現役高校生の青春を届ける「あの日の放課後」 ストリートから学校公認へーーコンテンツが成立したワケ
リアルとアンリアルを行き来する
神田:その出会いを経て、アイデアの種みたいなものだけを感じて東京に帰ってきたんですけど、「あの子たちはいつか卒業しちゃうからな」と思っていて。そしたら、ある日家の前を中学生の男子たち5人組くらいが歩いていたんです。バレンタインのチョコを掲げて「こいつチョコもらったらしいです! うぉー!」って盛り上がっていました(笑)。
そのときたまたま仕事の関係で撮影機材も手元に揃っていて。いま思えば本当に怪しかったと思うんですけど、呼び止めて「どうしたどうした?」って聞いてみたんです。そしたら「いまチョコもらったんすよ! 本命!」って教えてくれて。それで僕から「いまのもう1回やろうぜ!」って提案して、マイクをつけてその様子を後ろから撮影したんです。
ーーなるほど。そこから後ろ姿を撮影するスタイルが確立されていったんですね。
神田:後ろからの方が自然に撮影できるし、決まったフォーマットがあればそのスタイルが「あの日の放課後」のアイコン的な感じになるかなと思って。それから、1年ほど学生たちを撮影し続けました。徐々にチャンネルを知ってくれる人も増えていって、先生向けの授業や、学校の広報の授業依頼も来るようになったんです。
ーー現在は学生の後ろ姿以外にも、校内で撮影をした動画も多いですよね。
神田:以前、受験の合否の様子を撮らせてくれるところがないか募集したんです。そしたら沖縄の興南高校から、「沖縄でもありですか」と連絡が来たんです。そこで興南高校の学生たちと出会いました。
その出会いはかなり大きかったですね。いまは10校以上で撮影をさせてもらっているのですが、そこで初めて校内で撮影することができたんです。それまではずっと学校外で撮影をしていたので、まさか校内で撮影させていただけるとは思っていなくて。興南高校の先生と学生には、本当に感謝してもしきれないです。チャンネルで1番再生されている「自習で大騒ぎしたら担任にバレた」という動画も、興南高校の学生と一緒に撮りました(笑)。
ーー先生が陰でずっと見ているのがシュールですよね(笑)。
神田:あのくだりはみんな1年以上前からやってたみたいで、掛け声とか踊るスペース開けたりするのも何度もやっているから、もう阿吽の呼吸なんです(笑)。クラス替えもないから、3年間ずっと一緒で……。しかも撮影したのが卒業式の前日なんです。一見面白い動画に見えるんですが、彼らの積み上げてきた3年間があそこには映っているんですよね。
ーー改めて、そんな瞬間を自然に撮影できている神田さんもすごいなと感じます。
神田:僕はカメラマンというか、その場に“友達”として一緒にいる、みたいな感じなんです。「あの日の放課後」が一般的な卒業アルバムの写真や映像とまた違う雰囲気があるのは、その距離感なのかなと思います。
ーーなるほど。だから、あそこまでありのままの学生たちを捉えることができるんですね。
神田:うーん……。ありのままともちょっと違うんですよね。僕は「あの日の放課後」を撮影するときに、“リアルとアンリアルを行き来する”ことを大切にしていて。たとえば、バレンタインのチョコをもらうくだりって、日本のどこかで行われているやりとりじゃないですか。でもそこにカメラがあることってないですよね。出演してくれている学生たちも演者ではない、でもマイクがあるから音声は綺麗に録れている。
しかも自習で騒いだりとかバレンタインって、日常ではあるんですけど、毎日起きている光景ではないですよね。きっと本当にリアルな昼休みを撮ったら、携帯をいじってるだけの映像になってしまう。自然すぎても視聴者の方には刺さらないし、メディアとしての正解とはまた違うのかなと。ちょっとした矛盾というか、“本当だけど本当じゃない”ラインを意識しています。