どこまでも自由な“ならず者の日常”に没頭できる幸福 『スター・ウォーズ 無法者たち』に感じた、コンセプトとゲーム構造のベストマッチ

 『スター・ウォーズ 無法者たち』のクリエイティブ・ディレクターを務めたMassive EntertainmentのJulian Gerighty氏は、本作について「帝国軍や反乱軍、ジェダイをテーマとしたものは作りたくなかった。私たちはオープンワールドを舞台に、ならず者やそこにある自由を作りたかった」と語っていたが、作品全体に貫かれたこの考え方こそが、この作品が「スター・ウォーズ史上初のオープンワールドゲーム」であることに強い意味を与えている。

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 本作はいわゆるエピック・アドベンチャーを楽しむ作品ではない。「STAR WARS ジェダイ」シリーズのような、まるでアトラクションのようなスター・ウォーズ体験に没頭することを期待しているのであれば、きっと十分に満足することはないだろう。だが、その代わりに待っているのは、タトゥイーンに象徴される広大なスター・ウォーズの世界に存分に浸ることのできるオープンワールドであり、反乱軍と帝国軍による壮大な戦いを横目に、カンティーナでギャンブルに興じたり、裏社会を牛耳るシンジケートからの依頼をこなしてお金を稼ぐ、一人のならず者としての日常だ。言わば、本作は「スター・ウォーズ」を舞台としたライフシミュレーターである。ステルスアクションなどの見逃すことのできない欠点は散見されるものの、『スター・ウォーズ 無法者たち』はこれまでに数え切れないほどリリースされてきたスター・ウォーズを題材としたゲームの中でも、その点において唯一無二の魅力を持っている。

「スター・ウォーズ初のオープンワールドゲーム」であることの意味を体現したゲーム構造

 『スター・ウォーズ 無法者たち』の最大の魅力は、なによりも「オープンワールド全体にスター・ウォーズの世界が再現されている」ことにある。これまで「ディビジョン」シリーズで真冬のニューヨークや荒廃したワシントンDCを濃密かつリアルに再現し、『アバター:フロンティア・オブ・パンドラ』でゲーム内にパンドラを作り上げたMassive Entertainmentの技術力は本作でも存分に発揮されており、雑然としながらも活気に満ちたカンティーナ(酒場)から広大な砂漠が果てしなく広がるタトゥイーン全土まで、そのリアリティはミクロとマクロの両面において過去の作品を凌駕する。さらに、街を歩けば、レトロなベクタースキャンスタイルのアーケードゲームや、ファジアー・レースやサバックといったギャンブル、その地方ならではの食事や、悩みを抱えていたり密談を交わしたりする人々の姿など、さまざまな娯楽や出来事に遭遇することができるし、街の外をスピーダーに乗って走り回れば、見知らぬ洞窟などのスポットやトラブルの現場を発見することができる。しかも、こうした惑星が一つではなく、いくつか用意されており、自前の宇宙船に乗って自由に移動することができる。

 他の作品ではライトセーバーを振り回したり、反乱軍と帝国軍による大規模な戦争に身を投じる瞬間に「スター・ウォーズ性」を強く感じるわけだが、本作の場合は、ただ歩いたり、スピーダーに乗っている時間こそが最も“スター・ウォーズ的”であると言っても過言ではない。それは、ならず者である主人公のケイ・ヴェスが、とにかくクレジット(通貨)を稼ごうと目論む本作の基本的な構造とも合致する。極端な言い方をすれば、シンジケートたちからの依頼を各地でこなしたり、ギャンブルに身を投じてクレジットを稼いでいるだけでも、本作はゲームとして完全に成立している。そして、そうあるべきなのだ。なぜならここに詰まっているのは「スター・ウォーズのならず者の日常」だからである。

