歌広場淳×白水“格ゲー界の存続を切に願う者”対談 海外シーンを観測する「ウォッチャー」の目に映る世界

歌広場淳×白水“格ゲー界の存続を切に願う者”対談

 大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、格闘ゲームの競技シーンにおける海外プレイヤー事情に精通する白水氏との対談を行った。

 海外の強豪プレイヤーたちを独自に調査し、おもに海外大会に参加する日本のプレイヤーたちに向けて情報発信することをライフワークとしている白水。活動を始めたきっかけや、日々のモチベーション、調査で見えてきた“地域性”、海外プレイヤーについて調べる際のコツなど、話題は尽きないなか――。

 世界中の格闘ゲームシーンを観測してきた彼が、「今後のシーンに期待すること」として最後に語ったのは、祈りにも似た切なる願いだった。

「白水は日本人選手に興味がない」は大いなる誤解!?

歌広場淳:格闘ゲームに関わるさまざまな方と対談させてもらっているこの対談ですが、今回は人呼んで“格ゲースパイ”こと白水さんをお招きしました!

白水:よろしくお願いします。ふだんは「ストリートファイター」シリーズの競技シーンを中心に、海外の大会を主軸に置いて、大会結果や、強豪選手あるいはおそらく今後注目されるであろう選手のリサーチ、そのほか各国の大会の動向などを個人的に調べて記録に残すという活動をしている人間です。

歌広場淳:白水さんは、ゲームに対してご自身がプレイヤーとして関わること以上に、“競技シーンをウォッチする”という方向から接することに振り切っちゃった人、という僕の認識なんですけど。これは合っていますか?

白水:おっしゃるとおりですね。いまは完全にウォッチすることが主軸になっています。

歌広場淳:めちゃめちゃ興味深いです! そうした活動はいつごろから始めたんですか?

白水:格闘ゲームの海外大会を観戦するようになったのは2009年ごろだったと記憶していますが、自分が調べたことをブログやSNSなどにちゃんと記録に残そうと意識的に活動するようになったのは、2012年前後だったと思います。

歌広場淳:もともとは白水さんもプレイヤーだったわけですよね?

白水:はい。僕も歌広場淳さんと年齢が近くて、いわゆる格ゲー直撃世代だったので。

歌広場淳:そうなんですね! 僕が1985年生まれで、『ストリートファイターII』がゲームセンターで稼働し始めたのが1991年だから、僕らの世代はちょうど小学生くらいの時期にスーパーファミコンによる『ストII』ブームを経験しているんですよね。当時はたとえゲームセンターに通っていなくても、「『ストリートファイター』のことは知っている」って子がたくさんいました。

 その後、僕はプレイヤーとしてずっと格闘ゲームを追い続けていて、ウメハラさんのようなスタープレイヤーに憧れ、「“池袋サファリ”っていうゲーセンに行けばウメハラさんに会えるらしいよ」「マジ!? 行こうぜ!」みたいな青春を送っていたわけなんですけど……。

 白水さんの場合、そういった国内の強豪プレイヤーに興味を持つことをすっ飛ばして、いきなり海外に目を向けちゃっているようなところが、すごく面白い方だなと思っていたんです。

白水:なるほど、確かにそう見えますよね(笑)。僕がなぜ海外のプレイヤーに興味を持ったかといったら、近年、日本のプレイヤーの方々が海外大会に参加することが増えたからなんですよ。

 日ごろ海外選手のことばかりつぶやいているので、「白水は日本人には興味がないんじゃないのか」と誤解されることも多いのですが、僕も日本のプレイヤーのみなさんのファンなんです。日本人選手が出場するからこそ、海外大会を観るようになったわけです。

歌広場淳:ああ、なるほど。それなら納得です。では、そこからなぜ海外プレイヤーのことをリサーチするようになったのでしょうか?

白水:そうやって海外大会を観戦していくなかで、「海外にもこんなに強いプレイヤーがいるんだ!」って衝撃を受けまして。どうしてこの選手はこれほど強くなれたのだろう、ということに興味を持ったことがまずひとつ。それから、必要に駆られてという面も多分にありました。

 ……というのも、当時の海外大会ってスケジュールはおろか、トーナメント表すらもまともに公開されていないことが多くて。大会の中継配信も、会場の様子を映すカメラと、試合中のゲーム画面とがただ交互に切り替わるだけの淡白な形式が主流でしたから、誰と誰がいま戦っているのかもわからなくて、目当ての日本人選手の出番が来るまでめちゃくちゃ暇だったんです。

