『Nothing Phone (3)』で五島を旅して気づいたカメラ性能の凄さ AI補正のおかげで撮って出しでも“伝わる”写真に
尖ったデザインのガジェットには、いつもロマンを感じる。スマホも「他の人と被らない、個性的な一台が欲しい」という欲求は常にある。
だが、デザイン重視の製品は性能面で妥協を強いられることが多いのも事実だ。特にカメラなんかは真っ先に犠牲にされる印象で、結局「見た目だけのスマホ」になってしまうパターンをこれまで何度も見てきた。
そんな筆者を心躍らせてくれたスマホが『Nothing Phone (3)』だ。透明な背面と非対称なカメラ配置が特徴的なこの端末、所有欲を満たしてくれるビジュアルは申し分ない。でも実際のところ、普段使いに耐えられるのか? 特にカメラ性能はどうなのか? ちょうど長崎~五島列島への旅行が控えていたので、実際に持っていって徹底的に試してみることにした。結論から言うと、これが想像をはるかに超える高性能だった。
開封して感じた「所有する喜び」
まず届いた『Nothing Phone (3)』を手に取ってみて、改めてこのデザインの異質さに惹かれた。背面の透明パネルから見える内部構造、左右非対称に配置されたカメラモジュール。好き嫌いがはっきり分かれるデザインだとは思うが、筆者は完全に「好き」側の人間だ。人と同じものを持ちたくない、という欲求をストレートに満たしてくれる。
そして背面右上に配置された『Glyph Matrix』と呼ばれる小型ディスプレイ。時刻やバッテリー残量を表示できるこの円形スクリーンも、『Nothing Phone (3)』の個性を際立たせている。
撮って出しでここまで撮れるとは思わなかった
さて、本題のカメラ性能について。先に断っておくと、この記事に掲載している写真は全て『Nothing Phone (3)』で撮影した撮って出し(無加工)である。スマホで撮って、そのままの状態だ。
旅の目的は軍艦島。TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』でもモチーフになったあの廃墟を、この目で見たかった。
羽田空港から長崎空港へのフライト中、窓から見える景色を何気なく撮影してみた。機内という光が微妙な環境、さらに窓ガラス越しという悪条件にもかかわらず、思いのほかクリアに撮れていて驚いた。雲の質感や遠くの海の色まで、しっかりと再現されている。
使っていて気づいたのは、『Nothing Phone (3)』は写真の処理を結構強めにかけてくるということ。AIによる補正が積極的に働いているのが分かる。でもその処理が絶妙で、ほとんどの場面で後から編集する必要を感じない。もちろん写真編集はできるのだが、開発陣の「特に触る必要ないでしょ?」と自慢気な様子が目に浮かぶようだ。
明暗差が激しい軍艦島で真価を発揮
いよいよお目当ての軍艦島クルーズに参加した。船で島の周りをぐるりと回りながら、ガイドさんが歴史を解説してくれるツアーだ。軍艦島は正式名称を端島といい、炭鉱で栄えた島。ここで採れる石炭が極めて上質で、それを採掘するためだけに作られた人工の街だ。狭い島に高層アパートを建てまくり、最盛期には5000人もの人々が密集して暮らしていたという。1974年に閉山してからは無人島となり、今では風化した建物群が独特の景観を作り出している。
撮影当日は快晴。これ以上ないほどの観光日和だ。しかし同時に、これはカメラにとって厳しい条件でもある。海面からの照り返しが強烈で、空は眩しいほどに明るい。一方で、廃墟となった建物の内部は深い影に覆われている。こういう明暗差が激しいシーンはスマホカメラにとって鬼門であり、HDR処理がうまくいかないと、空が白飛びするか建物が真っ黒に潰れるかのどちらかになる。
ところが『Nothing Phone (3)』は、見事なバランスで仕上げてきた。空の青さは残しつつ、影になった建物のディテールもしっかり描写される。崩れかけた窓枠の質感、錆びた鉄骨の色味、壁面のひび割れまで、細部まで再現されている。念のため手持ちの別カメラでも撮り比べてみたが、この条件下では圧倒的に『Nothing Phone (3)』の勝ちだった。