 本作におけるメインストーリーの目的は「銀河の各地で仲間たちを集め、巨大な強盗作戦を成功させる」ことにあり、ケイの立場こそ指名手配者という身ではあるものの、オーダー66発令後の世界をジェダイの生き残りとして逃げ続ける「STAR WARS ジェダイ」シリーズのカル・ケスティスほど逼迫した状況にあるわけではない。ましてやケイは帝国軍と反乱軍のどちらに対してもまったくと言っていいほど関心がなく、どちらが優勢だろうが知ったことではない。ケイにとって、最も心配なのは自身の懐事情であり、とりあえず稼げれば良いのだ。この割り切った考え方こそが、本作がオープンワールドであり、濃密かつリアルに再現された空間がどこまでも広がっているということに最も強い意味を与えている。

 実際、本作のメインクエストだけを進めるのであれば、恐らくは15時間程度でエンディングに到達することができるだろうが、もしそうしたリニアな体験を求めているのであれば、まず間違いなく「STAR WARS ジェダイ」シリーズを遊んだ方が良い。本作リリース後のコミュニティでは、プレイ開始から15時間経っても(本編開始後に到着する)最初の惑星であるトゥシャーラでの賞金稼ぎや探索をやめられずに滞在を続けてしまうプレイヤーが続出しているが、まさにそうした人々にこそ、本作はふさわしい。

 これは皮肉ではないと念押ししておきたいのだが、オープンワールドゲームといえばメインミッションを無視してダラダラと過ごしてしまう時間と不可分だ。その点において、広大なマップと膨大な探索箇所を誇るUbisoftのオープンワールド作品の完成度はとても高い。だが、過去の作品が主人公のバックグラウンドや状況などから「そんなことしてる場合なのか?」というツッコミどころを持っていたり、全体的に似たようなクエストが蔓延している印象を抱かせるのに対して(これはUbisoft以外の作品にも概ね当てはまる)、本作は作品自体がライフシミュレーター的であるがゆえに、ゲームの構造に対する矛盾が少ない。だからこそ、本作ではのびのびとならず者としての日常に没頭することができるし、世界は美しく濃密で、できることは山ほど用意されている。これまでさまざまなUbisoft作品に触れてきた筆者としても、本作は近年の作品の中でも特にゲーム自体の構造と、ゲームが実現しようとしているコンセプトが合致しているように感じられる。

等身大の魅力を持った主人公・ケイと、とにかく可愛いニックス

 そうしたライフシミュレーター的な魅力をさらに力強く補填するのが、主人公であるケイ・ヴェスを中心とした魅力的なキャラクターたちの存在だ。幼少期から一人で生きていくことを余儀なくされ、相棒&ペットのニックスと一緒にならず者として暮らしてきたケイは、依頼主からの裏切りにも動じず、反乱軍からの相談にも肩入れすることのない冷徹さを持つ一方で、仲間の危機となると決して見逃すことのできない優しさに満ちた人物であり、良い意味でスター・ウォーズの主人公らしくない等身大の魅力を持っている。英語版の声優を務めたHumberly Gonzalezも素晴らしいが、日本語版の声優である山口立花子によるクールさとユーモアが絶妙に織り交ぜられた演技とケイのキャラクター性の相性は特に抜群で、個人的にはぜひ日本語音声でのプレイを試してみてほしい。

 また、トレーラー発表時点で、そのセクシーさ(?)から一部のファンで話題となっていたドロイドのND-5も、序盤こそユーモアの通じない、本心を掴むことが難しい印象を与えるが、自身に内蔵された“とある機能”を起点にストーリーの中核に深く関わり、やがてドラマティックな変化を迎えていく。ND-5が辿る物語は、あくまで小規模なものではありながらも、だからこそケイを中心とした本作の世界観と程よくマッチしており、銀河全体に影響を及ぼすような壮大な物語よりも、ずっと共感することができる。本作を終えるころには、ND-5のことが想像以上に好きになるはずだ。もちろん、爆弾魔と呼ぶにふさわしいアンクや、内省的でありつつも調子の良いゲディークなど、他のクルーも十分に魅力的である。

