羊文学「Addiction」MVはなぜiPhoneで撮影されたのか 制作陣が語る“カメラ”として進化するスマホの実力

羊文学、全編iPhoneで撮影したMVの舞台裏

Blackmagic Cameraでは細かい設定も自在に調整可能

ーー続いてBlackmagic Cameraの使用感など、技術的な部分のお話を伺えればと思います。今回は、Apple Logで撮影されたのでしょうか?

 
鴨谷:Apple Logで撮ってますね。iPhone 15 Proの4K ProResです。タイムコード同期はしてないんですよ。以前の取材で、便利な機能だということはわかったので、今度複数のカメラが入るときは使ってもいいなと思っています。たとえば、ライブで何台かのiPhoneで撮る場合などに使うと便利そうですよね。

ーー現状だと、1台ずつRECボタンを押しているのでしょうか?

鴨谷:各々で押してました。1つ押したら全部連動する機能があったらすごく便利ですよね。今回のMVでも採用している「バレットタイム」という演出では、たくさんのカメラで被写体を取り囲んで撮影するんですが、すべてのカメラが紐づいていたら楽ですね。

 結局カメラが複数台あると、全部の設定を一つひとつ合わせるのが面倒なんですよ。たとえばBluetoothで同期して、1台設定したら他のカメラも全部それに倣ってプリセットで設定できるようになったらいいですね。

ーーApple Logでの撮影後の編集は、永澤さんが行っているんですか?

 永澤:Adobe Premiereでやっています。データ形式はProResですね。

ーーこれだけ素材が多いと、編集に取りかかるまでの準備がまず大変そうですが、素材の管理はどうされているんですか?

 鴨谷:カメラを借りた会社さんにデータの取り込みをお願いした際に、一緒にプロキシに変換してもらいました。

 永澤:それが僕に届いたときにはプロキシに紐づいていました。その後の作業はすべて僕がやりましたね。

 ーーグレーディング(色合いやトーンの調整)は、どのような方向性で行ったのでしょうか?

 永澤:僕としては、シネマカメラや一眼と遜色がないくらいのものを目指しました。一眼とiPhoneが曖昧になるような画質感・色感ですね。オルタナ的なギターサウンドや声だったので、10〜15年前のオルタナを放出させたような色感をイメージしています。

 ーーBlackmagic Cameraの良い点は、どんなところでしょうか?

 鴨谷:1番のメリットは、設定が細かく行えるところですね。普通のカメラと同じように扱うことができます。それ以外で言うと、本当はタイムコードの機能を使えるともっと良いと思うんですけどね。


ーー今回は128GのiPhoneでのProRes 4K撮影で、すべて内部ストレージで記録されたと思いますが、外部SSDを使った方がいいシチュエーションはありますか?たとえばMV撮影で言うと、どれくらいの容量が必要なのでしょうか。

鴨谷:128GのiPhoneで24フレームで撮ったとすると、1時間強しか記録できないので、MV撮影をするには不十分ですね。多くの曲が4分前後で、1曲フルで撮るだけでもそれだけ使うとなると、15テイク分しか撮れないですから。SSDがあった方が安心です。

 それに前回クラウドにアップロードするのに少し苦労したんですよ。SSDだとそのままデータを転送できますから、あとはプロキシを作って監督に渡すだけなので便利ですね。ただSSDをつけると大きくなる分、どこにでも入れるiPhoneのメリットがなくなってしまうから、一長一短ではあります。電源に関しても、Vマウントなどの大きいバッテリーから給電してSSDに繋ぐとしたら、もう完全に普通のカメラと同じですよね。

ーー今回撮影で使ってみて、iPhoneとBlackmagic Cameraを使った新たな表現のアイデアは浮かびましたか?

菅井:複数台のカメラを気兼ねなく導入できることは、いろんな可能性が広がるなと思います。

永澤:ライブだったら活用シーンはたくさんありそうです。今後羊文学のライブ撮影をする機会があって、「Addiction」を演奏するならば、撮影は今回の手法でやってみたいな、とか。もっと何十台もカメラを入れて、いろんなテストができたらいいなと思いますね。

鴨谷:今ぱっと思いついたもので言えば、ワンカット撮影はおもしろいかもしれないですね。レック中にレンズを切り替えることができるし、iPhoneはフォーカスが強くて、この辺とかプロクサー入れずにできますから、その幅を使ったワンカットものとかね。あとは近距離のアングルから、遠くのアングルまで、1台でワンカットで撮るのもおもしろいかもしれません。普通のカメラだと難しいことが、アイデア次第で実現できそうですね。

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