オフィスビルやサマソニ会場から日本の文化芸術を世界に発信 大阪・音楽×アートのイベント『MUSIC LOVES ART 2024―MICUSRAT』レポート

 文化庁が主導する、世界的な展開が期待される日本発のアート作品と音楽をコラボさせたプロジェクト『MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT』が、2024年8月25日まで大阪で開催された(千葉でも同時開催)。

 同プロジェクトは、2025年大阪・関西万博に向け、関西を中心とした日本を文化芸術のグローバルな発信拠点とするため、大阪市や周辺企業の協力を得て実施されているもの。

 2023年に京都に移転した文化庁は、2022年から音楽フェス・SUMMER SONICと連携。フェスと同時期にアートの展示「MUSIC LOVES ART」を行っている。

 「Rhythm of Consciousness~意識のリズム~」というコンセプトを掲げた今回のプロジェクトでは、大阪市内の梅田や中之島エリアなど、12カ所で10人のアーティストの作品が展示されているほか、8月17日~18日には、大阪府吹田市にある万博記念公園で開催された音楽フェス『SUMMER SONIC 2024』会場内でも3組の大型アート作品が展示された。

 『MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT』の背景にあるのは、2023年7月に採択された「文化の力で関西・日本を元気に」という共同宣言だ。文化庁・関西広域連合・関西経済連合会・文化庁連携プラットフォームによるこの宣言では、官民一体となって日本の文化芸術の国際発信とグローバル展開にビジネスの観点を取り入れ、戦略的に取り組む「CBX(Cultural Business Transformation)」の推進が強調されている。

 そのため、今回は関西経済連合会や大阪市、地元企業の協力のもと、大阪市内では大阪駅構内や広場、オフィスビルのロビー、エントランスなど普段はアート作品が展示されない場所で展示が行われている。

 たとえば、梅田周辺エリアの大阪ステーションシティ(JR大阪駅)では、witnessによる音楽と視覚芸術の融合を体現する作品「Spread Flowers」や、CDジャケットのアートワークも手がけるMASAGONによる空間インスタレーション作品「HELLO!!! "MASAGON WORLD"」が展示されている。また、淀屋橋エリアのダイビル本館では、1階エントランススペースと2階屋外スペースに、渋田薫による音楽と視覚芸術の境界を探る作品「Singin' in the Rain」、「ミライムジーク」、「Tenor」が展示されるなど、この2エリアでは、音楽をテーマにした作品や、音楽シーンとも関係性が深いアーティストによる作品が多数見られる。

 そのほかにも、中之島フェスティバルタワー・ウエスト3階では、今年のMICUSRATのテーマである「はんえい」に基づいた作品である「はん/えい#1・ #3」が展示されている。同作品は、大谷陽一郎が"はん"と"えい"と読める約50種の漢字を用いて波紋を表現したものだ。また、元々スーパーマーケットだったという同タワー地下1階特設ブースでは、檜皮一彦による約70台の車椅子を積み上げて構築した立体作品「HIWADROME_TypeΔ_SPEC3」が展示されている。

 さらに堂島リバーフォーラム4Fギャラリースペースでは、voidによるLEDビジョンを使用して制作された光の時間彫刻作品「transitory images」、Art Beat Cafe NAKANOSHIMAでは、COIN PARKING DELIVERYによる現代の疑問や理想を反映した「UNTITLED No.1・No.2・ No.3」といった作品が展示されている。

COIN PARKING DELIVERY「UNTITLED No.1・No.2・ No.3」

 一方、令和6年度「日本博 2.0」採択事業の一環として連携した万博記念公園の『SUMMER SONIC OSAKA』会場では、久保寛子によるブルーシートを使用した彫刻作品「やさしい手」、奥中章人による空気、水、太陽光を融合させたインスタレーション作品「INTER-WORLD/SPHERE: The Three Bodies」、ディジュリドゥ奏者としても知られるGOMAによるフラッシュバックペイント技法を用いたインスタレーション作品「ひかりの滝」といった作品が展示された。これらの大型アート作品は、音楽目当てのフェス来場者に予期せぬアート体験を提供し、音楽とアートの融合の可能性を示した。

GOMA「ひかりの滝」

 また、同会場では8月17日の夜にGOMAとドローンショーを企画・運営するRED CLIFFによる、ドローンと花火を組み合わせたパフォーマンス「ひかりの世界・阪栄の火の鳥」も公開された。夜空を舞台に約150メートルにわたって1000台のドローンの光が広がるこのパフォーマンスは、手塚治虫の「火の鳥」にインスパイアされた"再生"と"はんえい"をテーマにしたもの。日本初の花火を搭載したドローンショーは、未知のアート体験を来場者に提供した。

「ひかりの世界・阪栄の火の鳥」

 『SUMMER SONIC OSAKA』会場を視察した都倉俊一文化庁長官は、このプロジェクトについて、「若い日本のアートの才能と世界に発信する音楽を融合させた」と説明。日本の伝統文化や工芸の重要性を強調し、その伝統を受け継ぐ現代アートシーンで活躍する日本の若い芸術家を国として応援する意向を示した。また、アートと音楽を「今後、日本が世界的に参入すべき2つの柱」と位置づけ、すでに推進しているCBXのさらなる展開を宣言。今後の具体的な施策として、日本の芸術家のビジネス意識の変革や言語の障壁を克服する取り組みをはじめ、予算措置を含むさまざまな支援を検討していることを明らかにした。さらに2025年に開催を控える大阪・関西万博では、文化庁がカルチャーイベントを主導する予定であることも語った。

 今回の『MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT』は、文化庁が経済界との連携を通じ、文化とビジネスの融合を実践的に示すことで、新たな文化政策の方向性が提示されている。また、日本のアートや音楽のグローバル展開の足がかりとしても重要な役割を果たす。特にSUMMER SONICのように国際的に注目を集める音楽フェスとの連携は、日本のアートを世界に向けて効果的に発信する上で大きなメリットがあると考えられる。

 今後、このようなプロジェクトがモデルケースとなり、日本各地で文化芸術を核とした地域振興や国際交流が活発化することが期待される。また、文化政策においてビジネス視点を取り入れるCBXの考え方が定着していけば、日本において持続可能な文化振興の仕組みが構築されていくだろう。今回得た知見が活かされることで、日本の文化芸術がさらなる発展を遂げることを期待したい。

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