“枠”を超える者と、去る者と。 3人の識者が振り返る、2024年のバーチャル業界(中編)

識者たちが振り返るバーチャル業界(中編)

新規勢力が活躍した背景とは

【初配信】#らでん初配信 はじめまして、らでんです #hololiveDEV_IS #ReGLOSS

草野:ここ数年は大きな事務所だけでなく、Mixstgirlsやミリプロ(Million Production)、すぺしゃりてなど、新規事務所・グループが独自のファンを獲得していますよね。

たまごまご:がんばっている気がしますね。コンスタントに活動してファンがついているように見えます。特にミリプロは大きいですよね。たしか、個人の方が立ち上げたのでしたっけ?

草野:そうですね。もともとイラストレーター出身の甘狼このみさんが個人で活動していたところから、グループを立ち上げて一人ずつメンバーを増やしています。甘狼このみさん自身、YouTubeなどで自身が絵を描いているショート動画をたくさんアップしたことで、幼稚園生や小学生からたくさんの人気を集めています。

たまごまご:個人から派生したプロダクションが増えて、それらが支持されている状況はすごく理想的ですね。

草野:それでいうと、今年は学術系VTuberも伸びていた印象です。先日、富士葵さんにインタビューをした際、「数年前はVTuberが配信をすると言えばゲームしかなかったが、いまはファン層も熟成し、タレントも多岐にわたってきたことで、本当に自分が好きなものを表現して、打ち出しても理解してくれるようになった」とおっしゃっていたのですが、まさにその通りだなと。このときには儒烏風亭らでんさんの名前も上がっていて、それも踏まえて学術系VTuberの立ち位置が確立してきたなと、今年一年で感じましたね。

 それこそ、旅野そらさんのような方が受け入れられて、ちゃんとバズる状況って、すごく面白いなと思います。2017年や2018年だったらありえないじゃないですか。今のVTuberシーンの成熟と多彩さがあるからこそですよね。

たまごまご:直近は法律系でも、かなえ先生、ながのりょうさん、じゃこにゃーさんもかなりいい具合にファンを増やしていますね。特にかなえ先生の躍進が最近すごいですよね。

草野:かなえ先生は昼間の配信で法律や社会事象、最近では政治的な話題まで押さえた配信をされていて、4000人から5000人くらいの視聴者を集めているんですよね。これ、すごいなと思います。政治などのトピックを取り扱う時って、喋り口、ご本人の思想や姿勢も含めてものすごく注意しなきゃいけないのだけども、ちゃんとヒットしているのは、やはりシーンの成熟さと多彩さ、間口が広がったがゆえかなと感じます。

浅田:学術系に限らず、特化系のVTuberは年々存在感を増していますね。昨年自分は宇推くりあさんを挙げてそうした話をしていましたが、今年はさらに加速したような印象です。YouTube公式Xも、今年何回かヘアピンまみれさんをプッシュされていましたよね。

たまごまご:あと、学術系の方を取りまとめる人が出てきたことも大きいですね。北白川かかぽさんや、儒烏風亭らでんさん、カルロ・ピノさん、GAMABOOKSの諸星めぐるさんなどは、積極的に人を呼んで話を聞く企画を組んでいて、それをきっかけに関係値が横に広がっていくので、いい具合に“学術系コロニー”ができている感じがします。

草野:学術系ではないですが、hololive DEV_ISの「FLOW GLOW」からデビューした輪堂千速さんは、バイクとか車が好きなんですよね。彼女に関わる切り抜きが一時期ほぼほぼ車関係だったりして、そういう方がホロライブから普通に出てくるのは強いなと。

たまごまご:車・バイク系のVTuberは花香琴音さんなど個性が強い人がいっぱいいますよね。やっぱり領域として手堅いんでしょうか。

 今まで、車とかを題材にしてるVTuberさんって、いるにはいたんですけど、他のVTuberファン層とは全くかぶらない、どちらかと言えばYouTuberとして見られてたと思うんですけど、儒烏風亭らでんさんあたりを境目に大手からも姿を現すようになりましたね。

