話題のグルーヴボックス『Chordcat』先行レビュー デモ機を借りて実際に楽曲を作ってみた

『Chordcat』先行レビュー&楽曲デモを制作

 音楽制作初心者の大きな壁は、コード進行の作成だ。単音のメロディーは鼻歌をなぞるように作れても、複数の音を重ねるコードとなると途端に難しくなる。近年は、コードジェネレーターやMIDIパックの登場により、この課題は少しずつ解消されているが、より直感的な“コード進行作成ニーズ”は依然として存在する。

 このような背景の中、音楽制作の歴史を振り返ると興味深い事例がある。80年代から90年代のハウスミュージックシーンでは、シンセサイザーの「コードメモリ」機能を活用した「一本指コード」という手法が普及した。既存の音楽からコード部分をサンプリングし、指一本でコードを鳴らすこのテクニックにより、直感的なコードを用いた楽曲制作が可能になった。

 その歴史を踏襲しつつ、新たに発展させた音楽制作機材と言えるのが、2024年11月にCDJなどで知られるDJ機材メーカーのAlphaThetaが発表した最新グルーヴボックス『Chordcat』だ。

 独自のコードレコメンド機能を搭載した、「一本指コード」という音楽制作アプローチの“進化系”とも言えるこの機材は、11月11日からMakuakeで先行予約販売を開始。その直後から大きな注目を集め、記事執筆時点(2024年11月25日)で目標金額50万円を大きく上回り、その目標達成率は4395%に到達。約2200万円にも上る金額を集めている。今回はそんな話題の最新機材『Chordcat』の発売に先立ち、デモ機を借りてその実力を検証した。

まさに“どこでも音楽制作が可能”な機材 コンパクト軽量な『Chordcat』

 まず外観から見ていこう。Chordcatは247mm×111mm×33mmというコンパクトな筐体を採用している。実際に手に取ってみると驚くほど軽量で、余裕で片手で持ち上げられる。また、バッテリーは、単三電池6本での駆動に対応し、約5時間の連続使用が可能。USB Type-C給電にも対応するため、自宅での卓上作業から、外出先でのスケッチ作りまで、様々なシーンで活用できる。

 筆者は単三電池ではなく、USB Type-Cポートにモバイルバッテリーを接続し、さらにヘッドフォンアウトにポータブルスピーカーを接続することで、文字通り“どこでも音楽制作”が可能な環境を構築してみた。このようなポータブルなセットアップを構築すれば、たとえば、ツアー時のアーティストが滞在先のホテルで思いついたフレーズを『Chordcat』を使ってその場で形にすることも可能だ。

Chordcatとポータブルスピーカー、モバイルバッテリーによるポータブルなセットアップ

 こうしたポータビリティ面での優位性は『Chordcat』の特徴のひとつに挙げられるが、その最大の特徴はやはり「Chord Cruiser」機能だ。

 約1万種類のコードを内蔵する『Chordcat』は約11万通りものコード進行パターンを生み出すことが可能だ。音楽制作に取り組もうとしたとき、これまではコード進行作成に音楽理論の知識や演奏スキルが必要だったが、「Chord Cruiser」は次につながるコードを自動提案してくれる。

Chord Cruiser機能をオンにした状態。XYパッド部分に表示される緑の四角が提案されるコード。それを押すとコードが鳴り、コード名がディスプレイに表示される

 また、筆者が実際に試してみて、強力だと感じたのが、「Chord Cruiser」とも関連する13種類の音楽ジャンル別コード進行プリセット「Chord Set」だ。この機能では、ハウスやR&Bといったベーシックなジャンルから、ドラムンベースやフューチャーベース、レイヴといった近年人気のジャンルまでのコード進行プリセットをカバーしている。

Chord Setを選択すると筐体のLEDディスプレイにプリセットのコードセットが表示される。(この画像ではハウスに特化したコードセット)。筐体下部の数字が書かれた部分がキーボードになっており、コード演奏モードではそこを押すと指一本でコード演奏が可能

 今回、筆者は実際にハウスを選択して使ってみたが、これがなかなかの優れもの。基本的にはプリセットのコードだけでもいい感じの進行が作れるが、より自分らしい展開を求める場合は「Chord Cruiser」と組み合わせることで、イメージ通りの進行を組み立てられる。つまり、音楽制作初心者であっても「Chordset」と「Chord Cruiser」を組み合わせて使うことで、音楽制作のハードルとなる「コード進行」という課題を手軽に解決できるわけだ。