 それで、ただ日本人選手の出番を待っているだけというのも退屈だよなと考えた結果、海外のプレイヤーのことも知ろうと思ったんですよね。

歌広場淳:現在ほど“大会配信”というもののフォーマットがかっちりしていなくて、海外大会を観戦するという行為もメジャーじゃなかったころに、少しでも観戦を楽しもうと思ったがゆえの言わば苦肉の策だったわけですね(笑)。

白水:まさにそのとおりです。最近は、大会の進行遅れなどがあると運営スタッフがSNS上で告知してくださったりしますけど、そういった文化も当時はなかったので、何かアクシデントが起こっても現地にいない我々には知る術がないんですよね。

 そういえば一度、とある海外大会でタイムスケジュールが24時間近く押したことがあったんですよ。

歌広場淳:丸一日じゃないですか!(笑)。

白水:そうそう。そのときは、たまたま現地で大会に参加していた日本人の方が、「どうやら会場でボヤ騒ぎがあったらしい。大した被害はなかったので中止にはならないっぽい」とSNS上で発信してくれたので、どうにか状況が把握できました。当時は本当にすべてが手探りでしたし、僕の今の活動に関しても手探りのなかでなんとか形にしていっている感覚は常にありますね。

「海外プレイヤーからは見逃してもらっているに過ぎない」(白水)

歌広場淳:いまや、プロゲーマーの方からも「海外選手のことなら白水さんに聞け」と言われるほど、日本の格闘ゲーマーたちから絶大な信頼を寄せられている白水さんですが、ご自身の活動スタイルがある程度確立されてきた時期やきっかけについて詳しく教えていただけますか?

白水:おかげさまでありがたいお声もいただいていますけれど、少なくとも自分が意識して調べたことを記録に残そう、発信していこうと思ったのは、『ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3』の発売(2011年11月)がきっかけでした。

 「マーブル」……いや、いまは「マーベル」か。やはりこの作品はアメリカで大人気で、ものすごくアメリカの選手層が厚かったんですよ。おそらく米国内ではそれほど知名度が高くないような選手でも、我々日本人目線からすると相当な実力者、みたいな人がざらにいて。

歌広場淳:我々、格闘ゲーマーは、いまだに「マーブル」って呼んでしまいがちですよね(笑)。むしろ信頼が置けます。でもそうか、アメリカはプレイヤー人口が多いぶん、プレイヤーの平均レベルも高かったわけですね。

白水:はい。どの格闘ゲームにも共通して言えるんですけど、やはりプレイヤー人口が多いことは強豪選手を生む土壌として最強なんですよね。それで日本人選手を応援する意味で、“ほぼ無名だけどじつは強豪”みたいな海外選手も含めた要警戒選手の情報をまとめていく活動を始めました。

 ただ、正直なところ迷いはありましたね。当時の自分は格闘ゲームのガチ勢ではなかったし、そんな自分がまとめた情報なんて受け取ってもらえなくて当然だろうとも思ったので。いきなり見ず知らずの人から情報を渡されて、「あなたと同じブロックにいる◯◯選手は△△地域の強豪で、使用キャラは~」なんて書いてあっても、ふつうは信じてもらえないですよね。

歌広場淳:でも、そんな白水さんの不安をよそに活動は実を結び、「対戦相手の素性がわからなくて困ったときは白水さんに聞け」という雰囲気ができていったわけですよね。

白水:……というよりは、プレイヤーのみなさんが僕の行為を寛大な心で受け入れてくださったってことだと思っています。あのときに「いえ、そんな情報は結構です」と言われていたら、僕はいまのような活動を続けていなかったでしょうから。

歌広場淳:寛大な心で受け入れるどころか、白水さんのような方がいてくださってよかったと、日本の格闘ゲーマーたちはみんな思っていると思いますよ。僕も以前、SNSを通じて白水さんにお世話になったことがありますし。

白水:いえいえ、僕が泳がされている――見逃してもらっているがゆえに成り立っているというのは本当のことで。それこそ『ウルトラストリートファイターIV』のころに、とあるメキシコの強豪プレイヤーさんから“たしなめられた”ことがあるんですよ。「僕の対戦動画をチェックするのは止めてほしいなぁ」と。

歌広場淳:ええっ!? そんなことがあったんですか?