浅田:アズマリムさんも、いまはバイク関連の動画を多く投稿していますよね。

草野:全員が全員、そういう色に染める必要性はないですが、特化したスペシャリストがいてもいいよね、とは思いますね。

2024年の卒業者・活動終了報告を振り返る

大切なお知らせ(残念なほう)【湊あくあ/ホロライブ】

ーー2024年は新たに注目された方、活動形態を変える方が沢山いて、「変化の年」だったという認識は共通しているかと思います。一方で、卒業や活動終了、契約解除など、離脱者も多い年だったように感じるのですが、皆さんの視点ではどう見えていましたか?

草野:アイドルやシンガーとして音楽をやりたい人を採用したけど、配信方面がちょっと強くなりすぎていて、結果として方向性の違いが生じ、離脱者が増えている……なんて側面もあるのかなと感じます。

 調べてみたところ、今年ホロライブで活動を終了した方は、海外を含めて7名いらっしゃいます。まず、夜空メルさんと緋崎ガンマさんは契約上の問題で、スタッフ枠ですが、友人Aさんが家庭の事情で辞められましたよね。そしてタレントでいうと、ワトソン・アメリアさん、湊あくあさん、沙花叉クロヱさん、セレス・ファウナさんの4名が活動終了を発表しました。

 これだけでもかなり多いな、という印象ですが、にじさんじは今年11名も活動を終了しているんですよね。

たまごまご:ええ、そんなにいましたっけ?

浅田:ENなどの海外組がかなり辞めていますよね。

草野:はい。順に挙げていくと、勇気ちひろさん、安土桃さん、鈴鹿詩子さん、鈴谷アキさん、成瀬鳴さん、ぽむ れいんぱふさん、金子鏡さん、Bonnivier Pranajaさん、ヘックス ヘイワイヤーさん、中里 苦無さん、ヴィクトリア ブライトシールドさん、ですね。

たまごまご:多いなぁ……特ににじさんじは、昔からの所属者も多いですね。日本のライバーは昔からやっていた人ばかりで。

浅田:ついに1期生と2期生から卒業生が出てきましたよね。

草野:続けていくと、ななしいんくからは虎城アンナさん、獅子王クリスさん、紫水キキさんの3名が活動を終了しましたね。もう一人、湖南みあさんも辞める予定でしたが、そちらはキャンセルされました。

たまごまご:「引退とりやめ」はちょっといいニュースでしたね。それ、できるんだって。ななしいんくの懐の広さを感じました。

草野:さらに、KAMITSUBAKI STUDIOでは存流さんが、どっとライブではメリーミルクさんが活動を終了。FIRST STAGE PRODUCTIONは一期生4名が一気に活動終了となりました。また、2023年12月31日付けで、のりプロから白雪みしろさん、愛宮みるくさん、姫咲ゆずるさん、猫瀬乃しんさんが独立していて、これを「ほぼ2024年」と考えると、かなりの人数が卒業・活動終了に至っています。

たまごまご:観測する側の視点としては6年~7年も活動できたのなら、十分に頑張ったよ、という感じは正直ありますね。VTuberは結局、アバター・キャラクターを変えるわけにもいかないので、それで何十年もやるにはよっぽど肝が据わってないと難しいだろうなと。表現の幅を広げていくうえで、それらを新しく変えられるのであれば変えたいよね、という気持ちも分からなくないですし、タレントからすれば、「方向性が違う」って意見が出てくるのは大いにわかります。

 もちろん、企業側の視点では、ものすごいお金や労力を費やして育ててきたタレントが抜けていくことは大きな痛手でしょうし、叩かれるのは企業側なのだから、大変ですよね。なので、どちらの問題、とは言えないと思っています。

浅田:企業としては本当に難しいものを扱っていますよね。

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