『シャドバWB』移行への本音「よく決断したな」 実況・解説の友田一貴に聞く、再始動への思い
『Shadowverse』(以下、『シャドバ』)の新作タイトルとして、『Shadowverse: Worlds Beyond』(以下、『シャドバWB』)が今年6月にリリースされ、大会シーンも新たなスタートを切った。
この大きな転換期において最前線に立つのが、eスポーツキャスターとして活躍し、『シャドバ』の実況・解説を務める友田一貴氏だ。
8年以上『シャドバ』の実況を務めてきた友田氏は、今回の移行をどう受け止め、どのような意気込みで実況・解説に臨んでいるのか。『シャドバWB』にかける思いを聞いた。(小川翔太)
大規模なリニューアルは、大きなリスクでもある
ーーまず、『シャドバWB』に移行すると発表された時、率直にどう思われましたか?
友田一貴(以下、友田):不安もありましたが、「よく決断したな」という思いが一番強かったですね。
『シャドバ』のままでも、10年程度は生き残るゲームタイトルだと思います。しかし、新規プレイヤーにとって参入しづらい状況が続くという懸念もありました。そのため、どこかのタイミングで大きな改革が必要だと感じていました。
とは言え、大きな変化を起こすことは決して簡単ではありません。特に大規模なリニューアルとなれば、長くプレイしているユーザーに対して「ゼロからのやり直し」を求めることになります。これは大きなリスクであり、実行するには相当な勇気が必要です。
正直なところ、まさか『シャドバWB』という新規タイトルを発表し、大規模なリニューアルに踏み切るとは思っていませんでした。そのため、発表を聞いたときは非常に驚きました。
ーー『シャドバWB』への移行の発表を受けて、キャスターチーム内ではどのような反応がありましたか?
友田:やはり、「新しくなったからといって新規プレイヤーが入ってくる保証はない」「これまでプレイしていた人が離れてしまうかもしれない」という、不安の声が上がりました。
しかし、2つのことを目標に、チーム一丸となって取り組んでいこうと話しました。
1つは、既存プレイヤーに今後も『シャドバWB』を続けてもらうこと。そして2つ目は、リニューアル後にできるだけ多くの人に『シャドバWB』を知ってもらうこと。この2つを頑張ろうと、キャスター陣みんなで決意しました。
「実況・OooDa/解説・友田」という新しい組み合わせ
ーー『シャドバWB』のリリース後、既存ファンに加え、新規プレイヤーも増えてきています。こうした状況で、実況のスタンスとして変えたポイントや、新規層に向けて特に工夫している点はありますか?
友田:専門用語や長く『シャドバ』をやっている人しかわからない話を減らすことを特に意識しています。例えば、専門的な話題や、古くからの有名プレイヤーの話を、視聴者が当然知っているという前提で話すことは避けるようにしています。
その代わりに、「この人はこういう選手です」と説明を加えたり、「過去にこういうプレイングがあったんです」と噛み砕いて伝えるようにしています。初心者でも理解しやすいような実況を心がけています。
さらに、意図的に実況と解説の組み合わせも変えているんです。お馴染みのペアだけでなく、新しい組み合わせに挑戦しています。
中でも大きな変化は、僕が実況だけでなく解説も務めていることですね。新しい実況者を迎え、僕が解説を担当するという試みは、『シャドバWB』として新しいスタートを切った今だからこそできる新鮮な挑戦だと感じています。
ーー先日の「CR Streamer League Shadowverse 第1節」では、実況をOooDaさん・解説を友田さんが務められていましたね。久しぶりに解説をやられてみて、いかがでしたか?
友田:面白かったです! 長く実況をやってきたからこそ、解説者としての立ち回りも意識するようになっていました。
実況者が「ここで決めたい」という場面では発言を控える。あるいは「ここはリーサルなのでお願いします」といった形で実況者へ暗にパスを送るなど、解説者として求められていることを意識しながら喋るようにしていました。
『ちいかわ』コラボスキンが使えないのは残念
ーー『シャドバWB』に移行したことで、良い方向に変わったと感じる点を教えてください。
友田:移行によってユーザー層が広がったことが、一番大きな良い変化だと思います。ストリーマーやカードゲーマーに加えて、これまでカードゲームに触れてこなかった人たちにもプレイしてもらえるようになりました。
その背景には、参入のハードルが下がったことがあります。『シャドバ』にはカードが何千種類もあり、「今から始めるのは難しい」と敬遠されがちでした。しかし、ゼロからのスタートになったことで「この機会に始めてみよう」という方がたくさん生まれました。
これは、リフレッシュしたからこその最大のメリットだと思います。
ーーその一方で、移行によって失われたものや、プレイヤーにとって残念に感じられる点はありますか?