白水:どうやら僕が大会に参加して、彼とトーナメントで対戦すると勘違いしていたみたいで……。それを伝えたうえで謝罪して、最終的に和解することはできました。

 そうやって僕が海外の方からも大目に見てもらえている理由のひとつは、間接的に海外プレイヤーにも利益があるからだと思うんですね。たとえば僕がアメリカとヨーロッパの強豪選手の情報を調べて、日本のプレイヤー向けとしてそれを公開したときに、アメリカ勢からすればヨーロッパ勢の情報が手に入るし、その逆もまたしかりと。

歌広場淳:日本語で発信しているとはいえ、たしかに発信する範囲を限定してはいないですもんね。そういう意味では、あらゆる国に対して幸せを売り歩く商人みたいな状態になっているわけだ。

 そういうことがあると、ますます「自分の調べた情報というのは、どうやらすごい価値があるらしいぞ」と思ってしまいませんか。自分でそうは思わなくても、周囲の方からそういった言葉をかけてもらえたりとか。

白水:まあでも、僕と同じような活動をされている方って、けっこう世の中にいらっしゃるので。

歌広場淳:あれ、そうなんですか? 知らなかったです……!

白水:お互い示し合わせて、定例会議とかをしているわけじゃないんですけど、各々が調べた情報を垂れ流していくっていう土壌もあったりして。僕がたまたまアイコニックに扱っていただくことが多いだけであって、あの分野だったら◯◯さんのほうが知見があるだろうなと思うことも、ふつうによくあります。

歌広場淳:じつは白水さんのような方が世の中にはたくさんいて、組織的というほど強いつながりはないけれど、ゆるい情報交換や交流があるというイメージですか?

白水:そうですね。僕はあくまで格闘ゲームの分野しかわからないんですけど、当然ながら海外でもそういった活動をしていらっしゃる方はたくさんいますし、僕も過去にやり取りさせてもらったことがあります。

「そのプレイヤーの強さの源泉は何か?」が調査のモチベーションに

歌広場淳:先ほど、「もともと日本人選手のファンで、彼らを応援するために海外プレイヤーのことを調べるようになった」というお話がありましたが、この活動を長年続けられている原動力や、モチベーションになっていることは何ですか?

白水:一番は「この人たちはどうして強いのか?」という興味ですね。「日本のプレイヤーのみなさんを応援するために海外プレイヤーのことをちゃんと調べるべきだ」と思ってこの活動を始めたわけですけど、調べていくうちに「この選手が強くなるまでには、この人なりのドラマがあるんだな」と感じるようになったんです。

 たとえばアメリカなんて、同じ国のなかで時差があるくらいに広大な国土をもっているわけじゃないですか。そうなると、オフライン対戦会を開いてみても基本的には地元のプレイヤーしか集まらないし、西海岸のプレイヤーが東海岸のプレイヤーと対戦しようと思ったら飛行機に乗るしかない。それだけ離れるとオンラインでもラグがありますから。

 ほかにも、それこそ渡航ビザの関係で国外遠征のハードルが高い国などもあるわけで。そうした国ごとの事情があるなかでも、格闘ゲーム発祥の地である日本のプレイヤーたちといい勝負ができるような強豪プレイヤーが、海外で出てくるんですよね。

 つまり、その地域が持つ環境的なビハインドを跳ね除けるだけの理由があったり、その地域だからこそ強くなれたというドラマがあったりするわけなんです。そう思うと、やっぱり魅力的な海外プレイヤーはたくさんいるなと感じます。

歌広場淳:どこかの地域で強い人が出てきたということは、おそらくその人の周囲に素晴らしいコミュニティか、あるいはスパーリングパートナーの存在があるわけですもんね。

白水:そのとおりです。格闘ゲームって、やっぱりひとりでは強くなれないので。大会を開くにしても、海外ではどうしても複数タイトル合同で開催する傾向があるんですよ。たぶん複数種目を用意しないとまとまった人数が集まらないから、そうせざるを得なかったんだと思います。

 だから海外プレイヤーは複数種目にエントリーすることにも抵抗がないというか、日本のプレイヤーはどちらかというとひとつのタイトルに絞ってやり込むことが多いですよね。

歌広場淳:逆に言うと、日本なら各タイトル単独の大会が盛んに行われているから、タイトルを1本に絞ってやり込んだとしても大会が少なくて困るようなことが起こりづらいわけか。

白水:これは「海外だからどうこう」という話でもなければ、“海外”とひと括りにはしたくもないところではあるのですが、日本以外の地域では“対戦相手を自分で用意するしかない”という状況のところも多いんじゃないかなと思います。日本のようにコミュニティがそこら中にあったり、対戦会や大会が盛んに行われているわけでもないですから。

