往年の名機が令和に“再起動” 任天堂が復刻版バーチャルボーイを単体で商品化しないワケ
任天堂は9月12日、Nintendo Switchプラットフォームの新作情報番組『Nintendo Direct 2025.9.12』のなかで、同社のオンラインサービス「Nintendo Switch Online + 追加パック」のラインアップにバーチャルボーイを追加すると発表した。
任天堂の往年のゲーム機として、現在もなお、話題に上る機会が多い同機。今回の復刻はなぜ単体での商品化ではなく、オンラインサービス内のコンテンツラインアップのひとつとして提供されることとなったのか。背景、特性からその理由を読み解く。
「時代を先取りしすぎた名機」が令和に復活
バーチャルボーイは、任天堂が1995年7月に発売したテーブルトップ型のゲーム機だ。本体にゴーグル型のディスプレイを搭載しており、覗き込むことで立体的な映像を表示する。公式サイトによると、従来のテレビ画面に代わるデュアルディスプレイシステムにより、鮮やかな完全立体表現を実現していたとのこと。ゲーム&ウオッチやゲームボーイといった同社ハードの生みの親である横井軍平氏が開発を主導した、当時では画期的なVR機器である。
「スーパーファミコンによって市場の覇権を握っていた任天堂が送り出す新ハード」ということもあり、同機は日本国内だけでなく世界中で注目を集めたが、特殊なプレイスタイルから疲労感が強いなど、実際の体験がともなわず、思いのほか市場の評価が伸び悩んだ。
一方、業界動向に詳しいフリークならご存知のように、VRゴーグルの市場は2020年代になって盛り上がりを見せている。搭載されている機能に差こそあれ、見方によっては、両者のコンセプトやデザインは通底しているとも考えられる。このような背景からバーチャルボーイは「時代を先取りしすぎた名機」ともされている。
発売された主なタイトルは、『マリオズテニス』や『マリオクラッシュ』『バーチャルボーイワリオランド アワゾンの秘宝』など。不振から全期間を通じて19タイトルが展開されるにとどまった。
『バーチャルボーイ Nintendo Classics』は、2026年2月17日に配信予定。実機で発売された全19タイトルのうち、上述の3作を含む15タイトルに対応する。プレイには「Nintendo Switch Online + 追加パック」への加入のほか、専用ハードの「バーチャルボーイ for Nintendo Switch 2/Nintendo Switch」が必要となる。同機には、元祖バーチャルボーイのデザインを忠実に再現したフルモデル(税込9,980円)と、紙製の簡易タイプであるペーパーモデル(税込2,980円)の2種類が用意されており、現在、マイニンテンドーストアでは、Nintendo Switch Onlineの加入者限定で予約を受け付けている。
単体での商品化ではなく、オンラインサービスの一部として提供される理由とは
先にも述べたとおり、商業的には振るわず、歴史に埋没することとなってしまった往年のゲーム機・バーチャルボーイ。しかしながら、そこに含まれるコンセプトやデザインには、任天堂らしい遊び心が多分に含まれており、昨今ではレトロスペクティブなムーブメントのひとつとして、同機が話題に上げられる例も増えていた。おそらく配信開始直後には、コアなフリークたちに広くプレイされることになるのだろう。
これまでNintendo Switch Onlineでは、ファミリーコンピュータやスーパーファミコン、ゲームボーイ、NINTENDO64など、さまざまな任天堂ハードとその対応ソフトが『Nintendo Classics』として提供されてきたが、配信タイトルはサービスの開始から徐々に増えていくのが一般的だった。その点に関して、『バーチャルボーイ Nintendo Classics』では、15タイトルを順次配信することがすでに予告されている。このことも同機の復刻をめぐる熱狂には追い風として強く作用していくのかもしれない。
仮に主要な数タイトルしか提供されない状況となるならば、そのために別売りの専用ハードを購入しなければならないことは、フリークにとって決して小さくないハードルとなっただろう。「2,980円の投資で15タイトルを自由に遊べる」。この点には、支持獲得に向けての任天堂の工夫もうかがえる。
反面、支持の拡大に向けては、課題がないわけではない。そのひとつが体験が個人に限られている点だ。昨今のゲームカルチャーでは、対人や協力といったマルチプレイ、ストリーマーによる実況・配信コンテンツなど、体験を共有できる仕組みがトレンド化の要因となっているケースも少なくない。しかし、『バーチャルボーイ Nintendo Classics』は専用のハードを必要とする性質上、基本的にはシングルプレイであり、かつ遊んでいる実際の3D映像をコンテンツ化することもできない。そのため、同サービスが話題性と同等、またはそれ以上の面白さを内包していたとしても、良い意味で評判が独り歩きし、加速度的に認知や支持が広がっていくことを見込みにくいのである。
つまるところ、バーチャルボーイ復刻に関する盛り上がりは、現時点がピークとなる可能性がある。このような弱点を織り込み済みだからこそ、任天堂は専用ハードを必要とするコンテンツであったとしても、単体で商品化するのではなく、自社オンラインサービス内のひとつのラインアップとして提供する形を選んだのかもしれない。
このことは、おなじく同社が展開した「ニンテンドークラシックミニ」シリーズ(現在は生産終了)との違いとも言い換えられる。Nintendo Switch Onlineを通じてのバーチャルボーイの復刻は、任天堂によるオンラインサービス拡充路線の一端と見ることができる一方で、そこに含まれる体験の特性を踏まえたうえでの判断であったという面もある。
はたして『バーチャルボーイ Nintendo Classics』は、発表時点の話題性を超えるインパクトをゲーム市場、ゲームカルチャーに残せるだろうか。リリース後の動向を注視したい。