思い出は生成する時代に? 「Sora Selects:Tokyo」から考える、“人の記憶と生成AIの共通点”
ヒトは記憶の断片を頼りに、思い出を“生成”する
シンガポールのAIアーティスト・Niceaunties氏は、魚市場で働いていた自身の祖母をモデルにした『Goddes』を制作。祖母のことを一つひとつ思い出すように、語りと生成された映像が連なっていく。同氏は祖母の写真や映像が残っていなかったことから、記憶を頼りに祖母が使っていたタオルやタイルの色など、“あの頃の家”を再現していったという。イベントでは、「プロンプトを打っているときずっと泣いていましたし、今でも作品を見返すと泣いてしまいます」と漏らした。
映画監督、脚本家、俳優のReze Sixo Safai氏による『Pixelescape』は、少年時代の自分をイメージした作品。1980年代、家族と共にイランからアメリカに逃れたReze氏は、当時心の拠り所にしていたゲーム機『インテレビジョン』の8bitのピクセルの世界を世界観のベースに、ノスタルジーやユーモアを交えながら少年時代を回想していく。Reze氏もNiceaunties氏と同じように「そんなつもりで作った動画ではなかったが、母と一緒に観賞したら2人して泣いてしまった」と明かした。
人の記憶と生成AIの共通点
人の脳は記憶を“思い出している”のではなく、都度“再構築”している、と言われている。ゆえに記憶は簡単に捏造されるし、書き換わっていく。記憶を元に自身の思い出をAIで“生成”するプロセスは、人の“思い出す”工程そのものを再現しているかのようでもある。
個人的に最も興味をひかれたのはNiceaunties氏とReze Sixo Safai氏の作品だ。2人が自身の作品で泣いてしまったという事実も、偶然ではあるものの共通点を見出したくなるエピソードだ。たとえば、家族や友人同士、昔の写真を見返したりするようにして、ことばを手繰って映像を生成してみる、なんてことを試みるのも良いかもしれない。
また今回の作品群においては、音楽活動と動画生成の関係も非常に興味深いものだった。音楽の生成はまた別の文脈にあるとして、バンド活動やアーティスト活動という枠組み自体が、今後生成AIの力を借りてさらに拡張していく可能性を感じた。