GMOペパボが「新卒説明会」を『VRChat』にて開催 担当者たちに実施の経緯や狙いを聞いた

 GMOペパボは3月7日、「メタバース新卒説明会」を『VRChat』にて開催した。当日は、学校の体育館をモチーフとして作られた「ペパボのワールド」内に、新卒者と思われる多数の来場者が思い思いの3Dアバターで足を運び、企業概要の説明や、現役社員同士のトークステージを清聴した。

 “新卒者と思われる”と記述したのは、今回の説明会が“自称新卒者”も参加可能としていたからだ。来場者はワールド内のギミックとして用意されているタグマーカーから自身のステータスを任意に選択でき、「新卒」「エンジニア志望」などのなかには、きっちり「“自称”新卒」の項目も用意されていた。

 そうした懐の深さという観点では、そもそも『VRChat』を介している以上、参加者は素顔をさらす必要がなければ、物理的な移動も必要とされず、誰もが自宅からパジャマ姿での参加も可能という未曾有の参加ハードルの低さがあったと言える。

 開始時刻を21時からとしたのも、「『VRChat』を使ってやるからには『VRChat』における“ゴールデンタイム”に合わせるべき」との判断があったからだという。

 よって、強いて挙げられる唯一の参加条件は“自前でVR環境を用意できていること”のみだったわけだが、これも普段から『VRChat』を利用している、あるいは強い興味・関心を持っている学生であればないに等しい障壁だったことだろう。実際、会場には予定していた定員の倍以上の参加者が集まっていた。

 一方、会の内容自体は誰もがイメージするような、純然たる“新卒説明会”のフォーマットに沿って、滞りなく執り行われることとなった。入社志望者が欲するであろう情報も過不足なく詰め込まれていたので、参加者目線での満足度も高かっただろう。

 そのぶん、説明会終了後のフリータイムはこれぞメタバースの醍醐味とも言うべき様相に。参加者みずから、会に登壇した“あんちぽ”ことCTOの栗林健太郎氏や若手社員に話しかけにいったり、参加者どうしで集まってコミュニケーションを交わしたりと、盛り上がりは閉会後も2時間以上にわたって続いたそうだ。

 今回は、そんな「メタバース新卒説明会」を手掛けたパートナー(同社における社員の呼称)の方々にインタビューする機会をいただいたので、以下にお届けしよう。

メタバース推進室 室長 杉山寛氏

――「メタバース新卒説明会」を開催することになった経緯について教えてください。

杉山:我々は長年にわたり、インターネットで情報発信をする方や、個人のクリエイターの方のサポートを手掛けてきました。そこを発想の起点としたうえで、今回のイベントは新卒3年目のパートナー2名が中心となって推進してくれています。

 実は2年ほど前から、彼らが、「これからはメタバースの時代が到来するぞ」ということで弊社のメタバース関連の取り組みをずっと推し進めてくれていたことが、実現への最大のファクターだったと思います。

――実際に開催してみての感想や、今回の取り組みを通して発見できたことなどを教えてください。

杉山:やはり、これまで我々がタッチポイントを持てなかったような方々と多くのコミュニケーションを交わすことができたというだけでも、インプットとしてすごくおもしろかったです。

 我々もそうした方々と会話するなかで、これまでの我々のサービスにさらなるアップデートをかけられるのではないかと感じましたし、今後どんどん相乗効果が出てきそうな予感がしています。

――「次回開催するとしたらこういった内容にしたい」といった構想はありますか。

杉山:今回はまずこのワールド自体をどういった雰囲気にしようというところから話し合いを始めて、正直まだ場所を作っただけに留まっている感覚が我々にはあります。

 せっかく学校の体育館をイメージしてワールドを作ったところから、「この舞台を生かしたいろいろな遊びがもっとできるよね」ということは当然チーム内でも話していますし。体育館を起点にどんどん世界観を拡張していって、体験や学びなどにも紐づけていけると、このコミュニティがさらに広がっていくのかなと考えています。

――素顔も実年齢も明かす必要がないという状況下での開催でしたが、参加者たちの顔ぶれを実際に見ての感想をお聞かせください。

杉山:いわゆる古来のインターネットの雰囲気に近いものを感じましたね。昔のインターネット掲示板でも、お互いに素顔も性別もわからないなか、ハンドルネームだけで個人を識別してコミュニケーションをとっていたわけですから。

 言ってしまえばインターネット黎明期の雰囲気や、当時の盛り上がりのようなものを、よりリッチな体験として享受できるツールが『VRChat』なのではないかなという印象を持っています。

 現代では摂取できるコンテンツが多様化しているからこそ、各々が持っているカルチャーも多様化していると思うので、そこを年齢や立場を飛び越えてフラットに表現できる、コミュニケーションできるというのは素晴らしい体験だと思っています。

