ゲーム配信は“職業病”で難しい!? 『FF14』とワインがつなぐ、吉田直樹×立花慎之介対談

忘れられないアルフィノの“落ち込む”演技

――おふたりは違った立場から『FF14』をはじめとしたゲーム作りに携わっていらっしゃいますが、そのなかで大切にしていることや、変わらないスタンスのようなものがあれば教えてください。

吉田:立花さんはどうですか? そういえば、僕は収録のディレクションをしないので、アルフィノについてどうのこうのと、話したことないですね(笑)。「演じていただいてありがとうございます」とは常にお話していますが、何ヶ月かに一度“アルフィノに戻る”というなかで、心がけていることはありますか。

立花:最初のころは難しかったところがあって、いまと比べてボイス量が絶対的に少ないということでした。当時は『FF14』をやっていなかったのですが、ボイスを収録する部分は本当にムービーの大事な一部分しかなくて……台本も全部だと長すぎるので、当時は部分ごとにもらっていて、「ここはこういう感じ」と説明されながら汲み取って膨らませていました。それに、ボイスが少ないと、次のバージョンまでに半年ほど間が空いたりするんです。そうすると、「前回どうだったっけ」となりますし、僕のボイスがないところで物語が展開して、 キャラクターたちは成長してるんですよ。その成長をどこまで反映するのか、というところですね。

 あと、『FF14』の難しいところは時間軸です。時間の流れが明記されていないので、そこをどの程度表現するか。「どの程度やりましょうか」「前のままでいいですか」というディスカッションが最初に必要でした。でも一方で、『FF14』のすごいところは、ちゃんと説明してくれるところなんです。「この場面は前にこういうことがあって、この状態で、いまはこういう状況でここに来ています」と明確にしてくれるので、お芝居はすごくしやすいんです。サポートをすごくしっかりしてくれる制作体制なので、難しくても1回始まればスムーズに行く感じではありました。

 ボイス量が増えていくと、物語は必然的に分かってきますし、アルフィノは中心人物としていろいろと関わってくることも多いです。そのなかで自分もゲームを始めることによって、ボイスされてないところが補完されて、どんどんやりやすくなっていって、『暁月のフィナーレ』の最後に差し掛かったときにはすんなり収録に入れました。その積み重ねは大事だったなと思います。

 でも、一番難しかったのは、『新生エオルゼア』の終盤で1回心が折れるところ。自分のミスで一気に落ちてしまうところがあり、本当にボイス量も少なかったので、 どこまでやっていいのか、どこまで落ち込んでいるパターンなのか、収録は大変だった記憶があります。

吉田:あのときの僕は、開発現場でボイスを待っている側で、ボイスデータを組み込んで演出の最終調整をしたのですが、とにかくびっくりで。最初に聞いたときには感激しました。演技に感激しましたし、やりたかった挫折が表現されていたんです。アルフィノはすべてにおいて優秀で、別に悪気があったわけでもなく、素直に平和を……と考えていた。でも、どうしても“上から”なところがあって……。そのすべてが崩れ去った時、「人はこんなにも脆いんだ」というのも出したかったし、そこでオルシュファンが温かい飲み物を持ってきて……というところをやりたかったんです。あのときのアルフィノの「私は……」という一言の落ち込み具合は、絶対に忘れないです。

 それがあってから、『暁月のフィナーレ』ではエスティニアンとプレイヤーに「ありがとう。これだけは言っておきたかったんだ」と。このふたつのセリフ、いまでも並べて聞くと……ダメですね、涙腺が。

立花:『暁月のフィナーレ』では、台本を読んでいる段階でフィナーレすぎて。「こんなにすべて回収していくの?」って家でひとりで感動していました。これはすごいなと。

吉田:当時、なにかの機会でお会いしたとき、「これ終わっちゃいませんか? 大丈夫ですか?」とおっしゃっていましたよね。

立花:しかも、イキり切っていたアルフィノの「エンタープライズ、発進!」を、ラグナロクで回収するという……。この流れ、「本当にすげえな!」と思っていました。

吉田:アルフィノは『新生エオルゼア』では頼まれてもいないのに「エンタープライズ、発進!」と言っていたのに、『暁月のフィナーレ』ではプレイヤーに選択肢が委ねられたうえで、「ここはアルフィノに」と言ってもらえますもんね(笑)。