 だが、やはり本作のMVPが、ケイの最愛のパートナーでありペットのニックスであることは疑いようがない。全速力で走るスピーダーの後部座席に必死でしがみつき、銃口を向けると撃たれたフリをして倒れ、他の動物たちを撫でると嫉妬するような動きを見せてくれるニックスは、とにかく「めちゃくちゃかわいい」の一言に尽きる。その異様に細かな作り込みは、恐らくは主人公であるはずのケイすらも凌駕しており、プレイするごとに新たな表情でプレイヤーを楽しませてくれる。

 また、ニックスはアクション面においても極めて重要な存在だ。相手の注意を引いたり、行動を封じたり、トラップを起動したりと、ニックスを活用することによってプレイの幅は格段に広がる。本作におけるアクションパートは、基本的には「戦闘能力に長けていない分、ステルスとアイディアでカバーする」という方針であり、同じくUbisoftの作品である「ウォッチドッグス」シリーズに極めて近い。プレイを重ねれば重ねるほどに、ニックスに対する依存度はどんどん上がっていくし、それは同時にプレイヤーの心境とケイというキャラクターが重なり合うプロセスでもある。この点においても、本作の構造は良くできているし、だからこそ、とある場面で待ち受ける“ニックス不在パート”がストーリー面においても極めて効果的に機能している。それに、世界中を旅しながらニックスの写真を撮るだけでも、本作は十分に楽しい(ある意味では究極のエンドコンテンツだ)。

やればやるほどに気になってしまう、作り込みの甘いステルス・アクション

 ただし、オープンワールドの作り込みや魅力的なキャラクターが全体を支える一方で、細部に目を向けると、気になる点が多いのも確かである。その中でも、最も大きな欠点と言えるのは、ミッションの多くを占めるステルスアクションの作り込みの甘さだろう。

 多くのミッションでは、遮蔽物やトラップが密集した空間に、複数人の敵が配置されているというお馴染みの光景が広がっているわけだが、そのプレイフィールは「ヒットマン」シリーズはもちろん、Ubisoftの看板タイトルとも言える「アサシン クリード」と比較しても、はっきり劣っていると言わざるを得ない。(特にメインミッションでは)敵に見つかって警報を鳴らされてはいけないという制約が設けられることが多いために、基本的には進路上の妨げとなる敵をバレないように個体撃破しながら進めていくことになるわけだが、一見すると自由な発想で攻略できそうな広いエリアだとしても、トライアンドエラーを繰り返すうちに結局は2、3ルートほどに絞られてしまい、結局はリニアな進行を強いられているように感じてしまうことが非常に多い。

 また、ミッション中はマニュアルセーブが制限されるうえ、チェックポイント(オートセーブ)の間隔もかなり広いために、たった一度のミスで10分以上の進捗がなかったことになってしまうことも珍しくない(例えば、『ヒットマン3』ではかなり細かくチェックポイントが用意されており、常時セーブが可能だ)。一見するとイマーシブシム的なアプローチを取っているように見えるが、実はそこまで自由ではなかったり、気軽にトライアンドエラーを繰り返すことができない環境であることに気付いてガッカリしてしまうのである。

 敵をテイクダウンした際の動きについても、まるでマネキンを相手にしているかのような人間味に欠けたモーションが多いために、せっかくステルスを成功させても十分な満足感を得ることができないのも大きな問題だ。もちろん、ケイはアサシンではないため、動きが素人っぽくなってしまうのは当然といえば当然なのだが、それにしても相手のリアクションが悪すぎるのである。細かい点ではあるのだが、本作のメインミッションの大半はステルスアクションで構成されているため、やればやるほど気になってしまう。幅広いアビリティやガジェットが用意されていることを踏まえると、できること自体は多いはずなのだが、レベルデザイン、セーブ周りのシステム、モーションなどの作り込みが甘いがゆえに、かなり損をしてしまっている印象は否めない。

