平成プリ機の“復活”も話題 30年に及ぶ「プリ機」の歴史、その転換点と新たな文化の萌芽を追う
トップ画像:「プリ30周年記念ムービーより抜粋。2005年のシーン例」
2025年に30周年を迎えた“プリ”ことプリントシール機。その大手メーカーであるフリューは今年、愛され続ける日本のプリ文化の魅力を伝える30周年企画をリリースした。プリ機が誕生した平成3年から令和の現在まで、プリントシール機で撮影をした人すべてに「プリの楽しさ」を再発見してもらう企画の発信の一貫として、伝説の懐かしプリ機も“復活”させる。
奇しくも2025年は、平成レトロブームの真っ只中でもある。平成〜令和のトレンドを発信し てきた存在でもあるフリューの広報社員・門脇彩氏に、プリのこれまでと現在、そしてこれからの展望について聞いた。(編集部)
なぜ「20年前のプリ機」を現行機で再現したのか
フリュー株式会社が力を入れてきたという、今回の30周年プロジェクト。スマートフォンで平成プリの撮影体験ができる「めっちゃ★平成プリ」や、ギャルのプリ帳風「盛り×2 プリ年表」など、歴史と懐かしさとともに新しさを感じさせる特設サイトを続々オープンしているが、なかでも特に力をいれてきたというのが、平成〜令和にかけてプリを体験してくださった方の記憶に深く刻まれている伝説級のプリ機の写り、落書きコンテンツを“復活”させるという企画だ。
今回「DEAR 令和&平成 ウチらの伝説プリ」として復活したのが、2006年リリースの『姫と小悪魔』、2011年リリースの『LADY BY TOKYO』、2019年リリースの『Melulu』の3機種となる。しかし当然、古い筐体そのものはフリューにも残っていなかった。
「過去のプリを復活させることはこれまでも考えていましたが、今回初めて、現状あるプリ機で過去のプリの写り・機能を再現できました。写りやプリでの盛り加工・スタンプ・ペンなどの落書き、などを再現するために、一度当時の筐体を組み立て直して、再解析を行いました。調整の末に、今回は現在、全国に展開中の『Bloomit』という機種の中で、3機種全ての写り・落書き・画面などを再現することができました」(門脇氏)
『姫と小悪魔』がリリースされた2006年といえば、ギャルトレンドの真っ只中。倖田來未などギャルのアイコンともいえる著名人に憧れる女性も多かった時代で、「盛れる」という言葉が生まれた頃だ。
そして『LADY BY TOKYO』がリリースされた2011年は、スマートフォン普及の黎明期だ。盛れトレンドもピークに達しつつあった時代で、2006年と比べると「デカ目」や「スタイル補正」といった加工をしっかり入れるようになっていく。2つの機種を思い出すだけでも、それぞれの仕上がりには大きな差がある。
「プリ機は機種によってついているカメラやストロボの位置、仕上がりの色味、撮影ブースのサイズなどもそれぞれ違うのですが、『Bloomit』でなら、ソフト面の調整で全ての機種の写りを再現できることが分かりました。
カメラ自体のテクノロジーも進化しているので、100%過去の写り方を再現するのは難しかったですが、あえて画質を荒くしたり当時の加工処理をいれるなど、プリならではの目や肌の加工や盛れ方などはそのままに再現しました」
あの頃、どんな属性の人でも一度は撮ったことがあったであろうプリ。それが令和の今、全国のプリ機で撮影体験できるのは、プリ機の大手メーカーであるフリューだから成せることといえる。
プリ機で「遊んだ」平成、プリで「顔を盛る」令和
2006年の『姫と小悪魔』には、撮影した画像に自動でつくオーラや、ぺン一押しで肌の部分を自動でよけてかわいい柄をつけられる「ヴェール」や「文字うらマーカー」など、当時としては新しい要素がふんだんに盛り込まれ、プリを“デコる”感覚で落書きし尽くすのが主流だった。
反面、令和の今のプリはティーンのトレンドや韓国ブームの影響もあって、落書きは控えめな「シンプル感」が主流だ。30年間のプリブームの変遷は企画サイトにもまとめられているが、門脇氏はプリの遊び方も、あの頃と現在では全く違うと話す。
「2000年代中盤までのプリには“遊び要素”が求められていました。撮影背景やポーズ見本も遊びのいち要素となっていて、象の上に乗る背景があったり、変顔ポーズを指定されたり……プリ機の中で爆笑した思い出がある人も多いのではないでしょうか。