立花:これだけ長くストーリーとして続くゲームは多くないんですが、そのひとつに声優経験のなかで携われたことは本当にうれしいです。

吉田:アルフィノは、まさに主人公ですからね。

――立花さんからご覧になって、吉田さんの仕事ぶりで印象的なところはありますか。

立花:なんでもできるんだな、と思います。昨今、ゲームの配信番組にプロデューサーやディレクターが出るということは多くなってきていますが、しっかりユーザーの支持を得て、自分もちゃんとゲームができるという方は少ないんじゃないでしょうか。それだけでもすごいのに、さらに麻雀を打って、歌を歌って、Xのトレンドに入る。こんなプロデューサー、なかなかいないですよ(笑)。プロデューサーとしての引っ張っていく強さと、ユーザーに望まれるような姿も頑張って見せようとしてくれる。そんな姿を見ていると、「自分も頑張らなきゃ」となりますし、やっぱりすごい人だと思います。

――「なんでもできる」という意味では、本日出演された『17LIVE』のようなライブ配信サービスでの配信もできるのではないでしょうか。やってみたい配信などがあれば教えてください。

吉田:いまはサラリーマンなので、配信をするというわけにもいかないんですが、ゲーム開発を引退したら、何かしら配信してみようかなとは思っています。ゲーム配信もいいのですが、「こんなことで困っているんだけど、どうしたらいい?」みたいな日々の悩みを解決するのも好きなんです。仕事全般でもゲーム作り全般でも、そんな話ができたらいいなと考えていたりします。

 ゲーム配信については、やりたいんですが、たぶんそのゲームの仕様が気になっちゃって、ゲーム自体が進まない気がするんですよ……。「なんでこここうなった?」って、家でゲームをしていてもそうなんですよ(苦笑)。

立花:元デバッガーの僕も、ついデバッグしちゃいますね。

吉田:しますよね? たとえばキャラが木箱を乗せたり降ろしたりしても、「この挙動、どうしてこの仕様なんだろう? もうちょっとちゃんと判定したほうが気持ちいいと思うんだけどな……何か理由があったのかな?」みたいな感じです。これ、ゲーム開発の方からすると迷惑だと思うんですよね……。

立花:もう、職業病ですよ。僕の場合は極力、そうした部分が配信では出ないようにしています。やるなら配信外で(笑)。

吉田:「このセリフ、語尾をもっと丸めたほうが気持ち入ったのに」みたいな……でも、ダメなんですよ(笑)。ゲームしながらブツブツ言われたら、ゲームを作っているみなさんの迷惑になるでしょうし、やりすぎるとバグが出てしまうかもしれない。将来、ゲーム配信をするなら気を付けたいと思います。

立花:配信に関して、僕は前々からやろうと思いつつ、全然時間がなくてできてないのが、子育て勉強会の配信です。いま娘が5歳なので、同世代のいろいろなママさんパパさんから教えてもらいたい。知りたいこともたくさんあるんだけど、知りたくてもなかなか聞けない環境だったり……。「ママが言ってることがよくわかんないんだよね、パパ」っていう人がいっぱいいると思うんです。僕もそうですから。そういう悩みを共有しながら解決したり、ちょっとでも家族仲が良くなったり、夫婦仲が良くなったりするようにしたいんです。どうせなら、声優業界とはかけ離れたところのユーザーとつながりたいな、とは考えたりしています。

吉田:たしかに面白い。まったく違うジャンルの方々が集まりそうですね。

立花:そうするとまた違うつながりができて、違うものが生まれてくる。異文化交流が好きなんです。

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