テクノロジーは人間の選択肢を広げ、メタバースは社会のあり方を変えるーー安野貴博×バーチャル美少女ねむ対談

ねむ:VRゴーグルは、物理的には視聴覚の情報しか再現していないわけですよ。だけど本当に自分の身体と思えるレベルまで使い込むと、アバターの身体に触れられた時にザワっとするような、本来感じるはずのない視聴覚以外の情報を感じる現象を「ファントムセンス(VR感覚)」と呼んでいます。

安野:VRを始めてからどれくらいで感じるようになるものなんですか?

ねむ:私が調査した触覚についてのデータによると、だいたい500時間プレイすると、半数近くの人が「触覚を感じるようになった」と回答しています。

安野:「メタバース進化論」には、催眠術のようなものを用いてファントムセンスを覚醒させる人もいると書かれていましたね。

ねむ:私みたいに勝手に覚醒するタイプの人もいれば、なかなか感じない人もいるので、催眠療法を受けたりトレーニングをして感覚を得やすくすることで、より臨場感を持ってVR生活が楽しめるようになる場合もあるみたいですね。

安野:VRを初めて体験したときに、ハマる人とあまりハマらない人がいますよね。VRにも適性があるのでしょうか?

ねむ:そもそも何時間もVRゴーグルをかぶって生活できる人の方がレアケースだと思っています。何十年後には当たり前になると思いますけど、発展途上の今の段階で数百万人がすでにVRで生活を始めているというのは、むしろみんな頑張りすぎているぐらいです。私のイメージとしては、携帯で言うと今はショルダーホンの時代ですね。

安野:80年代の携帯ですね。

ねむ:VRゴーグルがメガネやコンタクトレンズぐらいになったら、普通の人も当たり前に使えるようになると思いますが、今はまだショルダーホンを頭にかぶってるようなアーリーアダプターの集まりです。モチベーションの高い人とも言えますね。ファントムセンスも含め、感覚をリアルに感じる才能は人ぞれぞれあるのかもしれません。

安野:今モチベーションが高いのは、どんな人たちなんですか?

ねむ:私のデータでは、まずは交流目的で来ている人たちです。人と遊んだり、旅行したり、イベントに参加したり。あとはものづくり系ですね。ワールドやアバターを作りたい人たちが多いです。一例をお見せすると、これは私が作った「ディビデュアル摩天楼」というワールドです。何もない白い空間に、クリエイターさんがみんなでワールドを作る過程を記録したMVを制作しました。2時間くらいでこんなものができてしまうんですよ。

安野:なるほど、おもしろい!

ねむ:時間も空間も超越して、物理法則もすべて指で書き換えて、どんな空間でも自由に作ることができます。神様に近づくような行為だから、クリエイターとしては夢の世界ですよね。

安野:そうしたクリエイターさんも含め、メタバース内でどうやって人と知り合うんですか?

ねむ:初心者向けの案内イベントがあるので、SNSでガイドツアーを探してみるといいですよ。慣れてきたら、より専門的なイベントに参加するとおもしろいです。私はボイスチェンジャーの技術交流会や音楽系のものに参加することが多いです。

安野:ボイスチェンジャーというと、今のねむさんの声は自声ではないということですよね。

ねむ:そうですね。私のマイクは機械につながっていて、リアルタイムでバーチャル美少女ねむの声に変換してくれます。今皆さんが聞いてる声が私の耳に戻ってくるようにしているので、私の中の人の本来の声は私自身にまったく聞こえていないんです。声を変えると全然違う自分になった感覚があって、私はボイスチェンジャーをつけることで人格が切り替わりますね。アバターより声の方が影響が大きいと思っています。私の場合はハードウェアで変換してるので、遅延もまったくないですね。音質を保ったままゼロ遅延で1オクターブ以上声を変えるというのは、実はすごく難しい技術なんですよ。声質変換の技術が成熟すると、本当の意味で「なりたい自分になれる」メタバースが完成すると思ってます。

メタバースはデータの宝庫 デジタルと人間がつながる世界の実現も

ねむ:安野さんが東京都のDXアドバイザーに就任した際、ブロードリスニングの話をしてましたよね。具体的にどういうことをやるんですか?

