連載:クリエイティブの方舟(第5回)
「自信がないから作戦を立てる」 水溜りボンド・カンタとワイテルズ・Nakamuが明かす“クリエイター 兼 経営者”としての苦悩
同性の友だちで長年YouTubeをやり続けることの“難しさ”
ーーワイテルズがデビューした2016年は、すでに水溜りボンドは活動をしていましたが、Nakamuさんは水溜りボンドの活動をどう見ていましたか?
Nakamu:僕らがYouTubeを始めたタイミングは黎明期を過ぎたぐらいで、ゲーム実況でいうと、ちょうどニコニコからYouTubeに切り替わりはじめたぐらいの時期でした。活動をはじめた当時僕は高校2年生で、都市伝説とかが好きだったんで、水溜りボンドのことは知っていました。会議室みたいなところでキュウリにトランプを投げているころから見ていたので、面白い人たちだなと思っていて。YouTubeクリエイターとゲーム実況者はまた違いますけど、僕らはこうなっていける世代にいるんだと、背中を見させてもらっていましたね。
カンタ:Nakamuくんは『M-1』のステッカーをスマホに貼ったりするくらいお笑いが大好きだから、お笑い好きのよくないところが出ているなという(笑)。僕もお笑い好きで、お笑いサークルに入っていたYouTubeクリエイターとなると、悩むところも一緒だし、いまは会社もやっているし、ここから先どういうことになっていくんだろうと、すごくワクワクしています。
ーーカンタさんはゲーム実況とはカテゴリ的に離れているところにいますが、ゲーム実況者はどのように見えていますか?
カンタ:それこそポッキーさんとかと話していてもそうだし、今回ワイテルズのみんなと触れ合ってみて、「同じだな」と思いました。関係性を見せていくし、日々更新していくし、リアルタイム感があるじゃないですか。だから変な話、勝手に「フィッシャーズ」みたいだなと思って。メンバーそれぞれの特色があって成り立っていて、やっていることは実は近かったりするのかなと。
ーー関係性を見せるための媒介としてゲームがあるということですね。グループのなかでいろんな関係性があるという話がありましたが、ワイテルズも同じだというのがわかったのは、昔から一緒にやってきたフィッシャーズや東海オンエアなどの大人数グループと接してきた経験があるからでしょうか。
カンタ:だと思うし、Arksのメンバーも大学時代からの友だちで、グループ的な要素もあったりするので、彼らから学ぶところは多いんで。奇跡的な集団ですよね、改めて思うと。6人の男が7、8年一緒にいるというだけで、レア度は高いと思います。
ーーフィッシャーズと聞いてどうですか?
Nakamu:遠からずですけど、本当に意識はしていなくて。幼馴染というか、ある程度成熟する前の思春期あたりを一緒に過ごした人たちというのは、インフルエンサーじゃなくても、4、5人だろうが6人だろうが、どこの幼馴染もみんな同じ空気なんだろうなと。見ている人のなかでそこが日常の延長線上にあるから、画面の向こう側であっても共感できるのかなと思いますね。
カンタ:そう考えると、6人でゲーム実況やる方が難しそう。生身の人間で出ている方が、ニュアンスもちゃんと伝わりやすいし、表情があるし。
Nakamu:それ、すごく苦労しました。僕がとくにツッコミ役かつ言葉選びがちょっと強めで、感情が声に出やすいタイプなので、表情が見えないと6人のなかでは何事もなく終わっていることが、見ている人からすると言葉がすごく強く聞こえたり。トークがベースゆえに、自分の見せ方がわかんなくなった時期もありましたね。
カンタ:僕たちは顔が見えるからこその悩みはあるけど、根本的にはやっていること自体の骨組みは同じなので、共鳴し合える部分が多いのかなと思います。
ーーお2人には会社経営者という共通点もありますね。プレイヤーと経営者には違う難しさがあると思いますが、Nakamuさんは難しさを感じていることはありますか?
カンタ:ワイテルズが一旦区切りがついてさ、いまはどうするかというタイミングでしょ?
