正式リリース版『7 Days to Die』の成功は業界への問題提起に? 見習うべき開発陣の“執念深さ”

『7DtD』成功は業界への問題提起に?

 7月26日、『7 Days to Die』(以下、『7DtD』)がついに正式リリースを迎えた。

 「永遠に終わらないアーリーアクセス期間」が不名誉な代名詞となっていた同タイトル。満を持して迎えた正式リリースは、ゲーム業界にどのような意味を持っていくだろうか。

アーリーアクセス開始から10年以上。ようやく正式リリースにたどり着いた『7 Days to Die』

7 Days to Die - 1.0 Gameplay Trailer

 『7DtD』は、アメリカのインディーディベロッパー・The Fun Pimpsが開発/発売を手掛けるオープンワールド・サバイバルクラフトだ。舞台となるのは、第三次世界大戦で壊滅したアメリカの架空都市・Navezgane(ネーブスジェーン)。この地区には、核爆弾の影響によって出現したとされる大量のゾンビが生息しており、7日に一度の特別な夜「ブラッドムーンホード」には彼らが襲撃してくることになっている。ゲームの目的は、荒廃した世界で1日でも長く生き残ること。プレイヤーは日々のサバイバルから得た物資や、それらを材料に作り出したアイテムを頼りに、ゾンビの襲撃へと立ち向かっていく。

 『7DtD』は、2013年12月にPCプラットフォームにてアーリーアクセスがスタートした。その後、2016年6月にはPlayStation 4版、Xbox One版もパッケージ/ダウンロードにて発売されている。これまでに施されたメジャーアップデートは20回超。アーリーアクセスの開始からは10年以上の時が経過している。そのような経緯から、界隈では「正式リリースを迎えないまま、サービスが続いていく」との見方が強まっていた。

 正式リリース日決定のアナウンスが行われたのは、2024年4月のこと。当初、The Fun Pimpsは発売時期を2024年6月に設定していたが、そのタイミングでは、Ver.1.0がテスト配信されるにとどまっていた。そこからさらに1か月が経過し、ようやく正式リリースを迎えた形だ。

 対応プラットフォームは、PlayStation 5、Xbox Series X|S、PC(Steam)で、価格は、PlayStation 5版が44.99ドル(※1)、Xbox Series X|S版が5,250円、Steam版が4,900円となっている(価格はすべて税込)。“未完”と見られていた大作が、ついにひとつのチェックポイントへとたどり着いた。

※1…国内向けのPlayStation 5版は、CEROによる審査の関係で発売時期が延期されている。表記した価格は海外版のもの。

正式リリース後の評価は上々。同接プレイヤー数はローンチ以降で最高を記録

 満を持しての『7DtD』の正式リリースを、界隈はどのように受け止めているのだろうか。Steamプラットフォームの非公式データベース・SteamDBによると、正式リリース決定のアナウンス以前、同タイトルの同時接続プレイヤー数は3万前後で推移していたが、告知が行われると同時に人口が急増。2024年4月28日には、ローンチからの10年超で最多となる10万5000を記録した。その後は熱が冷めるように右肩下がりの経過を見せたが、6月末のVer.1.0のテスト配信後には、ふたたび10万の大台を突破。正式リリース後の最初の週末にあたる7月28日には、過去最高の12万5000を記録している。

 プレイヤーの評価は上々。Steamプラットフォームにおけるユーザーレビューでは、直近30日間で79%が「おすすめ」とし、上から4番目(中央値の1つ上)のランクである「やや好評」へと分類されている。全期間では(上から2番目にあたる)「非常に好評」という評価を獲得しているため、一見すると、正式リリース版が相対的に不評のようにも映るが、このなかには話題性に惹かれて手に取った層も多く含まれるものと推測できる。あと1%で1つ上のランクに分類されることを踏まえても、上々の滑り出しであると考えられるのではないだろうか(※2)。

 先にも述べたとおり、界隈では『7DtD』のアーリーアクセス期間が長く続いたことで、「正式リリースを迎えることがない」「(正式リリースを迎えたとしても)話題性が先行した、中身のともなっていないタイトルとなる」という見方が強かったと感じている。その意味において、同タイトルは大方の予想をくつがえし、一定の成功を手にしたと言えるだろう。

 その背景には、The Fun Pimpsの柔軟な開発姿勢も好影響を与えたように思う。『7DtD』はこれまでの長いアーリーアクセス期間のなかで、何度もゲーム性を変化させてきた。もし当初の方向性のままでの進化を目指していたら、広く評価を獲得できるタイトルとはなっていなかった可能性がある。長きにわたって『7DtD』を遊び続けている熱心なファンのなかには、数千時間というあまりにも長いプレイ時間を費やしている人も存在する。同タイトルが前向きな変化を続けてこなければ、「正式リリースを迎え、一定の成功を得る」という結果は得られなかったに違いない。

※2…レビューに関連する数値はすべて、記事執筆時点のもの。

『7 Days to Die』の成功が業界のトレンドに放つメッセージとは

 PCプラットフォームでは昨今、「アーリーアクセス期間を経たのちに、正式リリースを迎える」という販売手法がひとつの定石となりつつある。その一方で、想定していた評価が得られなかったり、開発が難航したりといった理由から、本来であれば、未来に約束されていなければならないはずの正式リリースを迎えず、市場から撤退するケースも後を絶たない。このように事例が積み上がっていくことで、やがては一連の流れが“業界の悪習”となっていく可能性もある。

 今回、『7DtD』が満を持して正式リリースを迎え、さらに一定の評価を獲得していることは、業界のトレンドに対する問題提起となっていくのかもしれない。マーケット/カルチャーの豊かさのために、誰もが挑戦しやすい風土が大切であることは認めたうえで、現代を生きるゲームディベロッパーは、The Fun Pimpsの“執念深さ“のようなものを見習うべきなのではないだろうか。

 また、私は過去、『The Day Before』の騒動について執筆した記事のなかで、アーリーアクセスの是非についても論じている。興味がある方は、ぜひそちらの記事の内容も参照してほしい。

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