「アバター」新作映画と同時にゲームの拡張コンテンツを配信 ユービーアイの珍しい施策は成功するか?

 ユービーアイソフトは12月19日、『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』の最新拡張コンテンツ『フロム・ジ・アッシュズ』の配信を開始した。

 「世界中から注目を集めるシリーズ新作映画の公開にあわせ、ゲーム作品の有料ダウンロードコンテンツを配信する」という今回の施策。ユービーアイソフトによる珍しいアプローチは奏功し、ゲーム業界で定着するだろうか。シリーズの作品性、メディアミックスの特性などから、その可能性を考えていく。

「アバター」の世界を題材にしたアクションアドベンチャー『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』

『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』 – 公式ワールドプレミアトレーラー

 『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』は、20世紀フォックスが配給を手掛けるSF映画シリーズ「アバター」を題材にした、一人称視点型のオープンワールド・アクションアドベンチャーだ。舞台となっているのは、まだ誰も見たことのない衛星パンドラの西部辺境。この星に住むヒト型の種族・ナヴィである主人公は、人間の民間軍事会社・RDAに拉致され、その目的のために型にはめられながら育った。15年後、ようやく自由を手にした彼は、故郷では自分がよそ者であることに気付く。失われた伝統との繋がりを取り戻し、ナヴィとしての真の存在意義を見出すため、プレイヤーは他の部族と協力しながら、パンドラをRDAから守り抜く冒険へと出かけていく。

 今回、配信が開始となった拡張コンテンツ『フロム・ジ・アッシュズ』は、12月19日公開予定の映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』にインスパイアされたもの。残酷なアッシュ族のナヴィと、RDAの戦士たちと対峙するトゥロング族の勇者・ソッレの戦いと冒険の物語が描かれる。ユービーアイソフトによると、『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』本編とは独立しており、ストーリーモードのすべてをシングルプレイでも、オンライン経由での2人協力プレイでも楽しめるという。また、三人称視点モードや未知のエリアの探索、装備のクラフト、スキル/武器のカスタマイズなど、さまざまな新要素も盛り込まれた。

 価格は、ダウンロードコンテンツ単体が税込3,480円、本編とセットにしたパッケージ「フロム・ジ・アッシュズ エディション」が税込5,610円となっている。なお、各プラットフォームでは、ゲーム本編と拡張コンテンツに、シーズンパスやデジタルアートブック、その他の特典などを同梱した「コンプリートエディション」も展開されている。

“異例の施策”の背景に、シリーズの作品性 一連のアプローチは定着するか

『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』 - フロム・ジ・アッシュズ: ローンチトレーラー

 近年、ドラマやアニメ、映画など、ゲームカルチャーと距離の近いエンターテインメント領域ではメディアミックスが盛んに行われているが、映画の公開日にあわせ、大型のダウンロードコンテンツを配信する例はあまり見たことがない。いったいなぜ、ユービーアイソフトはそのような“異例の同時リリース”を行おうと考えたのだろうか。

 その狙いはおそらく、両コンテンツ間における相乗効果だろう。先にも述べたとおり、「アバター」シリーズは映画作品を原作としている。2009年に公開された『アバター』は、3Dによる映像表現や独創的な世界観、巧みなストーリー構成などが評価され大ヒット。15年以上が経過した現在もなお、世界歴代1位の興行収入を記録した作品として広く知られている。

 その後、2022年には第2弾となる『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が公開に。同作に関しては、当初の期待を上回る評価を獲得するに至らなかったが、それでも世界歴代3位の興行収入を記録するなど、シリーズの確かな人気を世に示した。

 今回公開となった『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は、シリーズ第3弾にあたる映画作品。当然ながら、どのような作品となるのかに世界中が注目している。あまりにも残念な内容でなければ、第1作、第2作同様、世界歴代興行収入ランキングの上位に食い込むのは、まず間違いないと言える。ユービーアイソフトはそうした原作シリーズの話題性にあやかるために、コンテンツの準備を進めてきたのかもしれない。

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』予告編|2025年12月19日(金)日米同時公開!

 一連の施策に好影響を与えると考えられるのが、「アバター」の作品性だ。同シリーズは、世界観とストーリー、映像美などを強みとしている。映画を鑑賞し、かつゲームカルチャーに造詣のあるフリークなら、得られた感動の延長として、その世界を追体験したいと考える可能性が高い。

 他のエンターテインメント領域を起点にしたメディアミックスでは古くから、それぞれの主人公のように振る舞える舞台として、インタラクティブな体験を有するゲーム作品が選ばれてきた。たとえば、スポーツ好きのフリークのなかには、「FIFAワールドカップを観たことをきっかけに、サッカーゲームをプレイしたくなった」という経験を持つ人もいるのではないだろうか。厳密には「メディアミックス」と異なるこのような例だが、「各エンターテインメント領域をまたいだIPの再利用(≒メディアミックス)」という意味では、同様のアプローチと考えることができる。

 一方、こうしたロジックは、IPにとってメインとなるコンテンツが他のエンターテインメント領域、サブとなるコンテンツがゲームである場合にのみ成立する。昨今、両者のあいだで広がっているメディアミックスの主流は、どちらかと言えば、その逆だ。つまり、ユービーアイソフトと同様の手法でファン層に訴求できるIP/ゲーム作品はそれほど多くない。「映画が原作であり、かつゲーム化を果たしている作品」という条件で例を挙げるならば、直近では「Marvel」シリーズ、「ハリー・ポッター」シリーズ(『ホグワーツ・レガシー』のような世界観をともにする作品も含む)くらいしか見当たらないのが実情だ。

 メディアミックス元とメディアミックス先、それぞれの領域で相乗効果を狙う手法としては画期的とも考えられる、「アバター」シリーズをめぐるユービーアイソフトの施策だが、一連の理由から、効果的なアプローチとして定着するとは考えにくい。映画の成功にあやかり、『フロム・ジ・アッシュズ』が大きな売上を獲得することがあれば、上述のゲーム作品(もしくは同様の性質を持つゲーム作品)にかぎっては、類似の手法が取られていくのかもしれない。

 全世界が注目する「アバター」シリーズ新作映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の公開。同作は人気IPのメインコンテンツという立場から、ゲーム市場におけるマーケティングに変革を起こせるだろうか。今後の動向を注視したい。

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