安野:まず視聴者向けにブロードリスニングの説明をすると、1人の声を多数に届けるブロードキャストの反対で、いろんな人のいろんな声を、1人の頭の中に入れることを指しています。実はこれって政治・公共的なものと相性がいいんですよ。政治は多様な人の多様な意見を聞くことが大事な役割の1つですからね。この技術をうまく使って、都民の皆さんの声を集めることができればすごく有意義なので、提案させていただきました。

ねむ:実は私もまったく同じ悩みを抱えています。メタバースの世界では現実世界ではできないようなことが行われているので、人類にとって価値があると思うんですが、とにかく可視化されていなくて。住人たちはそれぞれの空間に閉じこもっていますし、コミュニティが細分化されているので、全体として住人が何をしているか詳しく分からないんですよね。

安野:リアルタイムでいろんなコミュニティでいろんなコミュニケーションが発生していて、全体像が見えづらいですね。

ねむ:メタバースを活用するにしても、まずは実態を捉える必要があるので、私はアンケートタイプの定量調査をしていますが、定量調査は仮説が立てられることしか検証できないという欠点があるんです。もっと深く実態を探るために、先日自由に文章を書いてもらうタイプの定性調査をしたところ、1000件もの回答が来たので人力ですべて読んでまとめたんですが、これがものすごく大変で。AI技術を使って、メタバース版のブロードリスニングができたらいいなと思いました。

安野:実はメタバースとはかなり相性がいいと思っています。メタバース内では人間の行動や音声がすべてデータ化されていますから。このデータをうまく解析し続けてくれる仕組みをつくれば、全自動で今何が熱くて何が起きているのか、文字情報以外の盛り上がりも可視化できるはずです。

ねむ:めちゃくちゃアツいですね。今のデジタル技術がデジタル化できていない人間の情緒的な部分、表情や顔の動き、感情なんかも全部データ化できるので、これを言葉にする技術があれば、初めてデジタルと人間がエモーショナルにつながる世界を作ることができますね。このデータが揃ったとして、安野さんはどう活用したいですか?

安野:人間がどんなコミュニケーションをしていて、その人たちの関係性は長期的にどうなっていくのか、どんな気持ちになっているのかなどにまつわる濃いデータから得られた知見は、いろんなところに応用できそうです。

ねむ:その時に何を考えていて、その結果どういう行動をとったかをひも付けるデータをメタバースの中で取れれば、それを現実世界に反映させて、より精度の高い予測ができそうですね。

安野:当然、プライバシーの問題など考慮すべき点はありますが、ここでしか取れない人間のコミュニケーションのデータがあるでしょうし、適切な形での活用方法は考えられるのではないかと思います。

ねむ:しかもそれは文字情報だけではなくて感情も揃ったデータなので、AIで解析すれば、人間の本質が抽出されるかもしれないですね。

安野:もう1つあげると、メタバース空間はAIの育成にも応用できると思います。AIが人間と同じレベルでコミュニケーションをするためには、ジェスチャーも含め、いわば“人間らしい”動きが必要です。育成中のAIにメタバース上のアバターを与えて、人間と同じようなコミュニケーションを取らせることで、さらなる能力向上が見込めそうです。

メタバースは、人間が作ってきた社会のあり方を書き変えてしまうかもしれない

安野:バーチャル美少女ねむになってから8年ほど経って、精神構造はどう変わりましたか?

ねむ:初めてバーチャル美少女ねむになった時、自分の中のキャラクターが勝手にしゃべり始める感覚で、怖かったというか、終わったあとにめちゃくちゃ汗をかいたんですよ。現実世界だと見た目によって規定される自分像がありますが、そこから切り離されて1つ違う次元に移動したような感じで、ものすごい恐怖と興奮がありました。

安野:次第に慣れていったんですか?

