堀江晶太×HONNWAKA88が語り合う『VRChat』の音楽シーン 情熱が“通貨”になる世界の歩み方
連載「堀江晶太が見通す『VRChat』の世界」第2回
ボカロP・作編曲家・ベーシストなど、さまざまな顔を持つ音楽家・堀江晶太。押しも押されもせぬ一流のクリエイターである彼には、これまで公に明かしていなかった趣味がある。それが、ソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』だ。
コロナ禍をきっかけに『VRChat』に入り浸るようになったという堀江。普段は音楽家として活動しながら、VRの世界では“ひとりのユーザー”としてこの世界を楽しんでいるという。
本連載では、堀江の『VRChat』愛、そこで体験したさまざまな出来事、リスペクトする「注目のクリエイター」などについて語っていく。
第2回となる今回は、FZMZのベーシストにして、シンガーソングライターとしても活動するHONNWAKA88(ホンワカパッパ)が登場。堀江晶太と共に、『VRChat』の音楽シーンやイベント事情、注目の音楽について語り合ってもらった。(編集部)
「NAGiSA」に4時間いたことも 堀江晶太が足を運ぶワールドやイベントは?
――さて、今回はHONNWAKA88さんと共にお話を伺っていきたいと思います。……が、前回の分を掲載した際、「一体(VRChat内の)どこに居るんだ?」と気にされている読者の方が多かったんです。差し支えなければ、堀江さんが普段、どんなワールドやイベントに足を運んでいるのか、教えていただけませんか?
堀江晶太(以下、堀江):音楽方面だと、飛び入りや路上ライブ的に演奏ができるパブリックワールドが多いですね。具体的には「First Note Station」や「VRC 新宿駅」、「Japan Street」あたりです。
ここは、いつでもフラッと入ってなにか演奏などをしてもいいし、しなくてもいい場所です。自分もフラッと立ち寄って、弾き語りや即興セッションなどを見ています。その他には、知人が出演する音楽イベントも見に行きますね。
あと、「NAGiSA」(※ユーザーがランダムの1対1で対話する人気ワールド)にもよく行きます。あそこはまさに“野良”になれるワールドなので好きですね。あそこでできたフレンドもたくさんいますし、いろんな人達と話せるのが楽しいです。「寝る前にちょっとやろう」と入って、気付いたら4時間ぐらいい続けたこともあります(笑)。
――ワールド以外で、『VRChat』で注目しているイベントや、みんなに知ってもらいたいイベントはありますか?
堀江:音楽イベントはもちろんですが、新しく入ってきた方は、大手メーカーやスポンサーが開催するイベントもオススメですね。一番入りやすいのは、サンリオさんの『Virtual Sanrio Festival』ですね。内外から面白いラインナップのアーティストが招かれる、大型のフェスイベントで、入口として最適かなと思います。
他にも、セレクトショップのBEAMSさんが主催するようなワールドを用いたイベントなど、コラボレーション企画もよいと思います。
――HONNWAKA88さんはいかがでしょうか?
HONWAKA88:有志イベントは挙げたらキリがないですが、自分もお世話になった「SpotLightTalks」は特に入口になりやすいと思いますね。
あと、キャバレー的な接客イベントがオススメですね。キャストさんがいて、お話ししながらカウンター越しにお酒をいっしょに飲めるイベントです。何が面白いって、みんな好きでやっているんですよね。
自分は特に、招待制の「Bar Empress」が好きです。一人に対しキャストが1人〜2人がついて接客してくれるんですが、皆さんものすごく誠実に、丁寧にお客さんと向き合っているんです。
お金にならないけど、そこまでイベントに真摯に向き合うって、本当に好きでやっているってことだと思いますし、そこは音楽界隈とも通ずるところがあって安心感がありますね。自分はリアルでその手の店に行くとあまり話せないので、行く機会は少ないのですが、ここなら「好きでやっている」とわかるので、楽しくお話しできるんですよね。
――キャストという手前、わざわざ言うことは少ないと思いますが、嫌だったら嫌と言っていい環境なのも安心感がありそうです。こちらが失礼なことをしたら、ちゃんと怒ってくれるだろうと。
HONWAKA88:対等な位置からスタートできるのがいいですよね。あと、自分はフルトラッキングで誰かを撫でる、あるいは撫でられる感覚が好きで、「なでなでマッチング」にもよく足を運びます。自分、鳥なんですが、鳥としても撫でられるとうれしいんですよね(照)。
――人に迷惑を掛けることがない限りは、「好きなことができる」魅力があると(笑)。さて、せっかく音楽家同士の組み合わせなので、もう少し音楽についても聞いていきましょうか。お二人は、VRの音楽シーンからはどのような印象を受けていますか?
