堀江晶太とクミン100gが考える『VRChat』のクリエイティブ バンドとアートワークが紡ぐ無邪気な創作の世界
連載「堀江晶太が見通す『VRChat』の世界」第3回(前編)
ボカロP・作編曲家・ベーシストなど、さまざまな顔を持つ音楽家・堀江晶太。押しも押されもせぬ一流のクリエイターである彼には、これまで公に明かしていなかった趣味がある。それが、ソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』だ。
コロナ禍をきっかけに『VRChat』に入り浸るようになったという堀江。普段は音楽家として活動しながら、VRの世界では“ひとりのユーザー”としてこの世界を楽しんでいるという。
本連載では、堀江の『VRChat』愛、そこで体験したさまざまな出来事、リスペクトする「注目のクリエイター」などについて語っていく。
第3回となる今回は、『VRChat』を拠点に活動するバンド・OFFICE DESTRUCTION GIRLで、アートワークを手がけるクミン100gとの対談をお届け。OFFICE DESTRUCTION GIRLの活動や、ペンツール『QvPen』が描く「立体のイラスト」を軸に、個人の熱意が動かす『VRChat』のクリエイティブの源泉について語り合ってもらった。(編集部)
堀江晶太とOFFICE DESTRUCTION GIRLの出会い
――そもそも、堀江さんはOFFICE DESTRUCTION GIRLとどのように出会ったのでしょうか?
堀江晶太:『VRChat』で生まれる音楽・アーティスト・バンドをもっと知りたいと思った時期に、「Music Archives World」というワールドを訪れたのがきっかけです。HONNWAKA88さんも出展していたんですが、そこで偶然、OFFICE DESTRUCTION GIRLの「怪獣イタチの歌」を耳にしました。
同時期に、VRChat内の複数の友人から「OFFICE DESTRUCTION GIRLってバンドがいいぞ」という話を聞いていて。短期間に2人以上から話題に上がるなら、きっとなにか縁があるなと思い、注目し始めました。
――第一印象はいかがでしたか。
堀江晶太:音とメッセージ性、映像、そして名前――様々な要素の足並みが、ものすごくしっかりそろっているバンドだと感じました。歌が楽曲に、楽曲がMVの空気感に合っていて、メッセージ性と歌詞のワード一つひとつも合っている。一つのパッケージとしてのシンクロがすごく印象的でしたね。
そして同時に、それが一発で分かるのもメタバースらしいなと思いました。というのも、メタバースは家にいながらライブ空間も音源も映像も演出も、アクセス出来る情報すべてを地続きに体験できます。家に帰って覚えていたら調べてみよう、ではなく、気になったら即座に創作の全要素を浴びに行くことが出来る強みがあります。
そこをしっかり理解してるのか、無意識に実践できてるのかわからないけれど、「どう見せるべきか」を、ちゃんと“いい感覚”を持って投げられる人がメンバーにいるんだろうなとは感じましたね。
――OFFICE DESTRUCTION GIRL自体は、そもそもどのようなバンドで、どのように結成されたのでしょうか?
クミン100g:元々はshinyaさん、cazeさん、TodaFetさんの3人でスタートしたバンドだと聞いています。何年も前にバンドを組んでいたことはあったけれど、しばらくはそれぞれ別の道を歩んでいて。2024年の10月ぐらいに改めてメンバーが集まり、「音楽やろうよ」というノリで活動開始したみたいです。そして、最初に作ったのがミュージックビデオ付きの「怪獣イタチの歌」です。
――クミン100gさんはどのような経緯で加入されたのでしょうか?