ねむ:だいぶ早い段階で慣れました。安野さんもスーツを着ている時とパジャマを着ている時とでキャラが違うとかあると思うんですが、この振り幅が大きくなった感じです。これからのメタバース時代では、分人の幅が広くて、多重人格までいかなくともまったく違う自分がどんどん出てきて、才能を掘り出していくことになるでしょうね。メタバースは実は自分の周りに広がる外的な世界だけではなくて、実は自分の心の中に潜っていくような内的な世界でもあると私は思っています。出力の形が変わると、自分の人格自体も影響を受けて変化しますね。

安野:めちゃくちゃ影響を受けますよね。みんなが一度はVRChatやディープフェイクを経験するといいのでは、と思っているんですよ。いかに自分の身体に思考が規定されているかを知ることができるから。

ねむ:その際に声やアバターだけでなく、私みたいに名前も含めて丸ごと変えると、宇宙にポンと新しい自分が生み出されたような感覚になると思います。例えば現実の私はここまで人前で喋るようなことはしていなかったんですが、自分の魂に別次元から光を当てることで、意外とこういうことができるんだ、と気がつきました。今まで使い切れてなかった脳みその部分を使って、もっといろんなことができるようになるんだと思います。

安野:ねむさんは2つの人格を切り分けて活動されていますが、リアルの知り合いの方とメタバース上で交流することもあるんですか?

ねむ:私は完全に分断していて、ねむとしての知り合いとはリアルで会わないようにしていますし、逆もまた然りです。単純にバレるとめんどくさいのもありますが、メタバース上では美少女としてオリソンを出したりもしていますし、リアルな知人に知られている状態と、そうでない状態ではできることの幅が大きく変わると思うんです。私の活動目的は、アバターの力が人格にどう影響を及ぼして、これからどうなっていくのかを、自分の体で人体実験することです。私の精神にどんな影響を与えて、何が起こるかが興味のポイントなんです。そのためにはなんの制約もなくフルパワーでねむとして活動できた方が絶対におもしろいので、切り離しています。

安野:バーチャル美少女ねむと、現実の身体、完全に切り分けている2つの人格は、相互に影響し合っていますか?

ねむ:当たり前ですが、ノウハウは共有されますよね。ねむとして得た知識は、現実の人間にもフィードバックされます。性格については、私の場合は切り分けていることによってむしろそれぞれの人格の役割がはっきりする側面があって、現実では逆にねむのような美少女っぽい動きやかわいらしい動きをしなくなりました。“魂のデザイン”というか、人格と脳を切り分けた方がいいのか、そうではないのかも試行錯誤の段階で、いろんな形があると思います。

安野:ねむさんははっきり分ける派ですが、分けない魂のデザインをしている人の話も聞いてみたいですね。コミュニティもごちゃ混ぜで、お互いに影響し合っているけど、それはそれで心地いいのかな。

ねむ:魂のデザインはすごく大事で、要は人間をデザインすることですから、最終的に社会をデザインすることにつながっていくと思います。人間をどうデザインし、社会をどう変化させていくかという視点で、これからのメタバース研究を進めていきたいです。

 極端な例ですが、私の調査データの中でもおもしろいのが、恋愛に関するデータです。カップルは社会の最小単位で、これが広がって大きくなったものが社会だと考えると、愛が発生する課程は、一種の社会のプロトコルだと思っています。メタバースは出会い系ではないものの、約40%の人が恋愛をしたことがあって、現実の恋愛の形とは違う部分があるんです。「恋をするときに相手の中の人の性別は重要ですか」という質問に、約70%の人が「あまり重要ではない」と答えているんですよ。現実世界の常識で考えると衝撃的なデータですよね。メタバース上では、本人がこうありたいとする性別の姿に見えているので、現実の性別とは関係ない、人間関係というか、愛のあり方が生まれるんです。また「恋愛するときに相手に惹かれるきっかけは?」という質問に、現実世界では「相手の見た目」と答える人が多いんですが、メタバースだと見た目はアバターでいかようにも変えられてしまうので、「相手の性格」と答える人が圧倒的に多いんです。いきなり性格にフォーカスできるって、実はすごいことですよね。

(参考:ソーシャルVRライフスタイル調査2023 (Nem x Mila, 2023)

 少し雑なまとめになってしまいますが、物理現実世界では恋愛感情は異性に対して抱く人が多数派とされている現状がありますが、メタバース空間では、相手の性別に関係なく恋愛するということがもっと起きうるかもしれない。なおかつ現実では本能的に見た目の影響を受けやすいですが、その本能のロックを外せるかもしれないことを、このデータは示唆していると思っています。そうなれば、有史以来400万年、人間が作ってきたこの社会のあり方を書き変えてしまうことさえも可能かもしれません。現実では起こり得ない社会の形が生まれる可能性があるのが、メタバースのおもしろいところだと思っています。

安野:外見も声も変えられるとなると、しゃべっている内容や動きでしか同一性を判断できないわけですよね。アバターに一貫性がなく、ガラッと見た目を変えてしまう人たちの場合、仮に中の人が入れ替わっても、誰も気づけないんじゃないでしょうか?

