Roland最新リズムマシン「TR-1000」レビュー 伝統と革新が融合したフラッグシップモデルの実力は?

 Rolandは、同社のリズムマシン「TR」シリーズの最新機として『TR-1000』を、2025年10月11日に発売した。

 TR-1000は、1980年代に登場したRolandの伝説的なリズムマシン『TR-808』『TR-909』のアナログ・サウンドと最新のデジタル・サウンドおよびサンプリング技術を融合した「TR」シリーズの新たなフラッグシップモデル。Rolandがこれまでに培ってきた伝統の音を継承しながらも、音作り、楽曲制作の完結性、ライブパフォーマンスへの対応といった点で大きく機能的に進化している。

 今回、レビュー用にメーカーから実機をお借りしてデモトラックを作成した。そのなかで特に印象的だった機能を紹介する。

 TR-1000のサイズは486(W)×311(D)×125(H)mm、重量は5.5kg。手に取るとずっしりとした重みがあり、実機としての確かな存在感がある。また、筐体はシルバーを基調とした無骨なカラーリングで、余計な装飾を排したシンプルなデザインになっている。

 トップパネルを見渡すと、目につくのが多数のツマミ。これらを操作していると、DAWのマウス操作とはまったく異なる、「機械を直接コントロールしている」という独特の感覚を味わえる。

TR-1000のトップパネル。無骨なデザインとツマミの数の多さが目を惹く

 リアパネルには、各楽器の音を個別に出力するインディビジュアル・オーディオ出力など10系統の出力端子、トリガー入出力、モジュラーシンセとの連携に使えるフィルターCV入力など、豊富な入出力端子が並ぶ。

 TR-1000の最大の特徴は、TR-808/TR-909の回路を忠実に再現した16音色のアナログ音源をはじめ、Rolandが独自開発したアナログ回路の挙動をモデリングしたACB(Analog Circuit Behavior)音源やFM音源、PCM/サンプル音源という4つの異なる音源技術を1台に統合している点にある。これにより、クラシックなTR-808/TR-909のサウンドから、最先端の電子音楽まで、あらゆるジャンルに対応した音作りが行える。

音源選択画面。アナログのTR-808音源やACBの808モデリング音源が用意されている

 驚いたのが、ACBの「8x」「9x」シリーズ(TR-808、909のモデリング音源)だ。これらの音源では、オリジナルにはない音色調整のための追加パラメータが設けられている。

 例えば、8xのカウベルにオリジナルにはない「ユニゾン」と「ノイズ」が追加されているが、ここを調整するとカウベルの音が、オリジナルのものとは全く異なる、厚みとノイズが加わった音色に変化した。TR-1000ではこのように808/909の音を現代の音楽シーンに合わせて自由にカスタマイズできる点が面白い。

 また、PCM音源としてエレキピアノのコードやボーカルワンショットなども使用できる。ドラムだけでなく、メロディックな要素も組み込めることで、TR-1000は「リズムマシン」でありながらもより幅広く音楽制作に活用できる。

 ここからは、実際にデモトラックを制作するなかで試した、楽曲制作に関する機能を紹介する。TR-1000には、4つのレイヤートラック(バスドラム、スネアドラム、ロータム、ハイタム)があり、各トラックでA・B 2組のジェネレーター(音源)、フィルター、アンプを使用できる。これにより、音を重ねたり、独立したリズムパターンで鳴らしたりすることが可能だ。

 今回、筆者はテクノ系の4つ打ち曲を制作するなかで、アナログ音源を入れたAとACB音源を入れたBをレイヤーして、単発のアナログ音源よりもさらに太いキックサウンドを作成した。従来のTR-808やTR-909では、1つのトラックには1つの音しか割り当てられなかったが、TR-1000では、このレイヤー機能により、トラックに立体感とダイナミクスを手軽に加えることができる。

 同様に、別のトラックではレイヤーのAとBに別のボーカルサンプルを入れ、それぞれを異なるステップで鳴らすことで、コール&レスポンスのような効果を作った。1つのトラックで複数のサンプルを効率的に管理・演奏できるため、トラック数の節約にもなる。これは物理的なトラックの制限数があるハード機材ではかなりありがたい点だ。

レイヤートラックでは、音源がレイヤーされている場合、ステップが赤く光るが、ステップにA音源のみの場合は青く光り、B音源のみの場合は緑に光る。ひとつのパターン内で、異なる音色を各ステップに配置できる