『LADY BY TOKYO』(2011年)以降、プリはティーントレンドの影響もありナチュラルな写りへとシフトしていきます。『Melulu』(2019年)の時代には、好みやなりたいイメージの多様化によりやりすぎ感のない自然な盛れ感が楽しめる機種が登場したり、細部にまでこだわれるメイク・レタッチ機能がプリにも求められるようになり、現在に至ります。目的としても、顔を盛りたいときに撮るというイメージが強く、友達と何かをした、どこかに行った記念としてプリを撮影するのが多いですね」
今は、もっとプリを楽しんでくれる人を増やすため、日本国内だけでなく海外展開にも積極的にチャレンジしているという門脇氏。
「フリューは、プリ文化のグローバル展開を目指して他国へのプリ機輸出のテストマーケティング中です。現在は、中国・上海の映画館やタイのショッピングセンターにローカライズしたプリ機を設置しています。
弊社のプリ機がある韓国の店舗では、『NANISTICKER』のように無加工風に写る機種も人気ですし、日本のような盛れ感のあるものも一定の需要があります。近年は逆輸入的に、韓国プリのような盛れ感を楽しめる機種が日本にも出てきました」
令和の現在のプリは、顔をキメて「ニコパチ」な撮影をし、落書きなしでプリントしたシールを透明なスマートフォンケースなどに挟み込むなどの遊び方が主流。これも韓国発の文化だ。
「女の子のトレンドはその時代を生きる子たちが作っていくもの。プリはトレンドと共に歩んできたがゆえに、ここ数年は今のプリ=顔を盛るものというイメージを持っている大人世代の方たちが多いことも事実です。
あの頃のようにプリが女の子の日常の中で“身近な存在”になったらいいのに、とも思います。だからこそ今回の30周年期間は、プリで顔を盛ることがメインになっていて“遊ぶ”感覚が少ない今の世代にも、かつてプリで遊んでいた大人世代にも楽しんでほしいんです」
これからのプリに求められていく「かつてのような共同体験×新しい技術」
サブスクの動画配信サービスも、SNSもなかったあの頃、私たちはなんでもない放課後の遊びとして、プリ機に100円硬貨を投入していた。何かの記念というよりは、ただその日「誰かと一緒にいて楽しかった」という感情が、印刷されたプリにも投影されていた。
30周年企画には、プリが多くの世代にとって、もっと身近な存在になってほしいという想いが込められている。25周年のインタビューでは、プリはスマホとの共存に成功したことを語ってくれた門脇氏。しかし、フリューとプリがこれから目指すのは、プリと私たちの日常とのコネクションの強化だ。
「平成のプリには、楽しまれ方に自由度があったように感じます。彼氏とのチュープリ・変顔プリの投稿……など、自由に撮影や自己表現を楽しめることがプリ本来の魅力です。
ですが、いつの間にかプリは盛るもの、特別な日に撮るもの、というイメージがついてしまったと思っています。プリ機そのもののテクノロジーの進歩、プリ独特の盛れ感は、プリならではの専有権。この部分をしっかり活かしながら、プリ機で撮影するという共同体験感、プリならではの世界観をどう作っていくのかが、今後の課題でもあります」
プリ機の技術は日々進化している。たとえば、今のプリ機がナチュラルな盛れ感を得ることができるのは、レタッチ技術が進歩しているからだ。昔のように落書きペンで髪色を染める必要も、手動でカラコンスタンプを押す必要もない。3段階しかなかったデカ目加工も、今はシークバーでリアルタイムに細かく調整できるようになっている。そしてフリューはソフト面の開発に限らず、ハード面の開発にも力を入れている。
「今まさに、女の子たちがプリに求めるものもまた、変化の真っ只中。コロナが明けた今、世間では体験が得られるコンテンツ、誰かとの共同体験ができることの価値に再び注目が集まっています。
2024年リリースの『EVERFILM』は、プロジェクターを使ったリアル背景投影・演出が支持されています。世界観やコンテンツとしては、平成のような“いつでもしたくなる遊び感”も意識しつつ、新しいテクノロジーはどんどん取り入れて、これまでにないプリ体験を創出していきます」
時代ごとのいい部分も振り返りながら、これまで通り「トレンドの先端」の存在として、新しい若者文化を作っていく意思を表明してくれた門脇氏。最後に、プリが30年間もの間、愛され続けてきた理由をどう考えているかも聞いた。
「プリ文化は時代ごとに変わってきましたが、変わらないものもあると思っています。それは、どの時代の女の子たちも自己肯定感、自己表現欲求、誰かと繋がりたい欲求を持っているということ。
大切な誰かとかわいく写真が撮りたい……この欲求は普遍。だからこそ、プリは30年愛され続けてきたし、今後も愛されていくのだと思います」