モノクロフィルターが想像以上に使える
軍艦島の撮影で、さらに気に入ったのが標準搭載されているフィルター機能。レトロ調やパースペクティブなど色々あるが、中でもモノクロが秀逸なのだ。
モノクロは一見シンプルだけど、実は濃淡の出し方や明瞭度の調整で印象がガラッと変わる。安っぽいモノクロフィルターだと、ただ色を抜いただけの平坦な画になってしまう。でも『Nothing Phone (3)』のモノクロは違う。少し濃いめのトーンで、被写体の輪郭をくっきり際立たせてくれる。コントラストの付け方が絶妙で、おかげで適当に撮っても「作品っぽく」仕上がる。
特に廃墟との相性は抜群だ。朽ちた建物の重厚感、錆びた鉄の質感、風化したコンクリートの荒々しさ。モノクロにすることで、これらの要素が一層際立つ。画面の隅にNothing風のデータ(撮影日時など)が白文字で表示される遊び心も良い。まるでフィルムカメラで撮ったような雰囲気が出せる。
五島列島の青い海を撮る
軍艦島を後にし、翌日はフェリーで五島列島へ。天気にも恵まれ、まさに絵に描いたような島の景色が広がっていた。
ビーチに到着して早速撮影開始。ここで『Nothing Phone (3)』の色再現性の高さを実感した。特に青系統の発色が素晴らしい。空の青、海の青、それぞれ微妙に異なる色合いを正確に捉えている。しかも彩度が高めなので、見た目以上に鮮やかで美しい。
宿泊するホテルにチェックイン。部屋からは海が一望できる最高のロケーションだ。せっかくなので、部屋の様子も撮影してみることにした。室内撮影は、屋外とは違った難しさがある。照明の色温度をどう捉えるか、暗い部分をどこまで持ち上げるか。この辺のバランスが重要だ。『Nothing Phone (3)』は、室内撮影でも安定した性能を見せた。窓から差し込む自然光と室内照明が混在する状況でも、ホワイトバランスが大きく崩れることはない。
夕食時、料理の写真も撮ってみた。ここでも『Nothing Phone (3)』の処理の巧みさが光る。料理の色味を自然に、かつ美味しそうに見せてくれる。照明が暖色系の店内でも、料理が黄色くなりすぎることなく撮れた。
明るければ無敵。暗所はもう一歩
3日間、様々なシーンで撮影を続けた結論は、明るい場所なら、『Nothing Phone (3)』に全てを任せて問題ない。日中の屋外撮影における性能は、正直なところ期待以上だった。色の再現性が高く、HDR処理も優秀、シャープネスのかけ方も絶妙。特に青空や海の青さは、目で見た印象そのまま、いやそれ以上に美しく残る。
一方で、完全に暗くなってからの夜景撮影や、照明の少ない室内での撮影は、やや苦手な印象を受けた。撮れないわけではない。ちゃんと撮れる。でも昼間のような「何も考えずシャッターを切るだけで最高の一枚」とはいかない。少し色味が外れたりすることもあった。
ただし、これはあくまで暗闇というエッジケースでもある。一般的なスマホカメラと比べれば、暗所性能も決して悪くはない。今後のアップデートを期待したいところだ。
デザインもカメラも妥協したくない人へ
3日間の旅を終えて、『Nothing Phone (3)』に対する評価は大きく変わった。「見た目は良いけど性能はそこそこなんでしょ?」という先入観は、完全に覆された。このスマホは、所有欲を満たす唯一無二のデザインと、実用的なカメラ性能を高いレベルで両立させている。
「尖った見た目のスマホは使いにくい」という固定観念を、良い意味で裏切ってくれた。各社がカメラ競争を繰り広げる中、『Nothing Phone (3)』は確実に上位グループに食い込んでいる。少なくとも、筆者が今まで使ってきたスマホの中では、間違いなくトップクラスのカメラ性能だ。
デザイン性と実用性を天秤にかけて悩んできた人、人と同じスマホを持ちたくない人。そんな欲張りな願望を持つ人に、『Nothing Phone (3)』は間違いなく刺さる選択肢だ。