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歌広場淳×アール×ハメコ。“eスポーツキャスター”座談会 「SFL 2024」優勝決定戦の見どころ、そして仕事に懸ける思いとは
イベント内容がより多彩に――2024年の『スト6』シーン
歌広場淳:おふたりに「SFL 2024」の総括とグランドファイナルの展望を語っていただいたところで、ここからは個人的に聞きたかったことをガンガン質問していこうと思います。まず2023年と2024年を比べたら、どちらが忙しかった印象ですか?
アール:正確にはわからないですけど、「今年は忙しかったな」という感覚はやっぱりありますね。
歌広場淳:ちなみにいち格ゲーマー視点で言うと、やはりおふたりとも今年のほうが忙しそうだなという印象は持っていました。大小さまざまなイベントがあって、そこでの稼働も多かったと思いますし。
ハメコ。:今年は短距離走のペースで駆け抜けた感じでしたね。2023年はマラソンのペースでじっくり走り抜けたように思うんですけど、今年は「じっくり」なんて言っていられなくて。全力疾走で眼の前のものをやって、また次みたいな。
歌広場淳:ハメコ。さんに関しては『鉄拳8』でもキャスターを務めていることもあって、なおさらですよね。
ハメコ。:基本的に年平均3~4タイトルくらいは並行で携わってきていて、ここ最近は「ストリートファイター」の比重が大きくはなっているんですけど。忙しかったのもそうだし、今年は例年に増してイベントの内容が多彩だったなとも感じます。
競技シーンとカジュアルイベントとでは、同じ実況・解説という役割でも、やるべきことやテンション感でまったく違うものを求められるわけで。しゃべる内容やアプローチを変える必要があるので、そのあたりで工夫が必要になった回数は今年のほうが多かったのかな。
歌広場淳:「LEGENDUS STREET FIGHTER 6 師弟杯 ~2024冬 後楽園の陣~」では、後楽園ホールのリングの上に立たれたりしていましたもんね。
ハメコ。:「LEGENDUS」はとくに、人気ストリーマーのみなさんのパワーがあっての、これまでにないテイストだったかなと。ものすごく楽しませてもらいました。
アール:そういう話だと、2024年はかなり突飛なイベントに何度も関わらせてもらったなと思います。「師匠を守れ 集中!電流デスマッチ」」とか、「すぺしゃりてフェス」も相当ワルノリさせてもらいましたし、「配信者マリーザ王決定戦」も……。
ハメコ。:「配信者マリーザ王決定戦」はヤバかった(笑)。あれはめちゃめちゃおもしろかったんですけど、キャスター泣かせのイベントでしたね。
空前絶後の同キャラ大会「SFLの10倍難しい現場だった」(ハメコ。)
アール:「配信者マリーザ王決定戦」は、実況・解説者にとってはかなりチャレンジングな座組だったよね。8名のマリーザ使いの配信者たちが、真のマリーザ使いの座を争うという。
ハメコ。:いやぁ大変だったんですよ。2024年で一番大変だったと思いますね(笑)。
歌広場淳:えっ、それはどうしてですか?
ハメコ。:だって、マリーザ同キャラ対戦について5時間しゃべるんだよ?
歌広場淳:そっかそっか、そうですよね。話すネタとかもなくなっちゃうし。
アール:観ている人にとっても、同じ絵面が続くわけだから絶対に飽きちゃうんですよね。そこをどう楽しんでもらうかという。
ハメコ。:5時間にわたって延々とラーメンだけが運ばれ続けてくるみたいな。普通に考えれば、すぐお腹いっぱいになっちゃう座組なはずなんですよ。
歌広場淳:言うなれば、そこをおふたりがずっと“味変”し続けてくれていたわけですね。
ハメコ。:もちろん出場していた配信者の方々の努力もあるんですけど、キャスターとして培ってきた技術をフルに出せたんじゃないかなと思います。もう圧倒的に難しかった。「SFL」の10倍は難しかったです。あのイベントは。
アール:「配信者マリーザ王決定戦」は、『Minecraft』配信などで人気の「ドズル社」さんの企画だったんですけど、いい意味で、格闘ゲーマーからは絶対出てこないような企画だなと思いましたね。
たとえ思いついたとしてもあれほど大規模にやろうとは思わない企画だと思うんですけど、配信者の方々の個性があふれていたがゆえに成立した部分もすごくあったので、ある意味では、それまではやろうと思ってもできなかった企画だったとも言えますよね。
ハメコ。:そうやってさまざまなコミュニティが『スト6』を遊んでくれるようになったことで、イベントの内容がすごく多彩になったのはうれしいですよね。キャスターとしての腕の見せどころだと思います。
「誰が技を出しても同じ、だけど“違う”」格闘ゲームの魅力