友田:新規プレイヤーにとっては特にデメリットはないと思っています。ただ、長くプレイしてきた人にとっては、8年分のカード資産などがリセットされた点は残念だったでしょう。
僕自身もそのひとりで、8年分のカードやエーテル、集めてきたスキンをすべて『シャドバ』に置いてこなくてはいけなかったのは寂しく感じます。
特に、思い入れのあった『ちいかわ』のコラボスキンが使えなくなったのは大きいですね。気に入って使っていたスキンが消えてしまったのは、ファンとして惜しい部分でした。
ポジティブな変化は多々あれど、資産面がリセットされたのは、長くプレイしてきたユーザーにとっては最も残念な点だったと言えます。
この1年半、カードゲーム界隈に顔を出した
ーー以前、DetonatioN FocusMe所属のミル選手にインタビューさせていただいた際、プロツアーがお休みになっている期間に他のタイトルを見て勉強されたというお話を伺いました。友田さんは、この移行期間中の1年半に、何か始めたことや、『シャドバWB』に向けて勉強したことはありますか?
友田:ミルさんと重なる部分もあると思いますが、さまざまなeスポーツのプロシーンやカードゲーム界隈に顔を出しました。
具体的には、eスポーツのグランドファイナルを現地で観戦したり、自分で紙のカードゲームの大会に出場したりと、さまざまな形で大会に関わってきました。
そうした経験を通じて、プレイヤー目線から大会の運営や配信の工夫を学べました。
ーープレイヤーとして大会に出場してみて、どのような発見がありましたか?
友田:トーナメントにおける待ち時間の過ごし方やフィーチャーマッチの雰囲気を実際に知ったことで、選手がどんな気持ちで大会に臨んでいるのかを理解できました。また、プレイヤーの立場になることで、「ここを解説してもらえると嬉しいだろうな」というポイントもわかるようになりました。
さらに、『シャドバ』以外のeスポーツタイトルも実際にプレイし、そのうえでプロシーンの配信を視聴したことでも、大きな学びを得ました。
例えば、実況解説の巧みさや演出の工夫、選手をリスペクトする姿勢などポジティブな点。同時に、「待ち時間が長い」「インターバルが少し退屈」といった課題も視聴者目線で感じられるようになりました。
そうした経験を踏まえて、「プロはこうあるべき」「配信はこう改善した方がいい」といった意見をキャスターチームに対して伝えるようにしています。実際に他の大会をみんなでチェックしながら、「ここは良い」「ここは改善できる」とフィードバックし合うことで、『シャドバWB』のプロリーグに活かしています。
とにかく「初心者」に優しく
ーー現在、リニューアル直後ということもあり、『シャドバWB』が大きく盛り上がっていますね。現在のこの追い風を活かして、今後友田さんとして特にやっていきたいことや、注力したいと考えていることはありますか?
友田:これは僕だけでなく、『シャドバ』に関わる人みんなに言えることですが、「初心者に優しく」ということは意識すべきことだと考えています。
僕個人では、「どのカードを使えばいいか分からない」「勝てないからつまらない」といった理由で離脱してしまう人を少しでも減らすため、実況外でもできることをやっています。
例えば、『シャドバWB』に関する些細な変化でもSNSに投稿したり、デッキリストを載せるようにしています。SNSをあまり頻繁には見れない方も沢山いるので、僕のXを見るだけでとりあえずデッキリストが確認できる、そんな状況にしたかったからです。
ーー友田さんのデッキリストは、私もよく活用させていただいています! SNSでの投稿に関して、意識していることはありますか?
友田:特に意識しているのは、分かりやすさです。見やすくなるようにデッキ画像は常に一番左に配置し、ハッシュタグをつけて検索してもらいやすいようにしています。また、「連勝」「グランドマスター」などのワードで引っかかりやすいように投稿しています。
あとは、デッキリストには、絶対にQRコードをつけています。読み込むだけでデッキをそのまま使え、1枚ずつ自分で設定する手間を省けるようにしました。
プロプレイヤーにも、「できる限りハッシュタグをつけて、デッキリストを載せよう!」と伝えています。
シャドバ実況解説陣は「プロ並み」に研究している
ーー最後に、『シャドバWB』から友田さんの実況・解説に触れる視聴者に向けて、こだわりポイントや見どころを教えてください。
友田:一番のこだわりは「やり込み」です。前作も含めて、僕自身が徹底的にやり込んでいますし、一緒に実況・解説をしているメンバーも同じ熱量でプレイングの練習をしています。実況・解説陣全体の「やり込み」の深さは、他のゲームにはないレベルだと自負しています。
『シャドバWB』の魅力を最大限に伝えたいという思いから、ゲーム内のストーリーまでやり込んでいます。特にカードゲームは「観客に試合状況が伝わりづらい」という難しさがあります。そのため、見ている人に戦況をできる限りわかりやすく伝えたいと、キャスター全員が一丸となって取り組んでいます。
実況そのものの練習はほとんどしませんが、ゲームは徹底的に練習しています。そうすることで、選手の苦しさや嬉しさといった気持ちが自然と理解できるようになるからです。
実況者として、選手の気持ちを拾い上げて代弁してあげることが、最も大切だと考えています。僕含め、キャスターたちはみんなプロ選手のように『シャドバ』を研究しているので、ぜひその熱量を見てほしいですね。