外でもよく知られた人気ナンバーの選曲も絶妙だった。
栗山のスタイルと打って変わって、さたぱんPが持ち前の個性であるDJ&MCで観客を“釘付け”にしていたのも印象的だ。ひたすらにマイクで煽るさたぱんPのスタイルはシンガポール人のシャイな気質にハマったのか、勢い付けられた観客たち、遠巻きに通路から見ていた観客たちが何事かと近寄っていくシーンも見られた。セットリストについても、自身の楽曲スタイルでもあるハードコアやメタルコアを中心にしたオリジナル楽曲、「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」などのリミックスバージョンを織り交ぜる超過激なスタイル。釣られて会場の特効担当がスモーク&レーザーをこれでもかというほど使っていたこともあり、きっとシンガポールの人々の記憶に深く刻まれただろう。
そして言わずと知れた人気ボカロP・八王子Pもステージに登場。ポップカルチャー好きであればその名前を知らないものはいないといっても過言ではないボカロPの登場に、シンガポールのファンも大興奮の様子であった。八王子Pを象徴する一曲「気まぐれメルシィ」や往年の名曲「Just Be Friends」、そして「ボルテッカー」など、近年の人気楽曲をバランス良く取り入れたセットリストに観客が興奮している様子を見て、シーンの歴史がここまで続き、広がっていることにあらためて驚かされる。同ステージに出演していた“ボカロック”を歌う二人組ユニット・Suupeasと共に代表曲である「Sweet Devil」を披露するシーンもあり飽きさせない、あっという間のステージだった。
オタクのシンクロニシティを見た ドワンゴが仕掛ける“超ニコニコ盆踊り”も大盛況
そして「ニコニコ動画らしさ」を前面、それどころか“まるっ”と持ってきたかのようなパフォーマンスを披露したのは、ドワンゴによる『Cho-BON Dance Japan』だ。ニコニコ超会議でも人気の「超ニコニコ盆踊り」が、果たして異国の地でどの程度通用するのか、そもそも盆踊りの概念を理解してもらえるのか……という心配は、杞憂であった。
振付・ステージプロデュースを担当した日本舞踊家・振付師 孝藤右近-TAKAFUJI UKON- による丁寧な振り付け指導がなされると、「レッツゴー!陰陽師」「アイドル」などアニクラ御用達の楽曲と共にステージの周りをぐるぐると回る、踊る。途中、「ハム太郎とっとこうた」で盛り上がった観客たちが小走りでステージの周りを走る一幕もあり、選曲も相まってもはやニコニコ超会議の再来だな、国が違ってもオタクはハム太郎で回りたくなっちゃうんだなと、謎のシンクロニシティに思わず笑ってしまった(単にネットで出回っている動画の影響かもしれないが)。参加のしやすさで場の空気をあたため、楽しそうな輪があるから入りたくなる。空気としても動きとして“好循環”を連日見ることができた。
会場の雰囲気も楽しみつつ、一通りステージを撮影・取材して感じたのは、まだまだ「見つかってほしいコンテンツ」や、「同時代性を共有したいコンテンツ」が多いことだ。冗談めかして書いたが、前述したハム太郎で回るオタクを見たときに感じた親近感の正体は、きっとそこにある。
後に名作と評価されるアニメ放送をリアタイしている時のSNSやネットの空気感、人気ボカロPから楽曲がリリースされた瞬間の盛り上がり、新たな才能が発掘されたときのワクワク感。あるいはシーンの流れの中での批判、逆張り。そんな些細な文脈が記憶に残っているからこそ、感動したり、それをきっかけにして一歩踏み込んで語り合えたりする瞬間があるはず。
テキストやデータとして残りづらい、日々入れ替わるニコニコランキングの熾烈かつ静かな競い合いを、当時そこに参加していたボカロPたちが「切磋琢磨していた思い出」として振り返ったり、それを見ていたリスナーが「あの時代も面白かったよね」と懐かしんだりして、そこで仲間意識が芽生えるのは、同じ時代の空気を吸っていたとわかるからだ。
だからこそ、ACCの取り組みには今後も期待していきたい。ベテランの確かな実績と、注目株の若いクリエイターによる最新の作品を海外に届けることで、文脈の芽を残していってほしい。そうすれば、きっと10年後に「2026年にリリースされたあの曲が、一気にシーンの空気を変えちゃったよね!」なんて話を、海外のファンと当たり前に語り合う日が来るかもしれないのだから。
■「Asia Creators Cross」について
日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。
本イベント『Anime Festival Asia 2025』におけるクリエイターの出演もその一環となっています。
今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。
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