クミン100g:私は『VRChat』歴が4年ほどになるんですが、長らく、仕事が忙しく疲れ切ってしまい、『VRChat』もやる気がなかった時期が続いていたんです。
2024年の10月ぐらいに、ふと「絵を描きたい」と思って、『VRChat』を再開したんです。それまでXも一切やっていなかったのですが、その頃から『QvPen』で描いたものをXに投稿するようになりました。それが習慣化したころに、cazeさんが自分の絵柄や、やっていることに興味を持ち始めたようです。HONNWAKA88さんともそのころに出会いましたね。
堀江晶太:クミンさんが入るちょっと前に、HONNWAKA88さんがメンバー入りしたみたいですね。
クミン100g:驚きましたよ。いろいろとOFFICE DESTRUCTION GIRLの活動に触れていくなかで、「ノーシグナル」を聴いたときの衝撃は忘れられません。本当に衝撃的で、クオリティの高さに対して、なぜかYouTubeの登録者数は少ない。「この人たちは何者なんだ?」と引き込まれてしまい、普段あまり描かないファンアートを思わず描いたんです。
そうしたら、直後にcazeさんから「『梔子』という新曲を作ったので、MVに出演してもらえないか」とご依頼をいただいて。
堀江晶太:「ファンアートから始まる縁」って、昔のインターネットにあった、懐かしい雰囲気を感じましたね。意図的じゃないけれど、お互い波長が合って、「じゃあ一緒にやろうよ」と何かを生み出すことって今はなかなかない。
――ある種、ニコニコ動画やピアプロっぽい出会い方かもしれないですね。
堀江晶太:そうそう。じん(自然の敵P)くんの「カゲロウプロジェクト」とかもそうですよね。「楽曲を聴いて一人でMVを作りました」ってところから、「すげえいいじゃん。いっしょにやろうよ」みたいな、そんな縁ですよね。
クミン100g:まさにそうですね。ちなみに、「梔子」は音源をもらった時に、一気に引き込まれてしまって。あまりに良い曲すぎて、カフェで涙を流しながら2〜3日かけてMVの土台を作りました(笑)。
堀江晶太:クミンさんはよく泣いてるイメージがありますね。
クミン100g:特に朝方に聴くと泣いちゃうんですよね。そうしてできたMVの土台をお渡ししたところ、とても盛り上がってくれて。これがきっかけとなって、OFFICE DESTRUCTION GIRLのアートワーク担当メンバーとして加入しました。
会話のツールから、絵を描くツールへ――海外ユーザーとの交流から握り始めたQvPen
――クミンさんはご経歴としてアート系の道を進んでいて、イラストなども以前から描かれていたと聞いています。
クミン100g:もともと、絵を描くタイプの学校に通っていて、学生時代から基礎は学んでいました。『VRChat』は2021年ごろ、社会人になってから始めたのですが、VRゲームに興味を持ち始めた時期に、友達から誘われたのがきっかけですね。
堀江晶太:その時は、なにかものを作りたくて訪れていたわけではないんですね。
クミン100g:そうですね。手頃に買えるMeta Quest 2が出たことで興味が湧いて、そのタイミングでVR歴が長くて慣れている先輩から、『VRChat』のことも教わりました。最初はVR酔いがひどくて、10分でダメになっちゃいましたけど、いまは12時間くらい耐えられるようになりました(笑)。
――『VRChat』の中で絵を描き始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
クミン100g:当時、他のユーザーとコミュニケーションを取るのがすごく苦手で、特に始めたてのころは日本人相手だと話すだけでもすごくドキドキしちゃって、全然喋れなかったんです。なので、基本的には友達と一緒に、プライベートインスタンスできれいなワールドをめぐって、VRの立体感や空気、美しさや可能性を楽しんでいましたね。途中から声を出して喋ってみたい気持ちは出てきたものの、それでも日本人相手だと怖かったので、海外のインスタンスに足を運ぶようになったんです。
堀江晶太:海外の人の方が話しやすいと思ったんですか? 言語がわからないのがちょうどよかったってことなんですかね。
クミン100g:そうなんです。自分の意見をズバッと言えないタイプだったんで、それを求められるとドキドキしてしまっていたんですが、海外の人って単語で話しかけてくれて、こっちも単語で返すので、情報量が最小限で済んでわかりやすいんですよ。ふざけ合ってても、なんとなく共通のもので遊べるからいいなって。