 一方で、銃撃戦については、基本的にはブラスターのみというシンプルなつくりとなっていながらも、さすが「ディビジョン」シリーズの開発元という、確かな手触りと奥深さを感じられる仕上がりだ。ブラスター自体が3つの能力を使い分けられるうえに、特にイオンモジュールについては相手を痺れさせてテイクダウン可能にしたり、ドロイドに撃ち込んで周囲に電撃を放ったりとトリッキーな活用ができるために、想像以上にさまざまな戦い方をすることができる。

 また、相手の武器を奪って使用することもできるだけでなく、アビリティを伸ばせば重火器も使えるようになるため、ゲーム後半では(状況次第では)ステルスに頼らなくとも盛大な撃ち合いで事態を切り抜けられるようになることも珍しくない。一点、ブラスター以外の武器については、基本的に使い捨てかつ移動時に捨てるという思い切った仕様になっているのだが、強化対象であるブラスターの存在が最後まで無意味にならないという点で個人的には納得できる。銃撃戦がメインではないとはいえ、集まってきた大量の敵をさまざまなスキルやテクニックを駆使して一網打尽にするのはやはり楽しく、今後のアップデートやDLCでシューティングパートをもっと楽しめるコンテンツが増えることにも期待したい。

大義とは無縁の、スター・ウォーズの世界で生きていくという物語

 最後に、メインクエストにおけるストーリーについても触れておこう。冒頭で書いたように、本作はあくまでライフシミュレーター的な作品であり、「STAR WARS ジェダイ」シリーズのような、まるで映画を見ているかのような濃密な物語が繰り広げられるわけではない。だが、少なくとも筆者は本作のストーリーを気に入っている。最も重要なのは、本作のストーリーが大義とは明確に距離を置いた、アンチ・ヒロイックなものであるという点だろう。物語が進んでいくにつれて、ケイもまた反乱軍と帝国軍の争いに巻き込まれていくわけだが、それはあくまで金を稼ごうとした結果であり、「反乱軍のために」という大義を抱くような場面は一切ない(後半で“とある有名キャラクター”が登場した際に、ケイがその相手にまったくピンときていないような描写があるが、これは本作のストーリーの方向性を最も象徴している)。そもそもジェダイではないので、どれだけ善行/悪行を積み重ねようが、ライトサイド/ダークサイドとも無縁だ。言ってしまえば、ケイはこれまでの作品の背景に存在していた、物語には一切関わることなく、今後も影響を与えることがないであろう群衆の一人である。そして、それこそが本作特有の心地良さを生み出しているのだ。最も大事なのはニックスであり、仲間であり、あとはお金を稼げさえすれば、それ以上はなにもいらないのである。

 『スター・ウォーズ 無法者たち』は、メタスコアの観点で見れば76点(OpenCritic)という、悪くはないがとても高いわけではないという評価を獲得し、実際のところゲーム・オブ・ザ・イヤーのレースからもすでに外れているであろう作品だ。筆者個人としても、特にステルスアクションパートを筆頭とした欠点が明確に存在することは確かであり、その点に異を唱えるつもりはない。だが、「じゃあ、スター・ウォーズの世界で生きるということをこれほど楽しめるゲームがあっただろうか?」と考えると、その答えはNOだ。現在でも、コミュニティの多くはとてもポジティブな反応を寄せているし、開発者側もその想いに応えようとしている(redditのコミュニティであるr/StarWarsOutlawsを見れば、本作を楽しむプレイヤーの姿をたくさん確認することができるだろう。ちなみに一人のredditユーザーとして断言するが、これは極めて珍しい光景である)。思うに、本作は想像以上に長く愛される作品となるのではないだろうか。

 個人的にも、約30時間ほどのプレイ体験を経て、本作がこの一作で終わってほしくないという感情をとても強く抱いているし、ケイとニックスたちの物語をもっと見たいと切望している。今後のDLCはもちろん楽しみだが、それ以上に、本作の方向性を引き継いだ続編が登場することを願っている。なぜなら、本作ほどスター・ウォーズの世界で過ごす日常を楽しめる作品は他にないからである。

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