『あいの里 シーズン2』は「擬似恋愛より疑似体験してほしい」 プロデューサーが目指す“リアリティ番組の理想形”

『あいの里』“リアリティ番組の理想形”

ロケ中も配信中も、責任を持ってメンバーと向き合った

 制作陣にとっても、どんな展開になるのか想像ができないことは予測がつくが、想定外だったのはメンバーたちの恋愛模様だけではなかったという。

 「今回はステージ4のガンを乗り越えたたみフル、卵子凍結をしているちぃとあやかん、妹を助けることができなかった隊長、そしてパートナーとの死別を経験しているみぽなど「命の重み」をテーマに掲げざるを得ないメンバーが集まりました。シーズン1に引き続き、ロトスコープ技術を使ってメンバーたちの過去を再現したVTRも組み込み、彼女たちの行動や言葉が一元的に映らないよう、人生経験も描いたつもりです。それでも、メンバー個人に対する厳しい意見が、僕たちの耳に届いている現状があります。どんな人でも、それぞれの価値観やクセを持っていますから、実際関わってみたら悪い部分が目についてしまうのは仕方がないことです。あいの里は共同生活を撮影していくので、実は個々の悪い癖が垣間見えるシーンがすごく多いです。そのなかでも僕たちはなるべく、メンバーの『いいところ探し』をしたいと思っているんです。」

 切り抜きによる、炎上も目立つ昨今。西山氏の番組制作論は、人対人のコミュニケーションにも流用できそうなものだった。

 「長所も短所もあってこそ人間ですが、長所の方は探さないとなかなか見えてこない。でも僕たちはオーディション段階からメンバーと深く対話して、里での撮影期間中も、撮影クルーとメンバーが対話できる時間をなるべく持つようにしています。そんな僕たちだからこそメンバーの長所を発見できるし、そこをなるべく目立つように編集しているつもりです。人の悪いところを探すのは、とても簡単なことです。でもその一点に囚われてしまっては、人間関係は広がらない。人の欠点を探すのは、とても簡単なことです。でもその一点に囚われてしまうと、人間関係は広がらないし、相手に期待する気持ちもなくなってしまう。そんなふうに人に期待しなくなっていくのは、とても寂しいことだと思いませんか?」

 ジョハリの4つの窓という心理学モデルがある。人間には、自分が自覚できる側面と、自覚できない側面があり、他人から見える自分と、自分が捉えている自分像には乖離があるという。長所と短所を線で繋いで「あのメンバーらしいな」と思わせるのも、ドキュメンタリーテレビマンの手腕の見せ所の一つだという。

 自給自足の共同生活のなかでは、それぞれのクセが個性として描かれていた。それでも、前回以上に住民に対する否定的な声がSNS上に多かったことは、西山氏にとって大きな“想定外”だったのだ。

 「実は今も、撮影クルーと参加メンバーで食事に行ったりしています。SNSの色々な声を聞いて、憔悴しているメンバーのメンタルケアのためでもあります。僕自身はキツイご意見にも、すべて目を通しています。ですがメンバーの発言は、それぞれの人生経験から生まれた「背景」があることを、もっと伝えていきたいと考えていますし、多様な受け取り方があることを学びながら、これからのものづくりに生かしたいです。また、さとちゃんが亡くなってしまった件では、たくさんの視聴者から厳しい意見をいただきました。専門家の指導の下、獣医さんとも連携しながら、細心の注意を払ってきたつもりですが、結果として不十分だったという視聴者からの声を真摯に受け止めています」

 現代のリアリティショーには、匿名による攻撃が付き物になってしまっている。『あいの里』は他の恋愛リアリティ―ショーと違い、VTR内にもテレビマンによるバラエティ編集を入れることによって、個々のアイデンティティを愛のある笑いに変える工夫をしている。それでも、シーズン1とは違った形での想定外があったことは否めないと語ってくれた。

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