歌広場淳:以前、この連載で、くんぺー。さんという“日本一「SFL」に詳しい男”と対談させていただく機会がありまして。そのなかで、「『スト6』でのSFLが本格的に始まるのは、今年(2024年)からだ」というお言葉が印象に残っているんです。
なぜならば、2023年の「SFL」は『スト6』の発売1ヵ月後のスタートだったので、まだ選手たちは手探り状態だったから――という趣旨のお話だったのですが、そういう意味では2024年は見たいものを見ることができた感がありますよね。
個人的には、ディビジョンSの第1節・第3マッチ中堅戦にて、ウメハラ選手が瞬獄殺を決めたところで、もうすでに「見たいもん見れた!」って気持ちになりました。
ハメコ。:あの瞬獄殺であそこまでコメントやSNSが盛り上がったのを見て、あらためて「格闘ゲームってすごいな」と思いました。
だって、あの瞬獄殺って言ってしまえば凡庸な、“凡瞬獄”じゃないですか。技の打ちかたや、打ったシチュエーション自体は。
歌広場淳:そうですね。特別難しいテクニックが必要とされるわけじゃない、よく知られた連携でした。
ハメコ。:だからこそやっぱり思うんですけど、格闘ゲームって誰が技を出しても同じなんですよ。ウメハラ選手が瞬獄殺を打っても、俺の母ちゃんがちょっと練習してトレーニングモードで瞬獄殺を出しても、同じ技なわけじゃないですか。……でも、“違う”ってことなんです。
歌広場淳:そうなんですよね! バリューと言うんでしょうか。同じ技なのに価値が違うんですよね。
ハメコ。:あの開幕節で、ウメちゃんが打った瞬獄殺には1億円くらいの価値があったんだろうなって。だからやっぱり、格闘ゲームっておもしろいなと思いましたね。
歌広場淳:実際、経済効果とか本気で考えちゃいましたよ。あのシーンの切り抜き動画もめちゃくちゃ再生されてますし。
ハメコ。:そうですね。いよいよ、今年の「SFL」が始まったぞ! って感覚になりました。打ち上げ花火がね、盛大に上がった。
“観られている”の視覚化が選手たちをより輝かせる
歌広場淳:あらためて思いますけど、やっぱりあの「ウメハラ」さんの瞬獄殺にしても、おふたりが盛り上げてくれたからこその、あれだけの感動だったんだなって。
アール:そこはプレイヤーたちの努力があってこそだと思うし、お客さんたちも盛り上がってくれた、盛り上がりに貢献してくれたってことだと思いますよ。
ハメコ。:そのとおりですね。
アール:個人的に今年で印象に残っているのは、“客煽り”をたくさんやらせてもらったことなんです。10年くらい前だったら、こちらからどんなに煽っても、無反応とか、失笑、みたいな感じだったんです。「そういうのいいから」みたいな。それが、『スト6』になってからはお客さんたちがすごいノってくれるようになって、やり甲斐があるなって。
たとえば「ラグーナテンボス」で開催されたイベント「リアルバトルハブ」も、僕は5月に1週間ほど現地で生実況させてもらっていたんですけど、やっぱり来る人が変わったなって思いました。興行として楽しむ人も増えてくれたから、グッズの売れ行きもすごく好調だったようだし。
大きなイベントを通して、観ている側がファングッズとか交流を求めている空気がどんどん増していったように感じます。だから、格ゲー部門を置いているeスポーツチームたちも運営の幅が広がったと思うんですよね。
歌広場淳:イベント会場の盛り上がりという面だけに留まらず、eスポーツチームの運営の方々にもそうした視聴者側のリアクションがガンガン届くようになったわけですね。
アール:だから、それこそチームのグッズやアパレルもどんどん出てきているし。「観られているってこういうことなんだ」というのが、グッズの売れ行きなどで視覚化されていったってことなんじゃないでしょうか。
何よりも選手たちが一番「観られているぞ」って感じているはずですから、そうした期待を背負って大舞台に立っている選手たちは、どこか誇らしげな、いい顔をするようになってきていますよね。
歌広場淳:やっぱりアールさんも、なんとなくイベントに来る人たちの顔ぶれが変わってきたな、若い子が増えたな、といったことを感じる機会が多くなったから、それに合わせて盛り上げかたもアップデートしていこうと思ったってことなんでしょうか。
アール:それもあるけれど。それ以前に、歌兄にゴールデンボンバーのライブに招待してもらって、「プロのエンターテインメント」というものを肌で体感させてもらえたのが大きかったんですよね。お客さんを楽しませるという意識がものすごく強かったなと感じて。
ああ、いい経験をさせてもらったな。プロフェッショナルのエンターテインメントを観せてもらったなと。で、いざ自分がお客さんを楽しませる立場に立ったときに、「やりすぎていいんだ」って感覚になることができたんです。それがきっかけになり、別業界のエンターテインメントを吸収していこうと意識した1年でしたね。
アール&ハメコ。が影響を受けた人物とは?