ある日、海外インスタンスでより深く話そうと思った時に、日本に興味があって、日本語を学びたいという人が来たんです。「日本の絵や言葉を説明してくれ」と言われた時に、ちょうど近くにQvPenがありました。なので、最初は絵を描く道具ではなく、コミュニケーションツールとしてQvPenを使い始めたんです。
その一環で、日本の漫画が好きな人にイラストを描いてあげることも増えて、それがきっかけでQvPenで絵を描き始めるようになりました。
堀江晶太:面白いですね。実際、無言勢の方々はQvPenをコミュニケーションツールとして活用していますよね。「自分はこういう者です」とスパッと示す道具でもあり、それは音楽における、「物を言わずとも、ギター1本で分からせるぞ」みたいな感覚に近いのかなって思います。
クミン100g:まさにそういうエピソードがありまして、ある海外ユーザーの中で、全く文字を書かない無言勢の方がいたんですが、その方はイラストの背景を描くのが好きな人だったんです。対して、自分はキャラクターを描くのが好きで。
その人がよく「俺が空間を作るからなんか描いてもいいよ」みたいな雰囲気を出してきてくれて、一緒に絵を描くことがあったんです。お互いに無言でも、不思議と役割分担ができて、自然と絵が作品ができていきましたね。
堀江晶太:お互い無言のまま、というのはすごいですね。まるでセッションみたいだ(笑)。イラストでもそういうことが起きるのはとても面白いです。音楽だと、演奏が始まってリズムやビートが生まれるから、そこに乗っかることはしやすいんだけれども……。
クミン100g:そうなんです。それで、一緒に立体的な絵を描き、みんながそれを見る文化の面白さに気づき、2024年の11月〜12月から壁に大きな絵を描くことも始めました。
堀江晶太:昔のインターネットにあったお絵描き掲示板などを立体で再現してるわけですね。
クミン100g:そうそう。あの頃のノリにすごく近いです。こういう立体的なイラストは、やっぱりVRならではですね。気軽に立体を描けることに驚いて、それを周囲に見せられることが楽しい。なによりVRだとディスプレイにはない迫力が出せるので、可能性を感じましたね。
そういえば、ワールド自体をQvPenの絵で埋め尽くす、という無謀なこともやりました。その絵を見に来てくれた人の中に、今のオデガのファンとなってくれた方もいましたね。運命的です。
――これ、全部QvPenで描いたものなんですか? ワールドとして公開されたものではなく……?
クミン100g:はい、全部QvPenで描きました。消去ボタンを押せば消えるし、インスタンスが消滅したら消えてしまうような、儚い存在なんですけどね。
堀江晶太:何時間作っても、みんながログアウトしたら終わり。
クミン100g:そう、だからこそ、めちゃくちゃ儚い。その場限りのイラストなので、6時間ほどかけて用意して、みんなが来るのを待ってみたこともありました。誰に見せるわけでもなく、とりあえずチャレンジしたい。この儚いペンでどこまで描けるんだ、と挑戦を重ねていました。
ある時には、パブリックで描いてたときにたまたま入ってきた人が、「ちょっと待ってくれ、友達を呼んでくる」と言って、最終的に30人くらい集まってきたことがありましたね。あれは面白かった。
堀江晶太:「いま呼ばないと見られないもの」ですからね……一期一会だ。
――QvPenは上書きや消去がとても簡単だから、中にはいたずらで消しちゃう人もいると思うんですけど、ここまで描きこまれると誰も手出しできない印象があります。
クミン100g:でも、海外インスタンスだと、向こうの時間では朝方や昼ごろであることが多くて、子供が多いので消されることも多かったですね。でも、「絶対に動揺しない」と決めて、消されても描き直すつもりで描き続けていました。誰か楽しくそれを見てくれたらいいや、と思って。
堀江晶太:ストリートミュージシャンの発想ですね。道端で演奏してて、それいいと思ってくれる人もいるし、「うるせえ」と言う人もいる、でも、やりたかったらやり続けるんですよね。
クミン100g:ただ、絵を描き続けているうちに、「これをワールド化したい」「誰かにこの儚いこの雰囲気を見せたい」という気持ちが芽生えてもいて。必死に描いて、一期一会になるのもいいけれど、消えてしまうのを本当に惜しいと嘆いてくれる人がいつもいたので、どうにかして残したいなと考えたんです。