 TR-1000では、WAV、AIFFファイルなどをインポートして使用できるほか、長さ調整、BPM同期、ストレッチ、スライスといったサンプル編集機能も搭載されている。今回はシンセスタブとブレイクビーツのループサンプルをインポートしたが、使いやすいサンプル編集機能により、異なるテンポのループ素材もすぐにプロジェクトに馴染ませることができた。TR-1000は64GBのメモリのうち46GBがユーザーエリアとして使用可能だ。

TR-1000とPCを接続し、TR-1000専用エディタアプリ経由でサンプルをインポートした

 また、パターンの打ち込みは、リズムマシンの定番的なステップ入力で行ったが、通常のステップ入力に加え、1つのステップで複数回発音させるサブステップ機能も使用した。細かく刻むリズムを簡単に作成できるため、バスドラム、スネアのロールをこの機能で作成。さらにトラップで使われるような高速で刻むクローズハイハットのパターンを作成したが、こうした作業を手動で細かく打ち込む必要がないため、作業時間を大幅に短縮できるのはありがたい。

サブステップはロールのほか、3連譜やフラムなども設定できる

 また、仕上げ作業で役立ったのは、パターンごとに特定のステップの音量を強調することでリズムに独特のノリとグルーヴ感を加えることができる「アクセント機能」だ。作成したパターンに対してアクセント機能を適用したところ、いかにも打ち込みという機械的な印象ではなく、まるで人間が演奏しているような有機的なグルーヴ感を演出できた。特に、リズムの要所にアクセントをつけることで、すべてのトラックが一体となって強弱が生まれ、パターンに躍動感が加わった。すべてのステップを均一な音量で鳴らすのではなく、要所にアクセントを加えるという細かな調整が、プロフェッショナルなトラック制作には不可欠だと実感した。

 さらにTR-1000には、複数のパターンをつなげて「曲」として再生できるソング・モードが搭載されている。今回は作成したパターンをイントロ、ブレイク、ビルドアップ、フックとして並べ、完成した楽曲として構築。DAWなしでもTR-1000単体で楽曲制作が完結する。

複数のパターンをつなげて「曲」として再生できるソング・モード。1つのセクション内でも複数のパターンを連続再生させる「VARI CHAIN」機能を活用した

 最後にライブパフォーマンス時に即興的に使える機能として、モーフィング機能とエフェクト機能を試した。

 モーフィング機能は、MORPHスライダー1つで複数のパラメータを同時に変化させる機能だ。今回、バスドラムとスネアのトラックに対してフィルターのローカット設定を施し、MORPHスライダーを操作することで、低域がカットされたり戻ったりする効果を演出。複数のつまみを個別に操作する必要がないため、演奏しながらの操作が格段に楽になる。

筐体の右下にMORPHスライダーとこの機能のオン/オフ切り替えボタンが設けられている

 また、ANALOG FXは、音に存在感を加える新開発のアナログドライブと開閉により陶酔感のある音色変化を演出できるRolandの「JUPITER-6」由来のアナログフィルターとがセットになった機能だ。さらにマスター・エフェクトのひとつ、アイソレーターを使えば、DJ的に帯域ごとに音を抜き差しして、曲に緩急をつけることも可能だ。これらの機能は、ライブパフォーマンス時に観客を煽るような演出に最適だと感じた。

Roland TR-1000 テストトラック

 今回は時間の都合で残念ながら試せなかったが、TR-1000にはスナップショット機能(楽器ごとに16個の音色設定を保存・切り替え。ピアノサンプルで音程バリエーションを作ればメロディ演奏も可能)、スライス機能(ドラムループを最大16に分割してリズムパターンを構築)、インストプレイ機能(16ステップキーを使ったリアルタイム演奏)など、多数の機能が搭載されている。高度な制作や演奏に関わる機能だけにいつか試してみたい。

 TR-1000は単なるリズムマシンではなく、サウンドデザインから楽曲制作・演奏まで可能な総合的なツールだ。ただし、ドラム以外の音源を使えるものの、グルーヴボックスのようにメロディを演奏する鍵盤機能がないなど、あえてリズムマシンの枠を超えない機材にとどめられている印象を受ける。

 TR-808やTR-909は当初、失敗作という評価を受けたのち、アーティストたちが独自の使い方を発見することでその価値が再評価された歴史がある。その歴史を考えると、TR-1000も制限があることで、むしろユーザー側から開発者が予想もしなかった使い方が生まれる可能性がある。

 実際に使ってみて、リズムマシンとしての完成度の高さを実感したが、多機能でありながら、新たな伝説の機材となる要素が眠っているようにも感じた。その要素が見つかったとき、TR-1000は真に"単なるリズムマシン"を超えた存在になるのではないだろうか。

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