 ほら、海外プレイヤーって“多キャラ使い”(複数のキャラクターを使いこなせる人)が多いじゃないですか。あれも、身近にそのキャラクターの使い手がいなかったがために、対策のために使い始めて、結果自分で使えるようになってしまったというパターンが多いからなのではないかなと。

歌広場淳:うわ、言われてみれば確かにその可能性は高そう……! それといま、白水さんから「“海外”とひと括りにはしたくない」というお言葉がありましたが、めちゃくちゃ深いなと思いましたね。もはや白水さんの研究は、“ゲーム文化人類学”のような領域に到達しているんじゃないでしょうか。

国土の広さに比例して溜めキャラ使いの強豪が増える!?

歌広場淳:「海外プレイヤーは“多キャラ使い”が多い」というお話もすごく興味深いなと思ったんですけど、ほかにも調べているなかで地域性のようなものを感じた瞬間はありますか? たとえば、「この国はこういうキャラをチョイスする人が多い」みたいな。

白水:これはあくまで僕の印象なのですが、国土が広い国には溜めキャラ(※)を使用する強豪プレイヤーが多い気がしています。最近はそんなこともないのかもしれないですけど。

※1……←溜め・→+攻撃ボタン、↓溜め・↑+攻撃ボタンなど、いわゆる溜めコマンドの必殺技を主軸に戦うキャラクターのこと。「ストリートファイター」シリーズではガイルやエドモンド本田などが相当。

歌広場淳:うわー、おもしろい! いったいなぜなのでしょうか!?

白水:僕が思うに、国土が広いとオンライン対戦でラグが大きい相手とのマッチングが起こりやすいから、溜めキャラの使用人口が増えたんじゃないかなと。

歌広場淳:なるほど! オンライン対戦がラグありきだと、シビアな入力が要求されるコマンドキャラよりも、比較的ラグの影響を受けにくい溜めキャラのほうが実力を発揮しやすいところはあるかもしれないですね。

白水:ネットワークの知識がまったくないので、完全に推測でしかないんですけれども。

歌広場淳:いやいや、仮にそのお話が説として立証できなかったとしても、そういった視点から言語化できるのは世界中のプレイヤーをウォッチしてきた白水さんだけだと思いますよ。

白水:ほかにもわかりやすいところで言うと、とくにアメリカのプレイヤーは爆発力のあるキャラクターが高く評価される傾向があると感じます。たとえば『ストリートファイターV』(以下、『ストV』)のGなんかがそうですね。

歌広場淳:GといえばVトリガーが強力で、試合終盤に一気に展開をひっくり返せるような爆発力を持つキャラクターですよね。弱点はあるけれど、そのぶんとがった強みを持つキャラクターが好まれるということでしょうか。

白水:だと思いますね。総合力はそこまで高くないかもしれないけれど、わかりやすい強みがあって、極端な話「それで勝てるならいいんじゃない?」みたいな。攻略が浅いとか深いとかではなくて、シンプルに考えかたの違いなんだと思います。

歌広場淳:日本と海外とでキャラクターの評価にズレがあって、よく議論になることがありますけど、そういった考えかたの違いが影響している部分もあるんでしょうね。

白水:あとは、南アフリカ共和国のプレイヤーはランクマッチをプレイしている人の数が極端に少ない、とかですかね。

歌広場淳:南アフリカといえば、『ストリートファイター6』が発売されて以降、一気に注目度が上がった地域ですよね。「Red Bull Kumite 2023」では、南アフリカのトッププレイヤーであるJabhiM選手が、日本のときどさんを倒したことでも話題になりましたし。

白水:じつは南アフリカ共和国も、数年前から格闘ゲーマーたちの痕跡は確認できていて、少なくともここ1~2年で急速に盛んになった地域ってことでもないんですよ。ただ、オンライン対戦の記録を見ると、ほとんどの人がランクマッチをやらないんですよね。

歌広場淳:なんでだろう……。めちゃくちゃ興味深いですね。

白水:あのJabhiM選手ですらも、『ストV』のころはMASTER手前くらいでランクマッチをやめてしまっていたと記憶しています。いろいろと理由は推測できるんですけど、ひとつは国土が広すぎてランクマッチが成立しづらいとか、あるいはエネルギーの問題もあるのかなと思っています。

 というのも以前、南アフリカで行われる予定だった「ストリートファイター」のとある大会が延期になったことがあってですね。理由を調べたら国家的な計画停電の影響で開催できなくなったという情報がヒットしたんです。

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