歌広場淳:これは前から常々気になっていたことなんですけど……おふたりにはキャスター業において影響を受けた人っているんでしょうか? 実況・解説で参考にしていたりとか、あるいは考えかたであったりとか。
アール:参考にしている人はパッとは思い浮かばなくて、どちらかというと我流でやらせてもらっているという感覚が強いです。ただ、古舘伊知郎さんとお話をさせてもらったことはものすごくいい影響を与えていただいたな、っていうのはありますね。
自分よりも全然年上なのにめちゃくちゃエネルギッシュだし、新しいことを学ぼう、新しいことに挑戦しようという意欲がすごく強い方なんだなと感じて。
eスポーツキャスターとして先輩と呼べる存在がいない状況でお仕事させてもらっているなかで、このくらいの年齢までやれるんだ、みたいな。
歌広場淳:古舘さんといえば、おひとりで喋るトークイベントをやられていましたよね。2~3時間くらいぶっ続けで、マイク1本でひとりしゃべりするという。
アール:いまもやられていますね、「トーキングブルース」。
歌広場淳:そう、「トーキングブルース」でした。それを昔一度観たことがあって、めちゃくちゃ衝撃を受けました。後半とか、汗だくになっていて。話す内容もテレビでは聞かないようなことばかり。
アール:わかる。自分も招待いただいて観に行ったんですけど、すごかったですね。
歌広場淳:本当にエネルギッシュな方ですよね。ハメコ。さんはいかがですか?
ハメコ。:影響を受けた人は……伝わらないかもしれないですけど、澁澤龍彦ですね。
アール:えーっ!? あなた、澁澤龍彦さん好きなの?
ハメコ。:好きなの。めちゃくちゃ好きで、全集も持ってるし、事あるごとに読み返してますね。
一応、ご存じない方のために説明しておくと、フランス文学者で。日本にフランス文学であったり、言ってしまえば“中二病”的な価値観を広めたりした人ではあるんですけれど、その人のエッセイがとにかくおもしろいんです。
何がおもしろいのかというと、美術から魔術、錬金術といったオカルト的な諸々を、広範な知識を使って、いかにも“すごいものっぽく”説明しているんですよ。それを読んだときの知識欲を刺激される感覚が自分の中の原体験としてあって、ゲームにおける「よくわからないんだけど、なんかすごいものっぽい」みたいな部分を噛み砕いて伝えたい、という思いにつながっていったところがあるんですよね。
澁澤竜彦は小説もいろいろ書いてるんだけど、個人的にはエッセイの方が圧倒的に好みです。どれを読んでも膨大な知識量から来る連想の連続と美しい言葉選びが素晴らしくて、読み終わったあとに「ちょっと頭良くなったかも」感がある。そして、詳しい風を装っておいて、最後の最後に「結局よくわからないんだけどね」と投げっぱなしになるものもあったりして、オチまで好き。
歌広場淳:そういえば、おふたりはアーケードゲーム雑誌の「月刊アルカディア」の編集部で働いていたご経験がありましたよね。
アール:そうですね。僕らはアルカディアの残党組で、自分は編集、ハメコ。はライターでした。
ハメコ。:ライターのころから、こうしてキャスターになったいまも、やっていること自体は変わっていないと思っています。自分が「これはおもしろい」「これはすごい」と思ったことをいかに伝えるかという、それがモチベーションの源泉にもなっているので。
とにかくおもしろければいいやってところもあるんですけど、詳しい人ならわかることを、詳しくない人にも少しでも「おもしろいな」と感じてもらえるように。そこをいかにできるかというのが、自分のスタイルかもしれないですね。
「キャスター席で一緒にゲーム雑誌を作っている感覚」(アール)
アール:これはハメコ。と話したことがないから、あくまで僕の感覚だけど……ハメコ。がやりたいことっていうのは、自分なりに理解していて。僕が実況、ハメコ。が解説で、キャスター席で一緒に「月刊アルカディア」を作っているような感覚があるんです。
俺がキャッチ(見出し)とかリード(序文)を作って外側の体裁をまとめて、ハメコ。が中身となる攻略文章を書いていくみたいな。「月刊アルカディア」っていま思えば文字ばかりの雑誌だったけど、おもしろかったじゃないですか。
歌広場淳:はい。僕も中学生のころから夢中になって読んでいました。
アール:あの文化って、いまは「月刊アルカディア」が休刊しちゃったからないんですけど、あの感覚だけでも後世に伝えていきたいなという気持ちで、ハメコ。と一緒にやらせてもらっているところがありますね。
ハメコ。:そうなんだ。実際、役割分担としてはそのとおりだね。自分はもう根っからのゲームオタクで、プレイヤーたちのやり込みのすごさを伝えたい、それ一辺倒なんですよ。そのためにできることは全部やる。自分で調べ物もやるし、言葉を考えたり、伝わりやすくする努力をしたり、そういうことをずっとやり続けていけたらと。
だから、全体としての体裁とか盛り上げるみたいなところは、すべて(アールに)お任せです。なんなら、「いまのはどうですか?」的なキャッチボールすらないからね。
アール:ないね、うちらは。
ハメコ。:うん。もう役割分担がハッキリしているから、「勝手にやろうよ」みたいな。いい意味でね。ここはどうせあっちがやってくれるだろう、という信頼がある。こっちでやれることはこっちでやるし、そっちの仕事は任せますっていう。
歌広場淳:だからこそ、我々視聴者もアール&ハメコ。のコンビを見たいという気持ちになるんでしょうね。やっぱりこのコンビは特別って感じがします。
アール:そう思ってもらえているのだとしたら、ありがたいですね。