2週間で75万本販売の『CloverPit』 なぜ人は“スロットを回すだけ”のゲームに夢中になってしまうのか
とあるインディーゲームが話題を呼んでいる。そのタイトルの名は『CloverPit』。9月27日にリリースを迎えたばかりのギャンブルゲームだ。
インディー発では、2025年でも指折りのヒットとなりつつある同タイトル。本稿では、そのゲーム性からトレンド化の理由を考えていく。
借金返済のためにひたすらスロットマシンを回すローグライクギャンブルゲーム『CloverPit』
『CloverPit』は、2人のイタリア人からなるインディーゲームスタジオ・Panik Arcadeが開発を、イギリスのパブリッシャー・Future Friends Gamesが発売を手掛けるローグライクスロットゲームだ。プレイヤーは狭苦しい独房に閉じ込められた主人公となり、次々と期限がやってくる借金の返済のために、机の上に設置されたスロットマシンをひたすらに回していくことになる。
同タイトルは2025年4月、インディーゲームに関連する配信番組「The Triple-i Initiative 2025」のなかでその存在が明かされた。同日にはプレイの一部を体験できるデモがSteamで配信開始に。この体験版がコアなゲームフリークのあいだで話題となり、正式リリースが待望されていた。当初、Future Friends Gamesは9月3日に発売すると発表していたが、『Hollow Knight: Silksong』との時期の重なりを避け、9月27日へと延期した経緯がある。
そうした対応が功を奏してか、『CloverPit』はスタートダッシュに成功。Steamにはすでに1万件弱のユーザーレビューが寄せられ、上から2番目のランクである「非常に好評」へと分類されている。開発元のPanik Arcadeによると、リリースから2週間で75万本以上を売り上げているとのこと。現在もその勢いは陰りを見せず、連日2万人以上が同タイトルをプレイしているというデータもある。
対応プラットフォームはSteamのみで、価格は1,200円(税込)。日本語でのプレイやコントローラーでの操作にも対応している。
良いとこどりのゲーム性が『CloverPit』ヒットの要因に
デモの配信、正式リリースを経て、あっという間に話題作の地位に上り詰めた『CloverPit』。なぜ同タイトルはこれほどまでに支持されているのだろうか。ヒットの理由を考えるうえで触れておかなければならないのが、含まれるゲーム性についてだ。
先にも述べたとおり、『CloverPit』は「ローグライクスロットゲーム」と表現される。一見すると、スロットマシンを回し続けるだけのギャンブルシミュレーターのようにも感じられるが、「ローグライク」という言葉にあるとおり、都度設定される返済ノルマがクリアできなければゲームオーバーとなり、振り出しに戻ってプレイしなければならないという基本構造を持つ。
最初は簡単に乗り越えられるノルマだが、そのハードルはクリアのたびに二次関数的に高くなっていく。運に任せてスロットマシンを回すだけでは、必要なコインを稼げなくなるため、プレイヤーは工夫を迫られる。そのようなタイミングで頼ることになるのが、ゲーム内に150種類以上も登場するアイテム「ラッキーチャーム」と、正体不明の相手から与えられる「電話アビリティ」の存在だ。これらを駆使することで、スロットマシンに現れるシンボルの発生率や揃ったときの獲得枚数を変化させられる。2つの要素の相乗効果によって、得られる報酬を爆発的に増加させ、プレイヤーは大きなノルマを乗り越えていく。
ラッキーチャーム、電話アビリティは、『CloverPit』独自の成長・ビルドシステムであると言えるだろう。メジャーからマイナーまで、分け隔てなくさまざまなタイトルをプレイしている方なら、このようなシステムに既視感を覚えたに違いない。昨今トレンドとなっているローグライクのジャンルでは、これらの要素の組み合わせによって、大きく能力を向上させる仕組みが一般化しつつある。
『Vampire Survivors』や『Balatro』はその代表格だ。さらに時間を巻き戻すならば、『Slay the Spire』のそれとも共通項が多いかもしれない。それぞれのあいだには、インフレさせる対象が報酬か、ダメージ・能力かの違いしか存在していない。プレイヤーは工夫が実を結んだときに得られる快感からその深みへとハマっていく。つまるところ、『CloverPit』は、こうしたローグライクジャンルの成功作の流れを正しく汲む作品であるとも言えるのではないだろうか。
また、『Balatro』とのあいだには、ギャンブルを題材にしているという類似点もある。そうした特徴を持つからこそ得られる射幸心や中毒性もまた、『CloverPit』が人の心を惹きつけるひとつの理由となっている。
さらにビジュアル面では、Mike Klubnikaのギャンブルゲーム『Buckshot Roulette』や、Daniel Mullins Gamesのデッキ構築型ローグライク『Inscryption』にも共通性を見て取れる。実際にSteamでは、『Balatro』を含めた各タイトルとのバンドル販売が行われている。ギャンブルを題材にするという切り口、ホラーからの影響を感じさせる重苦しい世界観など、これらの作品が持つエッセンスを上手に取り込んだこともまた、『CloverPit』の魅力を増幅させているのだろう。
以上を踏まえ、『CloverPit』は、昨今のヒット作から上手に良いとこどりをした成功作とまとめることができるのではないか。ここには「著名なストリーマーによる実況・配信コンテンツを通じて、多くのプレイヤーに訴求できたこと」「税込1,200円という比較的手の出しやすい価格であったこと」などもポジティブに作用したと考えられる。
特に前者に関して、ここ数年、このような接点はメーカーとコンシューマーをつなぐ重要なチャネルとなりつつある。低価格のインディータイトルが市場にあふれている現代だからこそ、成功を手にするためにはまず、仲介者であるストリーマーたちにその個性をいかに訴求するかが求められているのかもしれない。
『CloverPit』の快進撃はいつまで続くか。同タイトルが2025年を代表するインディーゲームのひとつとなったことは間違いない。