Tango Gameworksの事業継承は「三方よし」を継続できるか 次作に求められる、より一層の“らしさ”

 KRAFTONは8月12日、Tango Gameworksの事業を継承すると発表した。

 5月にスタジオの閉鎖が発表されて以降、Tango Gameworksの去就には大きな注目が集まっていた。KRAFTONから差し伸べられた手によって、同スタジオはようやく存続、さらには次なる作品の開発に動き出すことになる。

 KRAFTONによるTango Gameworksの事業継承は、当事者、ゲームカルチャー、ユーザーの三方にどのような意味を持っていくのだろうか。

多数の高評価作品を擁するTango Gameworksの存続が決定

『Hi-Fi RUSH™(ハイファイ ラッシュ)』PS5®ローンチトレーラー

 Tango Gameworksは、日本に拠点を置くゲームソフト開発スタジオだ。2010年3月、カプコン在籍時に「バイオハザード」シリーズのディレクターなどを務めた三上真司氏によって設立された(当時の社名は株式会社Tango)。同年10月には、「The Elder Scrolls」シリーズ、「Fallout」シリーズなどで知られるアメリカのディベロッパーのゼニマックス・メディア(以下、ゼニマックス)によって買収されている。2020年、ゼニマックスがMicrosoft傘下となって以降は、同社のソフトウェア開発部門・Xbox Game Studiosの一員として歩みを進めてきた。

 主な開発作品は「サイコブレイク」シリーズや『Ghostwire: Tokyo』『Hi-Fi RUSH』など。感度の高い一部のフリークには、ジャンルをまたいでも安定してクオリティの高い作品を送り出しつづけるクラフトマンシップが高く評価されていた。しかしながら、2024年5月、Microsoft傘下のパブリッシャーであるベセスダ・ソフトワークスから、突如スタジオの閉鎖が発表に。“消滅”の可能性もちらつくなか、界隈では今後の動向に注目が集まっていた。

PSYCHOBREAK 2 – ローンチトレーラー

 一方のKRAFTONは、韓国に本社を構えるゲーム企業。2018年、同国でゲーム事業を展開してきたBlueholeの持株会社として設立された。主な開発/発売作品は、『TERA』『 PUBG: BATTLEGROUNDS』など。韓国国内では、売上高でNexon、Netmarbleに次ぐ業界3位、営業利益/純利益でNexonに次ぐ業界2位の位置につけている(※)。

 プレスリリースによると、KRAFTONは今後、Tango Gameworksの人気タイトル『Hi-Fi RUSH』のIPを確保するとともに、同スタジオの法人化と開発人材の雇用承継を進めていくという。なお、今回の事業継承について、Microsoftは「Tango Gameworksの方々がKRAFTONで挑戦し続けることができるように、積極的に支援する」と約束しているとのこと。言葉から受け取れる範囲では、可能なかぎり前向きな形で、Tango Gameworksの存続が確定した。

※2023年度の決算を参照。

一致した三方の思惑。これまで以上に期待される、“らしい”作品の登場

Ghostwire:Tokyo - 公式ローンチトレーラー

 先にも述べたとおり、Tango Gameworksは、知る人ぞ知る気鋭のディベロッパーだ。最初に注目を獲得したのは、デビュー作であるサバイバルホラー『サイコブレイク』という作品だったが、その後、シリーズの続編である『サイコブレイク2』、新規IPのアクションアドベンチャー『Ghostwire: Tokyo』、おなじく新規IPのリズムアクション『Hi-Fi RUSH』と、ポートフォリオを重ねるたびに、同等もしくはそれ以上のインパクトをシーンに与えてきた。閉鎖のニュースが大きく話題を集めたのは間違いなく、同スタジオの今後の活動に注目していた人が多かったからだろう。であるからこそ、KRAFTONによる“救済”に胸をなでおろしているフリークも少なくないように思う。

 KRAFTONの母体であるBlueholeはもともと、『TERA』というMMORPGが成功したことで台頭したゲーム企業だった。しかし、その後はヒットと呼べる作品になかなか恵まれず、長く不遇の時を過ごしてきた経緯がある。風向きが変わったのは2017年。開発/運営する『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(現『PUBG: BATTLEGROUNDS』)が旋風を巻き起こしたことで、韓国ゲーム業界のキープレイヤーへの復権を果たした。同作はその後も支持を継続。今日では、バトルロイヤルシューターのジャンルをトレンド化させたタイトルのひとつにも数えられている。こうした背景に後押しされ、2023年度には1兆9,106億ウォン(執筆時点のレートで約2,100億円)という過去最高の売上高を記録した。

『 PUBG: BATTLEGROUNDS』無料プレイサービス開始:ゲームプレイトレーラー

 以降、KRAFTONは、『PUBG: BATTLEGROUNDS』に並び、同社の看板となれるタイトルの開発/発売を模索している実態がある。2024年初頭には、新作タイトルのリリースを毎年続けていく方針を盛り込んだ「Scale-up the Creative」戦略を発表。1年目となる今年は『Dark and Darker Mobile』や『inZOI』『Dinkum Mobile』『Project Black Budget』『Subnautica2』といったタイトルをそのラインアップとして紹介している。しかし、それらが『PUBG: BATTLEGROUNDS』に匹敵するような成功を収められるかは不透明であると言わざるを得ない。最も期待できると考えられる『Dark and Darker Mobile』でも、“大きすぎる代表作”に比肩するのは難しいと考えるほうが自然だ。

ダークアンドダーカーモバイル 1stトレーラー

 今回のTango Gameworksの事業継承は、2つ目の看板を模索するKRAFTONの思惑の一部であると考えられる。『Hi-Fi RUSH』IPのコンテンツ化、まだ見ぬ新作の開発/発売を通じて、今年、さらには来年以降に、『Dark and Darker Mobile』と同等、またはそれ以上の期待値を持つタイトルの創出を狙っているのではないだろうか。

 その意味において、少なくともTango Gameworksは、先に期待の持てるゲームスタジオであることに間違いない。そのような組織が消滅を免れたことは、KRAFTON以上に、ゲームカルチャー全体やユーザーにとって意味のある出来事となっていくはずだ。

 その一方で、もし今後、Tango Gameworksの過去の作品の続編が開発/発売されることがあれば、その方向性や出来がKRAFTONによる事業継承の評価軸となっていく。すでに明言されている『Hi-Fi RUSH』に関連する新たなプロジェクトは、そのファーストステップとなるだろう。ゲームカルチャーやユーザーの視点から望まれるのは、それらが“Tango Gameworksらしさ”を失わず世に送り出され、同様に輝きを放つことに違いない。一人のフリークとして、これ以降、KRAFTONの名に悪い意味で焦点が当たらないような展開を望んでいる。

 KRAFTONによる事業継承は、どのような結果へとつながっていくか。Tango Gameworksが送り出す次の作品に注目したい。

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