連載:作り方の作り方(第十二回)

『愛のハイエナ』はテレビマンとしての“勘”から生まれた 『有吉の壁』など手がけた演出家・橋本和明が放送作家・白武ときおに明かす「エンタメへの欲望」

人間のリアルをエンターテインメントに落とし込む

白武:ご自身のなかには「刺激的なものを見たい」という欲求はありますか?

橋本:刺激的なものというよりは、リアルであることが大事だと思うし、自分もリアルなものを見たいと思います。その上で一番重要なのは「人の面白さをわかりやすく伝えること」だと思ってるんですよ。たとえば『有吉ゼミ』ならヒロミさんが具体的にどうリフォームをするのかをわかりやすく伝えるとか。

 『愛のハイエナ』であれば、山本裕典さん。圧倒的に面白いわけです。酔っ払って本音をさらけ出す様とか、悔しがる人間性とか。それでいて向上心があって、鬱憤もあって。複雑にできあがっている人じゃないですか。僕がこだわるのは、そんな山本さんの人間性をどう描けば観る人に伝わるかということだけ。

白武:なるほど。山本裕典さんの人間性と企画がハマるって思えて、そこにベットできるのが凄いです。

橋本:『有吉ゼミ』の裏テーマって「芸能人も生活者である」ということなんですよ。リフォームもするし、別荘も買いたいし、片づけもする。「芸能人」って括ってるけど、当然、同時に生活者でもあるわけで。そこにリアルなものがあると考えたのが、『有吉ゼミ』を作ったときのコンセプトです。

白武: 『有吉ゼミ』は演者さんが本気でやってるのが伝わります。自分のおいしいネタをYouTubeでなくテレビに出してくれる信頼関係も凄いなと。

橋本:ありがたいですよね。リアルを追求するというポイントは、ネットでコンテンツを作る際にも大切にしています。ホストの人にもセクシー女優さんにもリアルな世界があって、それをリアルなまま、どのようにエンターテインメントにして伝えるかという能力が、制作者にとって大切だと思っています。

白武:『有吉ゼミ』のように丁寧に描いている、日本テレビのVTRは何気なく流れててもついつい見てしまいますね。『有吉ゼミ』以前ってそういう芸能人の生活に根ざした描き方をする番組はあまりなかったんですか?

橋本:芸能人の生活を描くものはあっても、制作者の意図が強く入っているものが多かったと思います。「こういうキャラクターで怒ってほしい」とか「こういうイメージにしたほうが面白い」とか。でも観る人はそういう意図されたものに興味がなくなってきているし、嫌ってきているじゃないですか。

 だから面白いものを見つけ出して、制作者の意図をなるべく薄くした状態で提供することが、いまの時代のコンテンツにおいて大切だと思っています。

白武:人間のリアルを描くという点では、『有吉ゼミ』も『愛のハイエナ』も同じ意識なんですね。

エンタメのこれからの時代を一番いい席で見たい

橋本:白武さんにご連絡をしたのは、いまどんな人たちが放送作家として出てきていて、何を作ろうとしているのか。それは自分たちが作ってきたものとなにが違うのか。そういうことを知りたかったからなんですよ。

 僕がTikTokのコンテンツを作る会社(株式会社QREATION)を始めたのも、TikTokクリエイターがどんな人で、どういう感覚で作っているのか、そこにすごく興味があったからなんです。

白武:それは「ハックしたい」みたいな感覚なんですか?

橋本:というよりも「ワクワクしたい」だけですね。自分が一緒に作ったりなにか発見したりしたらワクワクするし、知識欲や成長欲が満たされるから。

 もし失敗してみじめな思いをしたとしても、それでいいと思ってるんです。それよりも、新しくやりたいことを形にしたときに見える景色のほうが大事だから。30代のころはもっと、自分自身が名を上げたい気持ちとかがあったんですけどね。

白武:有名になりたいとか、認められたいといった気持ちがあったんですね。

橋本:そうですね。でも年を取ると、自分自身がどう見られたいかよりも、誰かがいい動きをしていたときとか、チームとしていいものを作れたときに喜びを感じるようになってきたんですよ。

 これから10年経ったら、55歳になって、そのとき僕はもう現役じゃないかもしれない。でも、いま作っているものの正解がわからなくても、なにができるかわからなくても、一緒に作るなかで正解を見つける人が出てくるかもしれないから、みんなでやったほうがいいよねと思うわけです。

白武:チームでいいものを作る喜びはテレビにありますね。作家よりやっぱりディレクター陣のほうがよりそれを味わってるなと思います。ゴールデン番組だと100人とかになると思うんで、そんな大人数を束ねて作っていく経験はしたことないし、それをレギュラーでやっていくっていく重圧というか求められる能力、作業量は想像もできないですね。

橋本:僕は誰かの足がかりのひとつかもしれないけど、それでもいい。テレビのいい時代を10年くらい過ごさせてもらいましたから、これ以上は図々しいだろうと。だって、テレビの面白いことは全部やらせてもらったと思ってますから。

 『ヒルナンデス!』で大掛かりなロケをやったり、『有吉ゼミ』や『有吉の壁』を作ったり、『24時間テレビ』の総合演出をやらせてもらったり、テレビというもののすごさや迫力を全部味わってきました。だから(鈴木)おさむさんが放送作家を引退した気持ちもちょっとわかるし、本当に悔いはないんだろうなあと。

白武:でも橋本さんは、まだやりたいことがあるんですもんね。

橋本:そう。まだ、新しい景色を見て知りたいと思っちゃうんですよ。デジタルの世界で何が起きるのか。テレビとデジタルコンテンツの新しいコラボはできないのか。新しい配信サービスはなにを生み出していくのか。映像を観る人間の欲望自体はどこに向かっていくのか。新しい芸能界はどんな新しい秩序を作っていくのか。そういうことを見てから死にたいっていうのがあるから、わがままを聞いていただき会社を辞めたんです。

白武:納得感があります。でも、日テレに居続ける選択肢もあったわけじゃないですか。新しい世界に踏み込むにも勇気が必要ですし。

橋本:勇気を持って踏み込んだというよりは、いまの時代にエンターテインメントの世界でいろんなことが起きている様子を、一番いい席で見たい欲望が強いんですよ。変わっていくものを見ながら、ああだこうだ苦しみつつも楽しく生きたいんです。だって、一度しか生きられないんだから。

白武:その生き方は「ずっとしんどいな」とは思いませんか?

橋本:ずっとしんどいですよ(笑)。でもこれはもう、性質ですよね。ずっとしんどさを抱えながら楽しむのが好きな人もいれば、安定しているほうがいい人もいる。人それぞれです。僕はこれからもずっとしんどいと思いますけど、そのほうがアドレナリンが出るし、楽しいし、生きている感じがするんです。

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