ねむ:遊びで私のアバターを他の人にかぶせてみることがありますが、一発で違う人だとわかりますよ。しゃべらなくても動いた瞬間にわかります。意識していないだけで、人間は話しの内容以外にも、いろんな情報を身体から発信してるんですよ。メタバースの中で見た目の情報が変わっても、意外と気がつくものです。

安野:しゃべったら分かるのは予想がつきますが、動いた瞬間に分かるとなると、人間は動きの情報を過小評価しすぎているかもしれませんね。

ねむ:私もそう思います。本人認証にも使えるんじゃないかな。身体の動きを真似するのはめちゃくちゃ難しいですから。

安野:指紋とか声紋よりも、実は動きの方が正確かもしれないですね。

ねむ:そうそう。動きには人の魂が入っていると思います。現実世界では身体と動きを切り離すことができないから、みんな気づいていないんですよ。現実世界で見過ごされていた人間の能力が、メタバースで引き出されることは今後もたくさんあるでしょうね。

「メタバースを全人類へ」 バーチャル美少女ねむが抱く野望

ねむ:今日1番聞きたかったことなんですが、安野さんは技術を用いて、どんな社会を作りたいですか?

安野:メタバースに関する話で言うと、肉体を完全に操作可能にできるといいですよね。外見、年齢、性別をシュッと変えたり、戻したりできたらいいな。人種や性別、身体特性によって、生まれた瞬間に可能性や選択肢が制約されない社会の方がいいですもんね。その実現に向けて、社会制度だけを整えても達成できないと思うんです。

ねむ:年齢や性別、見た目での差別が起こるのは、選べないことも一因だと思うので、選べるようになると、不当なことが起こらなくなり平等に近づきますね。

安野:テクノロジーは人間の選択肢を広げる性質を持っていると思っていて、たとえば視力が悪い人も、メガネをかければ普通に生活を送ることができるじゃないですか。これはメガネによって広がった選択肢ですよね。テクノロジーをうまく育てて活用していくことで、選択肢を広げまくることができると思っています。

ねむ:なるほど。安野さんみたいな何でもできちゃう人が、政治や国と連携して動いているのって、私にとっては不思議だったんです。民主主義は正直非効率ですし、安野さんは勝手に自分で作った方が早い側の人じゃないですか。政治に関わることには苦労も多いでしょうし、安野たかひろのパッションの本質を知りたくて、さっきの質問をしました。

安野:テクノロジーをどう使うかはかなり重要な話ですが、誰も言及していないですよね。そもそも政治的な議題であると認識すらされてない状況です。技術が社会に与える影響はものすごく大きいのに。これを議論するようになる人が1人でも増えるように、自分のできることをやっていきたいです。ねむさんは今後どんなことがしたいですか?

ねむ:私はバーチャルの世界に入って、未来の人間の生き方がここにあると感じたので、難しいことをしなくても、事実をシンプルに言語化・定量化して世の中に伝えてあげるだけで、人類の進化をあっさりと促せると思っているんですよ。

 少しさかのぼってVTuberのブームの時、「VTuberは企業だけじゃなく、普通の人にできることだ」と発信し続けたんです。普通の人が当たり前に、違う自分として活動していいんだよと。今ではメタバースの世界が広がり、そういった生き方が当たり前になろうとしていて、VTuberブームの頃は数人しかいなかったのに、今では数百万人にまで広がっています。私の次のミッションは、これを全人類に拡大することですね。

 具体的な活動としては、「メタバース進化論」の英語化です。一部人力で英語化したものを世界中の出版社に送りましたが、正式に英語版を出版して世界中で大ヒットさせ、ノーベル文学賞か平和賞のどちらかを取って、授賞式の時に「人類皆アバターで生きていく宣言」をして、一気にシンギュラリティを起こす予定です。

脳波入力で没入できるメタバース空間は実現するのか

安野:最後に、視聴者の方からの質問に答えていきましょう。「メタバース空間で読める本はどうやって作られたんですか?」と来ていますが、いかがでしょうか?