 また、『Chordcat』の中央上部のLEDディスプレイにはユーザーが演奏したコードが表示される。この視覚的なガイド機能により、実際に鳴らしているコードを目で確認しながら学習できるため、コード進行の理解も自然と深まっていく。特に音楽理論に不安を抱える初心者にとっては、コード進行を学ぶ上で心強い味方となるはずだ。

LEDディスプレイにユーザーが演奏したコード「F#M9」が表示された状態

 同じようにキー/スケール設定機能も強力な音楽制作の味方となる機能だ。この機能では設定したキーやスケールに合った音だけを使用できるため、ユーザーは不協和音の心配なく、安心して演奏に没頭できる。この手の機能は最近のDAWやグルーヴボックスでは、定番機能となっているが、2万9,700円という価格帯で利用できる点は特筆に値する。

 ちなみに目玉機能のコード関連の機能だけでなく、『Chordcat』は他にもユーザーが音楽制作の“沼にハマる”機能が満載だ。アルペジエーター、ディレイ、ダッカー(フレーズの音量変化によってグルーヴ感を生み出す)という3種類のサウンド・エフェクトは、本体右部のXYパッドで思いのままに操れる。ここでは指でなぞることによってリアルタイムでサウンドを加工できるほか、ホールドボタンによるエフェクト状態の固定も可能。これによって小節ごとに異なる表情を持つフレーズも簡単に作成できる。

「アルペジエーター」「ディレイ」「ダッカー」ボタンの上にあるホールドボタンを押すとエフェクトが特定の状態で固定される

 さらにChordcatには、8トラック/16パターン/8小節という本格的なシーケンス機能が搭載されている。そのうちの「Pattern Chain」機能を駆使すれば、作成したパターンを並べてひとつの曲にすることが可能だ。

 コード楽器をアルペジオに変化させ、そこにディレイをかけて壮大なサウンドを作り出す。あるいはビートにディレイをかけてダビーにするといった展開も、思いのままに作り出せる。その他にローパスフィルターやアンプエンベロープによるサウンド加工、パターンのリバース再生や、再生順番の時計回りや反時計回りといった一風変わった方法に変更する「ランニングダイレクション」など、作成したサウンドを自分好みに加工するアレンジ機能も充実している。

16キーパッド上では作成したパターンが入ったパッドには緑のLEDが点灯する。そのパターンを任意の順番で並べていくPattern Chain

 その中で筆者が使ってみて、特に強力だと感じたのはコードの雰囲気を変えるボイシングとフレーズにグルーヴを加えるスウィングといった、サウンドに個性的な表情を付けられる機能だ。これらの機能を組み合わせることで、『Chordcat』のプリセット音色をより自分好みにアレンジしながら楽曲制作が行える。

 このように、『Chordcat』が1台あれば本格的な楽曲制作が可能だ。しかし、そんな『Chordcat』にも制約はある。例えば、一般的なグルーヴボックスが対応しているステップ入力での3連譜の打ち込みには非対応で、リアルタイム演奏のタイミング修正も16分音符固定。

 そのため、3連譜のリズムパターンを作りたい場合は、手動演奏での録音が必要になるが、メトロノーム機能が搭載されているとはいえ、初心者が正確なリズムを刻むのは至難の業だ。

 打ち込みによる正確な3連譜リズムを作りたい場合は、『Chordcat』のMIDI IN/OUT/THRU端子とUSB端子を利用し、外部シンセサイザーやDAWと連携させることで補うことは可能だ。その場合、『Chordcat』のユースケースとしては、コード進行作りに特化させ、ドラムパートは外部ドラムマシン、ベースラインはDAWで演奏するといった外部拡張機能を駆使する形での活用方法が考えられる。

 実際に使ってみると、Chordcatにはたしかに「あったら便利」な機能がまだまだある。しかし、グルーヴボックス未経験者にとっては十分すぎるほどの機能を備えていることも事実だ。また、“コード進行作成に特化したグルーヴボックス”という点では、初心者向けと思いきや、複雑なコードを駆使して高度な楽曲を目指す中級者にとっても即戦力となるポテンシャルも感じた。

 将来的には上位機種での機能拡張に期待しつつも、まずはこの『Chordcat』を使い倒すことで、確実に自分の音楽制作の効率とクオリティがグンと上がることは間違いない。Chordcatはそんな音楽クリエイターの心強いパートナーとなる機材だ。

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