中島健人も没入する、浮世絵師・葛飾北斎の世界 イマーシブ展示『HOKUSAI: ANOTHER STORY in TOKYO』体験レポート

葛飾北斎の作品に没入体験する展示『HOKUSAI: ANOTHER STORY in TOKYO』(以下、『北斎アナザーストーリー』)が2月1日から6月1日まで東急プラザ渋谷 3Fにて開催中だ。
『北斎アナザーストーリー』は、江戸時代後期に活躍し今なお世界的な人気を誇る浮世絵師・葛飾北斎の作品を、現代の最新技術を通してこれまでに無い角度から“体感”するイマーシブ(没入型)アートエキシビションだ。
北斎は19歳で画家としてデビューしてから90歳で亡くなるまで、なんと約3万点にも及ぶ膨大な作品を残してきた。『冨嶽三十六景』といった風景錦絵(木版多色刷りの浮世絵版画)をはじめ、美人画、役者絵、読本の挿絵や自身の画法を広める絵手本『北斎漫画』など、あらゆるかたちで作品を発表した。
当時の浮世絵師は、一つの流派に従い描くのが普通だったが、北斎の興味は国内の様々な流派に及び、さらには洋の東西問わずあらゆる画法を研究。多彩、というにはあまりにも幅広い技術で描き続けた、まさに“画狂”だ。
最新技術の粋を集めた“立体的な展示”
今回の展示に欠かせなかったものが、最新のデジタルアーカイブ技術である。展示された北斎の作品群は、アルステクネ社の「DTIP(高精細疑似立体画像処理技術)」という技術によって記録されたものだ。20億画素の超高解像度かつ超高精細なリマスターデータを作ることができ、このデータは美術館等で展示される複製作品の元データとして用いられる。「疑似立体画像処理」の通り、紙の微細な毛羽立ち、繊維、絵の具の厚みなど、普通であれば平面化されてしまう、物質としての機微を感じられる。
もう一つ、展示を賑わすのがソニーPCLのハプティクス(触覚)技術だ。微細な振動や風を制御することで、触覚的な体験を生み出す。こちらは後ほど実例と共に紹介しよう。
『北斎アナザーストーリー』は、北斎が平面上に残したイマジネーションを、最新技術を通じて3次元空間に押し広げ、私たち一人ひとりのイマジネーションを誘発するような試みというわけだ。
6パートに分かれ、充実の内容
展示は「プロローグ」「光の部屋」「大地の部屋」「風の部屋」「北斎の部屋」「エピローグ」の6パートにわかれている。
「プロローグ」では、意外と知らない葛飾北斎という人物の生涯や、その人気や影響力について現代の視点から読み直す資料が充実。展示を一層楽しむためにも、まずはここで北斎についてじっくり知ることから始めるのをおすすめしたい。
竹あかりアーティスト・CHIKAKENが手掛けた、穏やかな光を放つ竹細工のインスタレーションで覆われているのは「光の部屋」だ。各所には39cm×27センチのやや小さめのディスプレイが設置され、北斎の作品が映し出される。
まだ電灯のなかった時代、浮世絵を観賞するための光源は、刻々と移ろう陽の光か、小さなろうそくの灯りだ。当時に近い環境で作品を観賞することで、当時を生きた人々にとっての浮世絵、あるいは北斎という人物を、当時の距離感で感じとることができる。
「大地の部屋」は北斎の描く風景に“足を踏み入れる”ことができる展示だ。水辺に佇む鶴と美しい山々を描いた『相州梅澤左(そうしゅううめざわのひだり)』や、東京・小石川の雪景色『礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)』といった作品がプロジェクターで壁と床全面に投影される。さらに床には「アクティブスレート(Active Slate)」というハプティクスパネルが敷き詰められている。参加者の足元の動きを感知し、雪を踏む感触や水面を歩く感覚が足元から映像とともに伝わる。
「風の部屋」は北斎の描く「風」を感じる部屋だ。北斎の作品の中には、随所に「風」そのもの、あるいは風の情報が描かれている。壁面に移された作品群の「風向き」に合わせて、部屋の中に設置された送風装置から風が吹く、こちらもソニーPCLの「風ハプティクス技術」が使われている。文字通り作品内の「空気」を感じる仕掛けだ。
最後の「北斎の部屋」は本展の集大成的な部屋となっている。幅16メートル、高さ3メートルの巨大なディスプレイが印象的だ。高い色再現性と、豊かな階調表現、高コントラスト、広色域を誇るソニーの「Cristal LED」というディスプレイが使用されており、間近で見てもディスプレイのドットはほとんど見えない。またこの部屋には300近いチャンネルによって立体音響を実現するサウンドシステムが搭載されており、先述した「アクティブスレート(Active Slate)」と「風ハプティクス技術」もインストールされている。
ディスプレイには『神奈川沖浪裏』『山下白雨』といった北斎を代表する作品をモチーフにした映像コンテンツが流れ、北斎がその目で見た景色、想像した空気を、大迫力のイマーシブコンテンツとして体感できる。
そして最後の「エピローグ」では北斎作品のマスターレプリカが観賞可能だ。拡大鏡で細部までみると、改めて「DTIP」の再現性に驚かされる。繊維も汚れも、本物にしか見えない。全身で没入してから、改めて作品と向き合うことで見えてくるものもあるはずだ。
他にも、コラボアーティスト作品の展示スペースや最後にはお土産ショップも併設。展示スペース自体はそれほど広いわけではないが(それでも東急プラザ渋谷内にこれだけのスペースが存在した事に驚いた)コンテンツの充実ぶりは凄まじいものだった。
全体的に「技術を見せたい」というムードが先行しているきらいはありつつも、作品とうまく融合することで満足感の高い展示に仕上がっていた。ある意味、ちょっとやそっとじゃ揺らがない力と影響力を持つ北斎作品とだからこそ、安心して挑戦できたと言えるのではないか。
中島健人とのスペシャルコラボも実施中

また記者発表会では、ギークピクチュアズ、RED、東急不動産、ソニーPCLからの登壇者にくわえて、コラボアーティストのCOIN PARKING DELIVERY、GOMA、そして元Sexy Zoneにして、ケンティーの愛称で知られる中島健人が登場した。
今回の没入型作品を体験し「もしタイムスリップしたら北斎先生に弟子入りしたい」と感想を語った中島健人は、『北斎アナザーストーリー』とのスペシャルコラボレーションが決定している。DTMで楽曲製作をするなど、クリエイターとしての側面も持つ中島がどのように北斎へアプローチしていくのか、期待したい。
〈作品クレジット〉
作品画像:©Ars Techne.corp 原作品所蔵元:山梨県立博物館
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