ねむ:これは技術のあるメタバース住人が15分くらいで作ってくれました。ページをめくるギミックなんかも全部その場で。この話のポイントは、どういう技術が使われたのか私がまったく理解していないところなんですよ。同じ仮想空間に集まって、私がこういうものが作りたいとフィードバックをすると、みんなが作ってくれるといった共創ができてしまうんですよね。メタバースだと、できる人に作ってもらうことができるので、技術に詳しくない人でもやりたいことが実現できるのがおもしろいところです。

安野:3Dのインターフェースをみんなが直感的に使えるのも、VR空間の良さですね。特にデータを解析するときに思うんですが、ディスプレイだとどう頑張っても2次元のグラフしか書けないじゃないですか。VR空間だったら、3次元グラフをくるくる回しながら、みんなで囲んでディスカッションができそうだと思いました。

ねむ:安野さん、こっちに住んだ方がいいんじゃないですか。物理世界の住人でいるには、思考が未来すぎると思いますよ。こっちの生活に慣れると現実世界はマジで不便で仕方ないです。大声では言えないですけど、電車に乗って移動するなんて馬鹿らしいですもん。ここに住んでると、みんな瞬間移動できますから。もうちょっとVRゴーグルが小さくなって、簡単に誰でも入れるようになったら、みんなこっちに移住してくると思いますよ。

安野:たしかにね(笑)そしたら移住しようかなぁ。では次の質問にいきましょう。「現在のメタバースは視覚聴入力ですが、将来的には脳波入力で没入できるメタバースが誕生すると思いますか?」。

ねむ:思考による操作の実用化で今1番進んでるのは、イーロン・マスクが行っているニューラリンク(Neuralink)ですね。頭の中に電極を入れるんです。ただ世界観に没入するには、出入力の両方が必要なんですが、私の知る限り現在イーロン・マスクがやっているのは出力側なんですね。考えていることを映像化したり、文字化したりするのは形になりつつあるみたいです。でも逆に書き込みをするのは難しいようで、私が生きてるうちに一般化することはないんじゃないかな。

安野:東大の渡邉正峰先生が提唱しているブレイン・マシン・インターフェースの話がおもしろいですよ。やはり脳に書き込みをするのはすごく難しくて、電極を脳の奥に挿して刺激をしたとしても、特定の1つのニューロン(脳細胞)だけを刺激することはできないんですよね。その周りのニューロンにも影響を与えてしまうから。ただその中でも、右脳と左脳の交信を司る脳梁(のうりょう)という部分には可能性があると言われているんです。ここを切って隙間をあけてセンサーを埋め込むと、個別のニューロンに対してアクセスできるようになるのではないかと。受信も発信もこの連絡線で制御できるので、いろんなことができると渡邉先生は考えているようです。

ねむ:おもしろいですね。ちょっと勇気がいりますけどね。脳の表面に電極を貼り付けるのとは違う次元の怖さがあります。

安野:リスクはめちゃめちゃあるので、簡単にはできないですけど。実は右脳と左脳は微妙に違う思考を持っていて、2つの連絡線がうまく機能していれば1つの意識として稼働しますが、それが切れると左右で少し違う意識が生まれるらしいです。事故でそういう症状になった人も、ブレイン・マシン・インターフェースでうまくつなげることができれば、改善できるかもしれないという議論があります。

ねむ:人間の脳みそには可塑性があるというのが最近の論調ですよね。いやーまだまだ話し足りないですね。めちゃくちゃ楽しかったです。アプローチは違いますが、安野さんと私は、人間を進化させるという意味で、目指してる方向は同じだと思いました。

「メタバースで生きていく」世界はすぐそこに? バーチャル美少女ねむと紐解く、2年後の「メタバース進化論」(前編)

2022年3月19日、技術評論社より『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(以下、『メタバース…

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