知られざる宇宙強国・スイスの技術と日本との繋がり、そして未来への展望

 1969年、アメリカは人類初の有人月面着陸を果たしソ連との宇宙開発競争をリードした。星条旗が月に立てられた瞬間は、アメリカにとっても、人類にとっても感動的で衝撃的な瞬間だった。

 だが、星条旗よりも前にスイスの技術が月に設置されたことはあまり知られていないかもしれない。実は、ベルン大学が開発した「太陽風の粒子を収集するアルミ箔のシート」が真っ先に月に置かれたのだ。

 そのシートによって、太陽風の構成要素の詳細が判明し、ベルン大学は一気に知名度を上げ、以来、スイスは自国に専門の管轄機関を持たない小国ながら宇宙開発において存在感を発揮し続けている。

 在日スイス大使館が主催するメディアツアーに参加したリアルサウンドテックは、そんなスイスの宇宙開発における取り組みに迫った。

スイスの強みは高い技術力。大学や研究機関を中心にボトムアップで発展

 スイスは欧州宇宙機関(European Space Agency 以下ESA)の参加国で、主にESAのプロジェクトに関わってる。だが、前述の通りNASAとは古くからの関係が築かれているし、JAXAとの連携も強い。

 例えば、日本の国産ロケットである「H3」のペイロード・フェアリングと呼ばれる 先の部分、いわゆる人工衛星をのせる部分はスイスの企業「Beyond Gravity」が作っている。

Beyond Gravityのフェアリング
ベルン大学の一角に置かれた太陽風の粒子を収集するアルミ箔のシートのブロンズ像

 それに、ESA主導でNASAやJAXAも協力している木星氷衛星探査計画「JUICE(ジュース)」に搭載する質量分析計をベルン大学の研究チームが開発している。

「JUICE」のレプリカ

 2023年4月に打ち上げられた「JUICE」探査機は、木星を調査することによって「太陽系がどのようにしてできたのか」を解明することを目的としている。木星の周りを公転する4つの天体を調査することで、生命発見の可能性にも期待されていることから、最も注目されているミッションのひとつだ。

パーツが作成されている施設

 ベルン大学には、機材が揃った施設があり、そこでミッションに使われるパーツが作られている。

大きな機械を操作する学生

 ロケット打ち上げによる振動に耐えられるかを確認するための「振動シミュレーション実験」も同施設内で行われている。

振動をテストする機械。激しい揺れと轟音が発生する

 アルベルト・アインシュタインが学び、のちに教鞭をとったことでも知られる名門のスイス連邦工科大学チューリヒ(以下ETH Zurich)では、2022年までNASAの科学部門責任者を務めたトーマス・ザブーケン氏を宇宙研究所所長に迎え、宇宙研究と教育の拡大に力を入れる。

NASAの科学部門責任者を6年間勤めたトーマス・ザブーケン氏。JAXAとの付き合いも長い

 

同大学では、月や火星探査での活躍を期待するロボットも開発されている。

「ANYmal(アニマル)」は不安定な足場でもバランスを崩さない。むしろ「転倒させるのが難しい」とのこと

 ETHZからスピンオフしたスタートアップ企業ANYboticsによる「ANYmal」と、すでに無重力飛行での無重力テスト合格済みの3本脚で跳ねる「SPACEHOPPER(スペースホッパー)」、ヤモリの手の原理を用いて垂直移動も可能な「MAGNECKO(マグネッコー)」だ。開発チームには日本人留学生も参加している。

ネコの動きから着想を得た「SPACEHOPPER」
垂直移動できる「MAGNECKO」

 これらロボットは、探査車と比較するとかなり軽量であり、なおかつ身軽である。そのため、月や火星といった足場が不安定な場所の探査が期待できるという。

 宇宙開発は大学や企業に限った取り組みではなく、国策でもある。だが、それは国が研究機関や企業にトップダウンで指示するのではなく「あくまでボトムアップだ」とスイス連邦教育研究イノベーション庁(SERI)のヴァレリー・コラー氏は言う。研究者の自主性と創造性が尊重されるからこそ、多様な研究テーマが追求されている。

 そして、自主性を持った人々を求めているからこそ、次世代の教育にも力を入れているそうだ。

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