メタバース推進室 サブマネジャー 濱田璃空氏(イベント運営担当)

――今回の「メタバース新卒説明会」においては、企画から運営にいたるまでさまざまな業務を担当されたと伺いました。まず、会場作りにおいて注力したポイントについて教えてください。

濱田:変に小綺麗にしないと言いますか、とにかくカオスな空間にしたいという思いがありました。弊社が展開する「ロリポップ!レンタルサーバー」イメージキャラクターの「ロリポおじさん」も可能な限り巨大にして配置するなど、“企業の公式ワールド”とはとても思えないような雰囲気を目指すことで、“GMOペパボらしさ”を表現しています。

――企画から開催にいたるまでを振り返って、最も苦労した点について教えてください。

濱田:正直な感想としては、すべてが大変でした。弊社としても自分たちだけでVR上でイベントを開催するノウハウがなく、手探りの状態からのスタートとなり、どんな内容にしたら参加者のみなさんによろこんでもらえるか、といった部分から話し合いを進めていきました。

 やはり、メタバース領域において弊社は後発組なので、自分たちがこういった施策に取り組んでいることを認知していただくためにも、多くの『VRChat』ユーザーさんの意見も頂戴しながら、今日にいたるまで尽力してきました。

 そもそも社内の備品としてのVRデバイスも、もともとは2~3個しかなかったところから10台近く増台することになりましたし。企業としてひとつひとつセキュリティ管理も万全にする必要がありましたから、現場担当としてはかなり苦労しましたね。

――そうした苦労も、ひとえに参加者によろこんでもらいたいという強い思いがあったからこそ乗り越えることができたということでしょうか。

濱田:そうですね。過去の新卒説明会では役職者によるヘビメタバンドを登場させたり、ヒーローショーをやってみたりしたこともありますが、発想としては同じだと思っています。企業理念の「もっとおもしろくできる」の考えかたに基づいて、“GMOペパボ”らしい取り組みを今後も続けていきたいです。

HR統括部 部長 船橋恵氏(採用担当責任者)

――採用を担当されている目線から、入社を志望する方に求めたい人物像について教えてください。

船橋:はじめに弊社のメタバース推進室の沿革から説明させていただきますと、メタバース推進室はいきなり事業に直結するような動きを目指しているというよりは、まずメタバース領域での“事業の芽”を探すことや、カルチャーの推進を目的として立ち上げた経緯があります。

 そういった意味で私たちも手探りではあるのですが、メタバース領域やストリーミングのカルチャーに親しんでいる方々は、いわゆるアーリーアダプターであり、情報感度の高い人であるという印象を持っています。

 そこで私たちは、これからさらに成長が期待される領域に対して感度の高い方々と出会い、その取り組みをご一緒したいと考えています。今回のイベントは、そうした方々とコミュニケーションができる貴重な機会になるのではと、大きな期待を寄せていました。

 ゆえに、ご質問に対する回答としては、こうした弊社の取り組みを「おもしろいな」と感じていただける方や、実際に来場していただいたうえで「おもしろかった」と感じていただけた方がマッチするのかなと。そういった感性をお持ちの方に来ていただけたらうれしいですね。

――インターネットの黎明期や、テキストサイト文化・ブログ文化の黎明期を経験した世代の方が、社内で多く活躍されているとのお話が説明会のなかでありました。今後は、メタバース文化に親しんだ世代が会社を牽引していくような存在になってくれるのではと期待されている部分もあるのでしょうか。

船橋:はい。おっしゃるとおりです。

――素顔も実年齢も明かす必要がないという状況下での開催でしたが、採用担当の目線から懸念などを感じる点はありましたか。

船橋:今回は新卒説明会という形でしたが、今後は新卒者向けのオフラインイベントの開催も予定しています。せっかくであればそういったオフラインの場にも来ていただけたらうれしいですね。

 VR空間でのコミュニケーションも楽しめるし、対面でのコミュニケーションもおもしろいなと思っていただける方が、おそらくお互いにマッチングして、そこから選考にも進んでいただけるのかなと思っています。

――リモート形式での面接・面談スタイルと比較して、メタバースを活用することで得られるメリットはどういった点にあると感じられましたか。

船橋:リモート形式だと、どうしてもお互いが隔絶された空間から通話している感覚が拭いきれないと思いますので、メタバースならではの没入感は大きな魅力だと感じました。とくに情報をインプットするという目的においては、オフラインとも遜色ないほどに一点集中できる空間になっていると思いましたね。

 また、リモート形式だと誰かひとりがしゃべっているあいだ周囲の人は聞き手に回るという、暗黙の了解のようなものがあると思います。その点、『VRChat』ではより双方向的な会話を楽しむ文化が根づいているようにも感じたので、まさにオフラインでの会話とリモートの手軽さの良いとこ取りだなと思いました。

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