Nakamu:いままではプレイヤーとして自分の成長に目を向けないといけなかったのが、いまはスタッフの成長に目を向ける時期に入ったと思っていて。それこそプレイヤーのときは全員のケツを叩いている感じだったのが、いまは僕が旗を振って、後ろからみんながついてきてくれるので、道の伝え方は変えていかないといけないなと思います。
カンタ:すごく面白い。普通、人生でどっちも経験できないじゃん。こんなにいろいろ経験ができて、むしろ変化していかないといけない仕事でもあるから、同じことを言っていたらダメで。もう1回、ゼロからやっているみたいな。
Nakamu:間違いないですね。会社を作ったのもワイテルズのイメージを一回外して、自分がやりたいことをもう少しフリーダムにやりたいとか、そういう看板がなくても評価されるような人間になりたいという気持ちがあったので、そこもチャレンジですね。自分でも成功の道筋はまったくもって立っていないですけど、なんか面白そうだし、一度しかない人生だから、やりたいことやってみようというスタンスです。
YouTubeから社会という海へ出た2人の現在地
ーーNakamuさんが会社を作られたのが今年の4月ということで、経営者としてもカンタさんの方がちょっと先輩ですよね。
カンタ:やめてください(笑)。みんなついてきてくれていますけど、水溜りボンドというものや過去に自分がやってきたものの影響下から出ていこうとして、こういうDVDのお仕事をさせてもらうときというのは、まったく違うコミュニケーションになるんですよ。納期もいままでは「遅れてすみません」みたいな感じでいけていたことが、仕事がちゃんとできるところをみせないと許してもらえないというか。本当の実力はやっぱりそういうところなんですよね。同じフィールドなんだけど、まったく違うゲームをやり始めたみたいな感じです。
Nakamu:耳が痛いですね(笑)。僕はカンタさんとはこのお仕事しかご一緒していないので、カンタさんはそういうのがスタンダードでできる人だと思っていたんですよ。カンタさんも頑張っているんだと感じたからこそ、できないことを言い訳にしちゃいけないなと思って。いまの話を聞いて、僕も頑張らないといけないという気持ちになりました。
カンタ:俺もさ、ものづくりをするとなったら時間なんて気にしたくないよ。経費周りとか、お金の数字みるのも嫌いだし。でも出役としてだったらいつもタクシーに乗っていくところを、自分で車を運転して行ったり、電車に乗って移動しようとか。そういうスタンダードがわかっていなきゃいけないし、いまそれに苦しめられていて。だから自分もちゃんとアップデートして、あのころは大丈夫だったことが実はいま、大丈夫じゃないかもしれないと、日々考えてやっていますね。
Nakamu:「わかるー」と思って聞いてました(笑)。
カンタ:社会人になったことがないので、みんなで社会人になろうとしているときに、自分が理解していないと言えないから。これはちょっと難しいですね。
Nakamu:ファンが相手じゃなくなるというのが、社会人ということだと思うんですよ。多少ガタツキがあるところが愛嬌だった部分が、僕らがちゃんとしたものを出していかないといけないし、より襟を正さないといけない。もっと判定がシビアになっていっている感覚ですよね。全然違う海に飛び込んでいる感覚があるので、水の温度に慣れながら泳ぎ方ももう1回模索したい。とりあえずジタバタする夏なんだろうなと思っています。
ーー学びの1年になりそうですね。ワイテルズは現在無期限活動休止中ですが、Nakamuさんのこれからの活動を教えていただけますか?
Nakamu:自分が出力できるものの幅をとにかく広げようと思っていて。ずっと絵本を作りたいと思っていたので、いまは絵本のお話を書いたり、油絵を描いたり、漫画の原作やラジオをやらせていただいたり。舞台もやろうと思っているので、その脚本も書いています。
僕がいち個人のクリエイターとしてやっていけるところを見せるのが、ここまで僕についてきてくれているスタッフを支える土台になってくると思うので、仲良くさせてもらっている企業やワイテルズ時代にお世話になったイベンターの方々に向けた提案書を作ったりもしています。
ーー映像だけにこだわらないということですね。
Nakamu:僕はあまり媒体にこだわりがないので、自分が面白いと思ったものをどの媒体で出すのが一番いいかを考えています。アクション漫画にしたら面白いと思ったら漫画にしてみたり、より彩色豊かに、子どもでもわかりやすいような言葉で伝えていくことが大事だと思ったら絵本にしてみるとか。どこに出せば一番いいのかを模索しながらやっていくというのが、うちの会社の方針です。
カンタ:ヒット作をつくりたいみたいなのはあるの?
Nakamu:30歳までに代表作をひとつ作りたいという、でっかい夢はありますね。世の中の人に、「僕が作った」と胸を張って言えるようなものを出す。そのためにいろいろやっている感じですね。