堀江:まず言えるのは、「現実と一緒なんだ」ということですね。現実に対して優劣があるわけでなく、やりたいからちゃんとやる、本気でいいものをやる、となれるところは現実と――もっと言えば、プロの世界と変わらないです。
その上で、「上手でなければお断り」でもないんですよね。上手さ以上に「愛着」を重んじる場所もちゃんとあり、そういった点にはプロとアマチュアのいいところどりを感じますね。そういった空気感のおかげですごく参入しやすいですし、本気になりやすい環境だと感じます。
――HONNWAKA88さんはかなり精力的に『VRChat』の音楽イベントにも出演されていますが、いかがでしょうか。
HONNWAKA88:作って、披露して、また作ってを繰り返す、そのスピード感が凄まじいところですね。一般的に、インディーズであってもプロであっても、楽曲を作って発表するローテーションは何カ月もかかると思うんですけど、この世界は1週間、早ければ数時間で回っています。
というのも、家でデモを作って、なんとなくギリギリ人前でやれるレベルになったら、ログインして路上で、枠が空いていればオープンマイクで披露できちゃうんですよね。リリースの概念もないので、自分はGoogleドライブにデモができたら置いて、公開しています。「自由に持っていってね」って(笑)。
アイデアが生まれてから、実際に見てもらうまでのスピードが本当に一瞬なので、最初は不完全なものでいいことも大きいですね。完成はいつでもいいし、変に気負わなくていい。伝えたい骨格だけちゃんと伝わればそれでいい。そんな表現活動に真っ向から挑めるところが魅力的ですし、そこにしかないやりがいや面白さがありますね。
――営みとはまた別に、技術的な面ではいかがでしょうか? 面白いと感じているところがあれば教えてください。
堀江:一つは、音楽を披露する際に、用いる方法が演奏だけではないところ。リアル以上に拡張性があるところですね。
VRでは、パーティクル演出や、音楽を届けるための空間をまるごと作ってしまうこともできますよね。リリックを空間に出現させるような、現実では難しいことも、アイデアとスキルさえあればどこでも披露できるんですよね。この拡張性の高さは、リアルの表現より圧倒的に優秀だと感じます。
あと、個人的には自宅から演奏できることが、僕は好きですね。どこでも自分の音を鳴らせるのはプロとして当然のスキルですけど、DTM系の人間にとって「一番聴いている自分の音」は、「家で聴く音」なんですよね。一番向き合っている時間が多い音って、家でヘッドホンをして、自分の椅子に座りながら鳴らしている音なのですが、それを披露できることって、あんまりないんですよ(笑)。
――言われてみればなかなかないですね。産地直送の音、といいますか。
HONNWAKA88:スタジオやライブハウスで鳴らした空気の音こそ本物、とよく言われますけど、我々インターネットミュージシャンからすると逆で、家の音こそ本物なんですよね(笑)。それをライブとして披露できることが不思議ですし、嬉しいです。
――HONNWAKA88さんは、『VRChat』での楽曲制作ではどんなことを意識していますか?
HONNWAKA88:「細かいところまでやらない」ですね。デモでいいし、仮歌でいい。どうせ誰も見てない、その楽曲で為すべきことがあるわけでもない、達成すべき数値的目標もない。誰に向けた音楽かは意識しますが、流行とか、時代とか、ジャンルとか、そういったことを上手に色をつけることはしない。
自分が好きなもの、その瞬間やりたいことだけで楽曲を構成しています。それを通して、自分自身に向き合うこと以外は、何も介在させないようにしています。
あと、自分はこれまで、歌をちゃんとやってこなかった身でもあります。アコースティックギターも同様で、そもそも1本くらいしか持っていなかったんです。なので、『VRChat』ではアコギの弾き語りという「慣れないもの」で楽曲を作るようにしています。なにより、『VRChat』でいろんな人に歌ってもらいたいので、弾きやすさも意識しています。
――音源だけでなく、譜面やインストも配布されていますよね。すごく手厚いと感じます。
HONNWAKA88:コード進行が分かればなんとなく弾けるので、いざという時に誰かと一緒にセッションできるようにしておいたんですよね。おかげで、イベントで突発的に、特にアンコールで誰かと一緒に演奏することもできていますね。
インストも特に著作権を主張せず、フリーに使ってくれていいですよ、としています。それによる自由な発展性や、あえて完璧にしないことで相手が構えなくていいようにすることは意識していますね。